第11話
聖堂から歩いて三十分はかかる
その一室で、
「ーーーー……」
…………耳鳴りがする。
上体を起こし、隣の三津流を横目で見るも、特に異常はなさそうだった。
「………………」
……静か過ぎると思った。
夜の影響もあるだろうが、それでも、何の声も聞こえないのは少しおかしい。
ーーーーだが、耳鳴りは
時折近くで。時折
耳鳴りにしては生き物のようでーーーー。
そこに思考がたどり着いた時、裕祇斗は無意識に呟く。
「…………鳴き……声……?」
キィィイイン!と
『ーーーーグルル』
「ひっ……!!」
小さな悲鳴にはハッとして、裕祇斗が
「三津流!」
「裕祇斗様…!!」
裕祇斗は三津流に駆け寄る。
「どうした?!」
「お、狼が……っ」
「狼……?」
三津流に言われて辺りを見渡してみても、それらしきものは見受けられない。ただ、グルルと
裕祇斗は腰に差していた剣を引き抜いて獣の声に集中する。
すると、グルル、グルルと部屋のあちこちから聞こえてくるのが分かった。
……二、……いや、三匹はいる。
裕祇斗は三津流を背後に
自分の
グルル……と唸る声に神経を
『ーーーーまそ……う』
「!!」
その声と重なるようにガゥッと獣が叫び、気配が上に移動する。ーーーー飛び付いてくる、と
「…………くっ」
少しだけ
「裕祇斗様っ!左!!」
「……!!っ」
刹那、左腕に鋭い痛みが走る。
「……ちっ」
ポタ、ポタと血が
『…………
はっとして裕祇斗が顔を上げる。すると、顔前に
「ーーーーーー」
「……っ……!裕祇斗さまぁ!」
三津流の悲鳴に似た叫びが、どこか遠くで聴こえる。
剣を構えようと腕を上げるも、この距離では絶対に間に合わない。
「ーーーーっの、!!」
『キャン!!』
突如、
「…………な……」
「ーーーーバカかお前。コイツら、いくら倒したって意味ねーよ」
「テヌート……っ」
三津流が涙声でその名を呼ぶ。
テヌートも三津流を見返すと口を開いた。
「三津流。お前は
少し厳しい声でそう
「で、でも……っ。裕祇斗様がっ」
「…………コイツは大丈夫だ。獣ももう視えてる。ーーーー早く行け」
三津流が裕祇斗を見る。裕祇斗が安心させるように頷いてみせると、三津流も一つ頷いて今度こそ
それを横目で見た後、裕祇斗は深く息を吐き出した。
そして目の前のテヌートに視線を戻す。
裕祇斗の記憶では確か、この屋敷に到着した時、この男は部屋で休んでると聞かされていた。
忠文の話では、芽依が屋敷を出た直後に倒れ、意識がない状態だったという。高熱にうなされ、時々血を吐き、どんな薬も効果がない。生きているのが不思議なくらいの状態だったのに、起きて戦っているのが信じがたい。今でも、良く見れば額に
「…………お前、寝てなくて平気なのか?」
「あ?そんな事言ってられる状況しゃねーだろ。……この獣どもはただの
「本体って……」
「ーーーーーー」
テヌートが口を開きかけた時、突如として爆発音が鳴り、それとともに聖宮のほうで巨大な
それを見て、二人は同時に息を
「…………っ、芽依……!!」
「…………ちっ……」
テヌートは
「……おい、人間。お前はここに残って本体を倒せ」
「は?!」
「中庭の中央付近に、小さな羽を持ったやつが見えるな?あいつを倒せ。そうすりゃ獣も消える」
「……っ、待てよ、……っ。見えるったって、さっき一瞬だけだったし、今もぼんやりとしか……。それに、姫を助けに行くなら俺もーーーー」
「お前は来るな」
裕祇斗の言葉をスパッと切り捨てる。裕祇斗の構える剣の先に軽く触れた。
「…………ぼんやりとでも見えるなら十分だ。あいつは下級悪魔だがすばしっこい。気付かれないように近付いて一気に
そこまで
「三津流はお前を頼ってんだ。コイツら倒したら、三津流の側に居てやれ。……芽依は絶対死なせない」
「な……」
「ーーーー屋敷と三津流はお前に
強い意志で放たれたその言葉に、裕祇斗も
「……ーーーー分かった」
その背を見送った後、裕祇斗は視線を獣達に戻した。
先程まで鳴き声しか聴こえなかった獣の姿が、今ははっきりと見る事が出来る。
左右に一匹ずつ、本体を守るように一匹、だ。
死にかけたからか、視える力が強まったのかもしれない。
裕祇斗は剣を構え直す。
「…………ふざけんな」
無意識に
「芽依は、俺が守る」
裕祇斗の目には、彼の前を走っていたテヌートの後ろ姿の残像が映っている。
今もまだ、軽々と俺の前に立つその背中。
分かってる。
あいつは強い。だから、あいつが芽依を守ってる。
……分かってる。
俺はまだ弱い。だから、護衛がいつも側にいる。
ーーーーでも。
「ーーーーふざけんな」
先程とは違う響きを持って、もう一度その言葉を
それは他の誰でもなく、自分自身に向けられた言葉。
裕祇斗はゆっくりと獣達との間合いを
グルル、と
「悪いけど、俺の敵はお前らじゃない。……邪魔すんなよ」
裕祇斗が更に一歩踏み出す。
同時に、キィイイ、という金切り声が響き、それが合図となって、
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