第6話 零から全へ、支配と破壊

 状況の変化が激しく移り変わる。


 その中で大量に消費をしているのが上杉の方だろう。


 上杉の脳処理は1ランク上を行く。


 脳の速度が神経を超え、的確な答えを先駆ける。


 そのカロリー消費は非凡の域であり、大量の糖分を摂取したが、それも著しく消費させた。


「ぐッ!!?」


 加速するフィールドの変化こそ状況を変えていく。


 野生の桜井は何も考えていない。


 上杉がリードをし始める中で、桜井の動きに上杉が付いてこれなくなってくる。


 それでも、上杉は一歩も退かない。


 彼の体はとうに限界を超えていた。


 愚父のスパルタ指導で細身を削り取られ、毎日が辛い困難な状態、そして、2日ばかりの十分な睡眠、もし、睡眠だけでも毎日が満足に取れていれば脳の負担も少なかっただろう。


 愚父は無能で短気で、周囲に迷惑だけを掛ける。


 そんなゴミを止めれない権力者は無能以下と言えるだろう。


 権力で上に行けば行くほど無能が蔓延る世界と命を掛けて戦い続ける有能の世界、上杉の脳が限界に達した。


「ぐあぁッ!!?」


 脳が完全停止したような錯覚を味わう。


 まるで突然死のような感覚とでも言えばいいのだろうか?


 視界が急に真っ暗になった。


 目は開けているはず、眼球を通って光が伝達されるが、脳がそれを処理していないのだろう。


「み、見えない………な、何も見えていない………!!?」


 上杉が無防備を晒すと桜井は容赦なく攻める。


 上杉は全てを使い果たして文字通り『零』となったしまったのだろう。


 桜井は感じ取っていた。


 上杉がただの抜け殻になったのを感じ取っていた。


 もう、この獲物は瀕死なのだということを感じ取ったのだ。


「終わりだ上杉!!」


 桜井が上杉を抜き去ろうとした時、上杉は何も感知できなかった。


 無防備に得点を取られ始める。


(なんだ? 何が起きている?)


 何も感じないはずの世界で、『何か』を感じ始める。


 もう、何も脳が感じない世界で何を感じ取る?


「お、おい………何してんだよ上杉!!」


 無能なチームメイトに呼びかけられる。


 そこに友情は存在しない。


 存在するのは己の名誉、夢、欲望だけだ。


 無能は他人を当てにしてしまうものだ。


 天才がいれば無能はそれに乗っかり、分前を貰う。


 税金と同じだろう。


 身勝手で見苦しいゴミみたいなものだ。


「お前がやらなきゃ誰がやるんだよ!!」


 上杉の心は零となっていた。


 呼びかける声が私利私欲でしかない。


 無能はいつでもそう。


(邪魔するなよ………)


 上杉の脳は何かを感じ始めていたが、無能なクズ共の所為で零の世界に怒りが現れ始める。


「やっぱり、上杉がいたら負けるんだ。最低だな。お前………」


 上杉の脳は何か重要なことを感じ始めていたが、周囲の無能共がそれを阻害し始める。


 人が夢を見る時、その夢を奪う者が存在する。


 そして、それを無能共が美味しくいただく。


 そういうことを繰り返して無能は生きていく。


 良かれと思ってやっている猿共にとっては、それがベストだと思い込む。


 しかし、真の理は、もっと深く深淵の中にあるのかもしれない。


 そこに辿り着けそうな気がしたが、人の世とは無能でできている。


 上の人間がしっかりしていれば、悪人も正しく捌くだろう。


 善人ばかりを死刑にし、私利私欲のために口封じする。


 悪事を行う人間を尊重し続ける無能が王にならなければ、もっと上の世界に行けただろう。


「黙ってろ!! クソ雑魚共が~~~~!!!!」


 意識が半分戻った時、上杉は質量を感じなくなっていた。


 まるで、重さの概念が欠落したかのように体が軽く、周囲からは異常な程、速く動いているように見えただろう。


 上杉に取っては、気が付いたら目的地に体が居たという感覚だろう。


 己の体重が零になったような感覚、それとも、本当に零となったのか?


