第2話
王宮の隣に建立された小高い塔の中で、一人の少女が
さらりとした長い髪を一
祭司が彼女に立つように手振りで
「ーーーー……」
少女は一度だけ瞼の奥を震わせ、
聖歌を歌い終えると、少女は聖堂に向き直って
人々が
* * *
人々が聖堂から居なくなると、あとは数人の巫女と神官だけが残された。
先程まで祈りを捧げていた少女は、後ろで髪を
「ひーめっ、お疲れ!」
少女が声のしたほうに顔を向けると、聖堂の壁に寄りかかったままの青年がこちらに向かって手を振っているのが見えた。
彼女は一度目をぱちくりさせると、軽く首を
「
いつもなら、聖宮の外で自分が終わるのを待っているのに。
本当に不思議そうに尋ねてくる少女に、裕祇斗はがっかりしたように肩を
「……何かひでー。せっかく姫に会いに来たのにその言いぐさ」
「…………姫って呼ばないでってば」
「はは、いーじゃんか。俺王子だし、
「………………それは……」
それとこれとは話が別な気がする、とは
「それより、今日は芽依の聖女公認式だろ?だから見に来たんだ。ーーーーおめでとう」
「…………あ、りがとう」
少女ーー芽依は急に照れくさくなって
聖女になるには、数年の修行の後、難しい試験に合格しなければならず、聖女になれるのはほんの
初めは、父が王宮の
芽依と裕祇斗は国王と祭司の子供という立場と、年も近い事があり、幼少の頃から仲が良かった。その流れか、婚約の話も自然な成り行きだった。昔は王族と聖女の婚約は禁止されていたが、今の時代はむしろ、王族と聖女が婚姻を結ぶほうが一般的になりつつある。
それに裕祇斗はこの国の第三王子だ。王位継承権は一番低い為、婚約の相手を自分で選ぶ事が可能だった。
その成り行きもあってか、国王はすんなりと正式に二人の婚約を認めた。
裕祇斗のことは好きだし、尊敬している。それに、芽依が聖女となるのを一番応援してくれていたのが、彼だった。
この、聖女という称号は、裕祇斗が守ってくれたものでもある。少女は聖女の
「…………でも、まだまだこれからだ」
そう呟く少女を見つめ、裕祇斗は表情を柔らかくした。
「ーーーー……だな」
二人を暖かい風が包み込む。
暫く
芽依達の元にたどり着いたその足音の正体は、裕祇斗に向き直ると眉を少しだけ
「王子、何やってるんですか。芽依様と話したいのも分かりますけど、仕事してください。仕事。祭司様の所には、もう行かれたんですか?」
「うっ……」
裕祇斗が声を
彼は王子である裕祇斗の護衛役兼世話役だ。年齢が離れているせいか、裕祇斗は彼を兄のように
芽依は不安そうな顔をして青年を見た。
「……何か、あったんですか?」
その視線を受け、青年は大した事ではありませんよ、と困ったようにして笑った。
「ただ、今度行われる祭事についての打ち合わせをするだけです。あと一ヵ月しかありませんからね」
「……あぁ、
「芽依様も聖女としての晴れ舞台ですね。王子も暫く聖宮に通い詰めになるかもしれませんが、お気になさらず」
そう言って青年がにっこりと笑うので、少女も苦笑いしか出てこない。
「では、急ぎますので」
「はい。……頑張ってね、裕祇斗」
「おー……」
青年に連れられて力なく去っていく裕祇斗だったが、不意にその足が止まり、少女を振り返った。突然の行動に、少女も一瞬どきりとする。
「芽依」
少女の名を呼んだ裕祇斗は、一瞬だけ
「じゃあな」
くしゃくしゃにされた髪を直しながら、芽依は表情のよく変わる裕祇斗の姿を見て、何とも言えない笑みを浮かべる。
今度はそのまま振り返らずに歩く彼の後ろ姿を、芽依は見えなくなるまでずっと眺めていたーーーー。
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