第5話 完璧vs野生

「痛ッ!!? な、なんだ!!?」


 上杉のチームメイトが桜井の足跡に躓く。


 それを確認して驚いた。


「な、何だよこれ!!?」


 肝心の桜井は、その足跡を巧みに使って加速し、方向転換する。


 S字を描き、ジグザグに動けば自由自在である。


「アクセントが様々だ!!? 数式ですべてを表せない!!?」


 次々と変化するフィールドに合わせて、桜井の行動力も複雑化する。


 バウンズパスも理論式を大きく超え始める。


「何が起こっているんだ!!?」


 上杉以外の理解が追いついていない。


「ちッ!! お前ら!! もっと膝を曲げろ!! 死ぬぞ!!」


 上杉の言葉にチームメイトが何を言っているのかわからなかった。


「いやいや、何いってんだよ? それに、一番弱いお前が、俺達に指図してんじゃねぇよ!! ぐふッ!!?」


 上杉の言ったことは指図でもなんでも無い。


 身の安全は自分でなんとかしろということ、親切から忠告したまでだ。


 膝を曲げなかった選手はふっとばされてしまった。


「ファ、ファール………」


 しかし、膝を曲げたところで結果は同じ、桜井の怪力により、一人の選手が病院送りとなった。


「あのバカどもがと言いたいところだが、思った以上にやばいな………」


 上杉が構えれば桜井の突進を回避する。


 まともに止めれば大怪我は必至、上杉の攻めが完璧なら、桜井の攻撃は別の意味で止めれない。


 そして、それは、防御にも言えることだ。


「クソ!! こっちはまともにドリブルもつくことができねぇ!!」


 上杉がドリブルをしても凹凸となったフィールドがボールを予想外の方向に弾ませる。


「ナイスパス………」


 上杉のドリブルが桜井の方向に弾む。


「なぜだ………なぜ、やつはドリブルができる!!?」


 理系の上杉にとっては野生の勘というものがわからなかった。


「ちッ!! 調子に乗るなよ!!」


 上杉が桜井のシュートを手で止める。


 桜井は自分のシュートを止める存在に驚いた。


 しかし、それは驚くだけで何の障害もなかった。


 そのまま手を押しのけてシュートを決める。


「ぐわッ!!?」


 上杉は桜井の怪力を体験した。


 このフィールド相手では、零も無意味だろう。


 しかし、上杉は零に覚醒していることも認識していない。


 ただただ、勝手クソ親父を殺したい。


 そして、その感情も封じ込めている。


 試合に没頭して忘れたい。


 クズが沢山いる中で、多大なハンデを抱えて勝たなければならない。


 そこらのゴミ共は勝ったことに喜ぶだろう。


 しかし、そこには必ず、有能な人間が影に隠れている。


 その有能な人間は勝っても喜ばない。


 無能は勝利を喜ぶ傾向にある。


 安心して欲しい、誰でも勝利に喜ぶのが普通でもあり、無能でもある。


 無能は味方の御蔭で勝てたことをさも自分が超頑張って勝ったんだと思い込むものだ。


 肩書だけが軍師のゴミ人間も勝利で喜ぶ、しかし、真の軍師は誰も喜んだりしない。


 多少は喜ぶものだろう。


 しかし、諸葛亮も韓信も軍師となったが、勝利を喜んだりしなかった。


 無能には、軍師の心などわからないものだ。


 肩書だけが軍師の人間なら、大いに喜ぶだろう。


 軍師の喜ぶ瞬間を知るものは少ない。


 諸葛亮も韓信も勝利を収めたからと言って喜ばない理由、勝利など小さなことだと理解しているからだ。


 勝利を馬鹿みたいに喜ぶのはゴミクズ人間だけなのが人の常である。


「どうした? お前は笑わないのか?」


 上杉が桜井に言った。


「笑う? 何を?」


 桜井は勝利ではなくその言葉に笑った。


 上杉が言う。


「ああ、お前は笑わない。俺と同じ目をしている………」


 桜井には、何が言いたいのかわからなかった。


「俺もお前と同じということだ………」


 上杉の脳内で出ている答えが一つだけあるとすれば、桜井が上杉と同じであるということだけだ。


「だから………」


 なにかに取り憑かれて、弱みを握られ、果たさなければならないものがある。


 そこに心はなく、喜怒哀楽も超越している世界が広がるだけだ。


「悪いけど………」


 勝つことをただ喜ぶ者達がいる中で、勝っても笑えず、ただ開放されたいだけ、両雄の目に喜怒哀楽は存在しない。


 クズ親父に命令された勝たなければならない。


 ちっとも面白くもない。


 しかし、二人の心には誓いがある。


 優勝したらクソ親父を殺してでも開放されよう。


 その決意が勝ちへの執念となる。


「勝つのは俺だ!!!」


 上杉が一括すると『脳』が活性化する。


 桜井が仕掛ければ上杉は完璧にそれを『止める』と『同時』に相手からボールを『奪い取っていた』。


 桜井は何が起こったかわからなかった。


