雨よ、降れ

シンカー・ワン

pluvia

雨は、嫌い。


特に昼間に降る雨は嫌い。

傘を差したり雨靴履いたり、お出かけするのが大変だし、

そもそもお出かけしようって気分にならなくなる。

とってもつまんない、だから雨は嫌い。

雨の降る日は大嫌い。


……でも、雨は必要だって知ってる。

降らないと困ることになるのを知っている。


だから、雨は夜に降ればいい。

お出かけすることのない真夜中に、

眠っている間に、夢見ている間に降ればいい。



――そんな雨嫌いの子供だった私。

歳月を重ねるうちに七十数年前の不幸な出来事を知った。


そして今は終日雨が降ればいい、そう思い願う日がある。



七十数年前、突然の閃光と熱波に晒された街は火に包まれ、

炎に追われた人々が水を求めて彷徨い苦しみ、そして倒れていった。


川はそんな人たちの骸で溢れかえったという。

わずかな水を口にするために、傷ついたままの身体で辿り着いた人たちが、

そこで力尽き、折り重なるように死んでいったから。


熱かっただろう、喉が渇いていただろう。


そんな風に苦しんだ人達を慰めるために、

この日ばかりは、ずっとずぅっと雨が降ってくれればいい。

そう思ってる。

そう、願っている。



ザンザンと叩き付けるように降らなくてもいい、


ただシトシトと沁み込むように静かに静かに、


今はもういない、亡くなった多くの人たちの、その魂を、


労わるように、慈しむように、優しく優しく、


――雨よ、降れ。

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