第3話 自分が強いと思い込んでるお前らと『零』への覚醒

 毎日、毎日、寝る時も油断できない上杉にとって、チームメイトの価値観が鬱憤だった。


 初めて、身の危険を案ずること無く眠ることができた。


 本当は、もっと睡眠を取りたい。


 頭の真髄ではズキズキと痛むが、その痛みにも慣れた。


 老後には、のうのうと生きてるゴミどもよりも動けない体になるかもしれない。


 しかし、そういうゴミどもよりも物事を見極める力は持てただろう。


 と言っても、無能な人間が9割りと溢れた世界だ。


 この国の未来は期待できそうもない。


「大会優勝して『クリスタルトロフィー』を手に入れるぞ~~~!!」


 上杉のチームがくだらないことで盛り上がっている。


 クリスタルトロフィーとは、クリスタル大会の参加資格みたいなもので、クリスタル大会を優勝したものには、どんな願いも政府が叶えてくれると言われている。


 そして、クリスタル大会は高校生の大会、詰まり、高校側はクリスタルトロフィーを持った選手が欲しくなる。


 クリスタルトロフィーを持った中学生は学費免除などを約束されて引き抜こうとする。


 しかし、悪いこともある。


 それは、クリスタルトロフィーを奪い取る学生もいるということだ。


 学校側はクリスタルトロフィーさえあれば良い。


 逆に、クリスタルトロフィーを失った選手は見向きもされなくなる。


 そう、強敵に狙われることにもなるのだ。


「いいか? 上杉にはパスをするなよ? 上杉はチームプレイをしないからな!!」


 チームの主将が権限を乱用している。


 チームプレイをしてないのは主将の方で、上杉の方がチームに貢献している。


 しかし、上杉は相手にしていない。


「寧ろ、こんなクソみたいな環境で俺がレギュラー入りしたことにも奇跡かもな………」


 主将が監督の目を盗んで嫌がらせをしてくるが、監督は上杉を出したがるために上杉は試合に出ることができた。


「上杉くん、君のお父さんが来てないのは珍しいね………病気にでもなったのかな?」


 監督が上杉に尋ねると上杉が返答する。


「父親が居たら俺の判断が鈍るので、居ないほうが良いですよ………」


 監督は上杉の返答に笑うしかなかった。


「はっはっは、きっと熱心なお父さんなんだよ………」


 上杉は内心呟いた。


(無能監督が………)