 そして、見える残像、それを追いかけてくる間抜けな味方と敵、1秒先の世界が見えている。


 その予測は『完璧』となって処理されている。


 脳の処理が1ランクではなく2ランク上がったのだろう。


 単純に考えれば、『3回行動』になるはずだろう。


 しかし、人間の速度には『限界』がある。


 詰まり、『限界』を『完全』に把握し、『支配(コントロール)』し始めたのだろう。


 三回行動は不可能だ。


 だが、敵の限界値を割り出すことなら可能だ。


 詰まり、相手の行動回数が『-1』されたと言うことになる。


「な、なに? まるで、僕がここに来るのをわかってたみたいに動いている!!?」


 桜井が攻撃を仕掛ければ仕掛ける前に上杉に予測され、桜井が自分から上杉にボールを渡しているように見える。


 無能な周囲にはそう見えるだろう。


「何をやってるんだ!! この馬鹿息子が!!」


 桜井のプレイが余りにも滑稽で端から見ている無能共には何が起きているのかもわからないのだろう。


 上杉の脳はとっくに限界を超えて超人の域に達している。


 脳が全制御(リミッター)を解除した世界も見てみたかったが、それが叶わないのは無能なお前らの所為だ。


 上杉は冷静であるが、脳はその怒りに半分支配されていた。


「ぐふッ!!?」


 上杉が急に味方を殴り始めた。


「邪魔………」


 覚醒を妨げた代償は大きいということだろう。


「これで後は、勝つだけだな………」


 上杉の味方は誰もいなくなった。


 コートに寝っ転がってるだけ、審判が交代を要求する


 交代した選手も嫌悪感を感じれば上杉は容赦なく殴打した。


 気が付けば大人しい選手だけが残っていた。


「これでやっと本気が出せそうだ………」


 その光景を目の当たりにする桜井、しかし、桜井は臆した訳では無い。


 逆に羨ましくも思えた。


 そして、始める。


 『流水の動き』


 母親が残していった本の中に『流水の極意』というものが存在した。


 それを読んだ時は適度に理解した気になっていた。


 だが、今の上杉は違う。


 桜井は簡単に抜かれてしまい。


 尻もちを付いてしまった。


「なんて情けないガキなんだお前わ!!」


 桜井の父親が煩くなってきた。


 一方的に破れ始める桜井に我慢できない桜井の愚父、上杉が笑っていう。


「なんだ? あんなゴミが親なのか?」


 それを聞いた桜井の愚父が上杉に驚く。


「な、何だと!!?」


 桜井も驚いている様子だが、上杉は止まらない。


「なんなゴミ、さっさと片付けてこいよ。あんな無能は邪魔なだけだ。早くしろ、俺は本気のお前と決着を付けたいんだ。」


 その言葉に桜井は己の愚父を見てしまう。


 桜井と目があってしまう愚父、上杉の『脳』は『全て』を『支配』してしまう。


 いや、脳が全てを支配しているのではないのかもしれない。


 体の質量が感じない。


 幽体離脱でもしているのだろうか?


 そして、他人に己の魂を繋げているのだろうか?


 全てを支配した上杉は支配のレジェンズへと消化している。


 繋がった一本の魂、上杉の方が叫ぶ、『野生を解き放て』と、桜井の魂がそれに呼応し始める。


「うぅぅうぅぅぅうぅ………」


 桜井が静かに唸り始めた。


 今まで封じ込めていた遺恨が解き放たれようとしている。


 無能によって鎖で閉じ込めていた真の自分と戦っている。


(ダメだ!! 本気を出すな!! 俺が本気を出したら………どんな奴も壊れてしまう!!)


 桜井が必死で己を押し殺そうとする。


 そんな中で上杉がこんな事を言う。


「あんなヤツ壊してさっさと俺を壊しに来いよ!! お前は俺には勝てねぇ!! このクソ雑魚野郎が!!」


 力ではない。


 怪力の桜井が清々しい程に吹き飛ばされた。


 『屈辱』


 自分よりも非力だと思っている奴にふっとばされたのだ。


「うがぁぁあああぁぁああああああああああああああああああああ!!!!!」


 ふっとばされて全てを開放した桜井が煩わしい愚父を全力で払い除ける。


「ぐふッ!!?」


 愚父の胸部は複雑な形になっていた。


『ゾクッ』と走る恐怖と戦慄、上杉はスリルを求めてしまった。


 このまま勝っても面白くないと、互いのリミッターが全て外れた。


 この戦いが終わった時、二人の脳は永遠に制御を架すこととなるだろう。


 そう、この伝説となった戦いの彼らは二度と現れたりしない。


 二人の笑みが妖笑を浮かべているようだ。


「あは、あはははは!!!」


 桜井が妖笑する。


 鬱陶しい愚父を黙らせたためだろう。


 無能は上に立たず、大人しくしていればいい。


 天才を推薦して、私利私欲を抑えておけばいい。


 天才の邪魔をする無能と天才だと思い込んでるゴミなお前らと、悪人と戦うこともできず奴隷となり働いているゴミ共、結局、悪人のために働き、悪と戦う者を支持できない臆病な雌がいれば、無様に男性不信を招く運命で詰まらん男にまたを広げる。


 そして、無能の子を孕み、愚父が己の子供に虐待する。


 滑稽すぎて笑みが出てくる。


 だが、お前は違う。


 お前も俺も愚父を打ち、全力で打つかり合える。


「うは、うっはっはっはっは!!」


 上杉も呼応して妖笑漏らし爆発させる。


「来い!! 桜井!!」


 桜井が全力で上杉を攻撃した。


 無論、反則だ。


 しかし、上杉はそれを予測していたのか、身を捻って受け流し、桜井の背に背を合わせて押した。


 その時、ボールを奪い取る。


 どこまで支配すれば気が済むのか、桜井は簡単に受け流しボールまで奪う上杉に歓喜した。


 上杉が『脳』と『精神』なら桜井は『身体』と『野生』、桜井の『ある部位』が膨れ上がる。


 次の瞬間、上杉は桜井の動きが支配(コントロール)できなかった。


 気が付けば体が吹っ飛び、ボールも奪われていた。


 そして、コートも凸凹ではなく、『破壊』されていた。


「あれ? もしかして、『支配』してた空間でも『壊れた』のかな?」


 桜井は野性的にそれを感じ取っていた。


 全てに憑依し、思うままにしていたためか、コートが破壊された時、心に穴が空いた気分を味わう。


 思わず不敵な笑みが溢れた。


「おもしろい………」

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