第10話
夕日が水平線に差し掛かり、空が次第に暗くなり始める。
非常事態という事もあり、普段は立ち入ることが許されていない枢達も、
扉は仮のものだが、急遽役人に頼んで造らせた。
「……先程、陛下とも話し合ってきた。
祭司の言葉を受け、
残ったのは祭司と枢、
「…………
「はい。祈りを終えられた後、ご自分に集めた
「そうか」
「もう二時間は経つ。枢は一度、芽依様の様子を見に行きなさい。裕祇斗様、私は王城へ再度参りますので、これにて失礼致します」
「頼みます」
「俺は
「
枢は少し頭を下げて
巫女である彼女は、王家の者の目を直接見て話をしてはならないと厳しく教育を受けている。
平民の出の彼女は、その教育を誰よりも忠実に守っていた。
裕祇斗もそんな彼女の性格を理解してか、苦笑いしただけで何も言わなかった。
枢が、禊部屋へ入ると、ちょうど芽依が水から上がったところだった。
芽依はそれを受け取ると、髪を押え、あらかたの水分を
「……芽依」
二人になって
「禊はまだ続きそう?」
「……うん。あと数日は通わないとダメみたい」
「そう……」
禊は行う時間が決められている。穢れは
身を清めるのは聖女としての義務だ。彼女は禊が終わらないうちは聖宮の外に出ることはない。
彼女の代わりに裕祇斗が屋敷に向かった
「……良かった。私は
「……でも」
「枢、疲れてるでしょ?私はまだやることがあるし、一人でも大丈夫。明日のほうが忙しいんだから、今日は休んだほうが良い」
芽依がそう説得すると、枢は
聖女である芽依が聖宮に
今芽依がいる部屋からは少し離れているが、同じ聖宮内にある為、何かあればすぐに
「…………よし」
小さな声で気合いを入れると、芽依は聖堂に向かうために禊部屋を出た。
外で待っていたのか、部屋の扉を開けると、視界の
「……トキくん?」
呼び掛けると、感情の
「………………終わったの?」
「あ、うん。これから聖堂で少しだけ御祈りしに行こうかと……」
「………………大丈夫?」
「え?」
何がーーーーと、言いかけた芽依の動きが止まる。トキの指が芽依の頬に伸ばされ、触れるか触れないかの所でトキの動きも止まった。
芽依は少しだけ目を見開くが、トキの様子に変化はない。
「……ーーーー顔色、悪い」
「え?……あー……」
その事か、と思い、芽依は困ったように笑った。
「……ずっと水の中に居たから冷えたのかな。いつもの事だから、あんまり気にしてなかった」
「………………」
トキに言われて
それを見たトキは、自分のフードローブを
その時、
薄い生地にも関わらず風を通さない素材のようで、芽依は体が温まっていくのを感じた。
「…………あ……りがとう」
「…………いや……。テヌートさんならこうするかなと思って……」
「あー確かに」
テヌートは何気に心配性だからなー。
彼が文句を言いながらも自分の上着を
「……トキくんとテヌートって仲良いんだね」
「……」
聖堂へと歩き始めながらそう言う。トキも芽依の後を追おうとして、動きが止まった。
「…………違う」
十分過ぎる程、間を置いてから、トキがぽつりと
「……え?」
予想外の答えに、芽依の足も止まる。思わずトキの顔を
トキはいつになく真剣な表情をしていて……。それでいてどこか、
「…………恩人、だよ……」
トキの脳裏に、いつかのテヌートの声が今でも
『ーーーーお前、死神になれ』
あれは、地獄で初めてテヌートに会った時、
『お前、後悔してんだろ』
何を……と言いかけた口が止まる。
驚きに目を見開き、息の
ーーーーあの時、自分が。
……ごめんなさい、と呟いて
誰に対しての言葉だったのか、どういう意味が込められていたのか、目の前の男には分からないだろうに。
後悔している、そう言われた瞬間、
『ーーーー後悔すんなよ』
トキは、はっとして、その時初めて、目の前の男の顔を見上げた。
『……お前は、ただ、魔王様の道具とされる為に産まれたのではない。俺が、そんな事は許さない』
初めて見る男の目には、強い意志が
『このまま魔王様のもとへ
『……………………もう……一度……』
トキは反射的に男の言葉を
『自分の意志で、お前が選べ。……お前は、自由に生きる権利がある』
ーーーーあの日、テヌートは自分を
後悔するなと。自分が産まれてきた事を後悔したまま終わるなと。
だから、今度は……後悔しないように……ーーーー。
「……僕は、テヌートさんの側で、あの人の願いを守る。その為に、生きてる。その為なら……死んだって構わない。……僕は、……今度はーーーー」
「!!」
ーーーートキが何か言いかけた時、突然、
「っ……!!」
次の瞬間には、
芽依は立つことが出来ず、地面に膝をつく。トキは芽依を支えるようにしながら、周囲を見渡し警戒体制をとる。
地震は収まらず、それどころかどんどん強さを増してくる。
「な、何っ!?」
「しっかり捕まってて。……ただの地震じゃない」
「それって……、っ!」
「ーーーー」
心臓の音すら聞こえない…………そんな中、芽依の脳裏であの女が
ーーーー……さあ、おいで。
芽依が目を見開く。
次の瞬間、巨大な爆発音がして、爆風が芽依達を
瞬時に燃え上がった炎が辺りを焼き尽くす。
「…………っ、聖堂……に」
爆発の方向は、今まさに向かおうとしていた聖堂からだった。
トキのローブのおかげで、
爆風が
「…………まっ……」
トキが伸ばした手は
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