 『攻防一体』の『二回行動』、上杉の攻めが理想となる。


 凸凹のコートで完璧にドリブルをする。


 脳の処理速度が1ランク上がったのだろう。


 しかし、桜井が床の凸凹に手を掛けて以上なスピードで迫り来る。


 脳処理が追いつかない中で桜井が背後から迫る。


「お前が『俺』に勝てるわけ無いだろ!!」


 この頃の桜井は俺と言う。


 桜井が後ろから異常な跳躍力で上杉の上を行く。


「貰った~~~!!!」


 一歩間違えれば上杉が大事故に遭う。


 しかし、『完璧のレジェンズ』に昇格した上杉にとって、常人の苦難など、何でも無い。


 空中で桜井に体を預けて受け流した。


 刹那の時間であるが、それが可能となる。


 動画で存在する『完璧なプレイ』、今の上杉はそれを普通に熟してしまう。


「き、決まった~~~!!! 空中で相手に体を預けて、う、後ろも確認しないで受け流した!! す、すごすぎるよ!!」


 その後、上杉の快進撃が始まる。


「だ、誰か、やつを止めろ!!」


 上杉に敵5人の選手が襲いかかる。


 逃げ場はどこにもない。


「ファールしててもいい!! その選手を止めろ!!」


 無能の監督がよく指示を出す。


 そのセリフを聞いてファールを強要される弱き存在たち、しかし、完璧の上杉には何の意味もない。


 5人が一斉に攻撃をしてきた。


 無論、避けることは不可能だ。


 だが、上杉の脳は人が通れない隙間でもするりと通り抜ける。


「な、なんだ!!? ど、どうやってすり抜けたんだ?」


 桜井も驚いている。


 答えは簡単だ。


 桜井の単身を利用したに過ぎない。


 そう、そこを通ったのだ。


 桜井にはよくわかっていた。


 己の体の小ささを………


 そして、それは利点でもある。


 その利点を上杉が逆に利用しただけだった(クリスタルバスケ本編参照)。


「シュート!! また決まった~~~!!!」


 オタクが実況する。


 周囲の観客も開いた口が塞がらない。


「す、すげぇ………!!」


 当然だ。


 完璧なプレイを毎回見ることができる。


 それも目の前でリアルタイムに、こんな試合を見てしまえば、どんな動画を見ても驚くことはないだろう。


 5人を相手にたったの一人だけの選手が完璧に受け流されてしまう。


 床が凸凹であり、ドリブルすると敵選手の手に当たり、最終的には上杉の手にボールが戻ってくる。


「あ、あれは神か!!?」


 上杉の鮮やかで華麗なプレイが人々に衝撃を与える。


「す、すごすぎる………!!」


 人はこの試合に神を見て理想を見る。


 そして、至高を見た。


 審判も自分の立場を忘れて観客となっていた。


 悪質な行為をいつまでも完璧に受け流して点を奪い取る少年の姿に驚いた。


「す、すごい………すごいね………」


 桜井が初めて人に関心を持った瞬間でもあるだろう。


「そんなにすごいなら………僕も本気でいかせてもらうよ………」


 桜井が両手をコートに付けて構える。


 桜井が上杉に『突進』をする。


 単純な攻撃だが、上杉が良ければ得点、受ければ病院送り、しかし、今の上杉は『攻防一体』の『二回行動』、突進を避けながら匠にボールを奪い取ってくるだろう。


「フン、くだらん技だ。今の俺にそんな技が通用するとでも………?」


 そう、通用するはずがなかった。


 だが、上杉の思考を遥か先へと行く。


「な!!? ど、どこまで………い、いや、こ、これは………!!?」


 桜井が消えた。


 そう、桜井の単身だけが許された世界、敵の股をくぐり抜けた。


 上杉には、桜井が消えたようにも見えただろう。


 そう見せるために、股をくぐる瞬間、フェイントを入れる。


「おもしろい………」


 喜怒哀楽を忘れた二人が呼応して笑みを浮かべる。


 バスケが嫌いな者同士だが、そんな二人が笑みを浮かべた理由など、誰にもわかりはしない。


『勝つのは俺だ!!』


 呼応するのは笑みだけではない。


 言葉も同じだ。


 桜井が必殺技を仕掛ける。


「僕の必殺技を見せてあげるよ!! 『ヘブンリーアース・ビーストエンド』!!」


 強く舞い上がったボールはそのままゴールに向かって落ちるだけ、しかし、ゴールを確定させるために桜井が姿を消す。


 そして、そのままボールを捕まえてダンクシュートを決める。


「なるほど、最高点を超えた時、シュートを邪魔すればペナルティとなる。止めるのは至難の業だな………」


 だが、上杉は負ける気がしなかった。


「それに、名前が長すぎだ………」


 しかし、伝説の戦いは引き分けとなる。


 桜井に勝つことも不可能だ。


 だが、桜井は負ける気もしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る