 上杉にとって、監督の評価はこうだ。


 クリスタルトロフィーを手に入れる。


 そのためなら、強い選手を出したい。


 真意は分からないが、欲望に溺れたデブと思っている。


 正義という字がどうやってできたかもわからない無能共は隠蔽、改ざん、保身、などに走る。


 もし、この監督が正義を真に知るなら、上杉の父親を教育するだろう。


 しかし、それをせずに父親を熱心と評価する。


 いい印象はない。


 当たり前だ。


 無能からすれば、それくらい許せと思うかもしれない。


「ああ、上杉にはパスを出させない。これで、アイツが目立つことはないな。」


 試合が始まると他の4人は上杉にボールを回さない。


 敵チームは得点を重ねていくが、上杉のチームは未だに無得点、上杉がフリー(必ずシュートが打てる位置取り)に何度もなっている。


 しかし、パスは来ない。


「ちッ、くだらんことをしてくれたな!!」


 上杉は味方からも攻撃を受けている。


 その上に、味方がとても弱い。


 ボコボコに得点を取られてもチームは上杉にパスを出したりはしない。


 そう、彼が攻撃的になれないのは、チームからも攻撃を受けているからだ。


 逆転するためには失点されてはならない。


 だが、そんな状況下でも上杉は勝たなければならなかった。


 世の中には、味方の所為で負けたとか、味方のせいにしてるやつは成長しないとか、くだらんことばかり言っている。


 味方のせいにするやつは一生上手くならない。


 そして、問題があるクソザコも自分本位の意見ばかりだ。


 クソザコはこういう。


『なんで勝手に戦うの? 俺を待てな良いのに!!』


 クソザコに合わせて戦っても一生攻めない。


 守ってばかりのゴミ人間だ。


 他人のせいにしてるやつも成長しないが、ずっと守ってるやつも成長しない。


 上杉は無能な味方を抱えてプレイしてきた。


 だが、無能のために守っていても無能は得点を取ってこないし、敵の得点も止めれない。


 このゴミ共のために完璧に守っていてもダメだ。


 上杉は母親が残した本を手に取った。


 そこで価値観が変わったのだ。


『真に勝利を手にする者、即ち、敵を確実に攻めれること、味方が襲われる場所を理解しているのなら、そこで待ち構えよ。』


 上杉はチームにいつも不満があった。


 チームが俺にパスを回せば勝てる。


 そう思っていた。


 しかし、無能は負け続ける。


「あいつら馬鹿だな。負けるのになんで前に出るんだ?」


 そんなことは猿や無能がよく言うことだ。


 上杉は、味方がボールを奪われた瞬間、敵からボールを奪い取ったのだ。


「な!!?」


 上杉の脳は異常なエネルギーを消費することになる。


 しかし、それでも得点に繋げることができた。


「な、なんだ今のは!!?」


 実況と解説が驚いている。


 それもそうだ。


 解説は上杉のチームが負ける負けるとしか言っていない。


 しかし、その負ける場所に忍び込み、勝利に変えたのだ。


「お前らゴミ共が負けてばっかだから俺が苦労する羽目になるんだよ!! あれが欲しいなら俺にパスを出せ!! わかったかゴミ共!!」


 上杉の激怒は勿論、チームから反感を買う。


「な、なんだと!!? 一番弱いくせに!!」


 しかし、上杉にとって、チームから反感を買おうが、どうでもいいこと、上杉は家にあった砂糖を2袋も持って来といた。


 脳のエネルギーは糖分、無能の負ける場所を予測し、無能の失敗を尻拭い、そして、点を取る。


 あちこちで負ける無能達の動きは読みやすい。


 しかし、不安要素が多すぎて一瞬でも気が抜けない。


 頭がオーバーヒートする前に、飴を密かに舐めていた。


 とにかく、糖分を摂取して戦った。


 飴は呼吸の妨害をしてくるために、最悪飲み込む段取りでもあった。


「あ~、やってられね~な!! 無能はこうやって支えられてはのうのうと生きていて、税金だけを喰らってるんだな!! 税金やらで生きてる人間がどれほどの足手まといなのかまで見えてきちまった。俺はまだ学生だぜ………このクソ雑魚共が!!」


 上杉の思い描く未来図は最悪のものだ。


 いつも負けるゴミ共、不景気でも増税するゴミ共、そういうゴミが百戦百敗を死ぬまで続けてくれる。


 おまけに、そういうゴミ程、分前を多く取っていく。


「あの本にはなんて書いてあったっけ? 人類は欠陥品が9割だ。奴らは頭もお花畑で、負けても勝ったと思いこんでいるゴミだとか、夢だけをみている猿だとか、肩書だけが立派で戦いになれば保身ばかりの雑魚だとか、肩書が立派な人材には注意しろとか書いてあったか?」


 上杉が勝手にせめて負けるゴミのためにパスよりも速く走った。


 あれでは体力が持たないと無能は言うだろう。


 その状況を作ってるのはそんなことをのうのうと言える無能たちだと言うのに、誰も己を見つめ直さない。


 ゴミ人間を4人も抱えているというのに、それに気付くこともできない。


 上杉はなぜ、こんなにも苦労しなければならないのか、そう考えてしまった。


 クズ親父や無能な監督のためになぜ、俺が頑張らなければならないのか?


「バスケとか人間ってクソなんだな………」


 そう思ってしまった時、上杉の足が止まってしまった。


 世の中には、絵空事を描く無能が沢山いる。


 ミスディレクションだとかで負け戦を勝ちに変える。


 馬鹿らしい。


 無能が沢山いる中で負け戦を勝ちに変える時、どれほどの苦労がいるかも知らない。


 上杉が味方の無能さにブチギレる。


「くだらん………」


 怒りを通り越してすべてを無視し、得点を奪い取っていた。


 上杉がこの時、『零』に目覚めていたことにも気づかなかったという。


 休憩時には、隠し持っていた大量の砂糖と水を摂取する。


 余りにも、無能共が掌で踊り始めている世界観に少しは楽しめただろう。


 無能は所詮滑稽な生き物で負け続けるだけ、上杉は同じチームの主将の隣に立っていた。


 そして、気が付けば主将の腹部に膝を入れていた。


「ぐはッ!!?」


 上杉の感情も『零』となっていた。


 いや、違う。


 異常な脳の酷使が、彼の体を勝手に動かしていたのだ。


 それが、後に伝説の戦いで昇華する切っ掛けとなる。

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