帰りは溢れさせませんでした

 一息つくと、一刻も早くこの気持ち悪くも忌まわしいオムツを外したい衝動に駆られた。


 全く意味を成していないスカートのホックを外す。

 意味を成していないのだから気にしなかったが、よく見ると腰回りが濡れている。

  

 漏らし溢れさせ、その上座ったり寝転がされたりしたのだから、当然といえば当然。



 オムツ替えをするその前に、トイレに腰掛けた。


 何をするまでもなく、激流がほとばしり、その痛みから開放された。

 しかし、すぐダムにぶつかる。



 トイレに入り、便座に腰掛けている。 しかしおもらしだ。

 オムツを外していないのだから、これはおもらし……規約の範疇のはずである。


 いつもより高い位置から扉を見るその不思議な感覚は、股間がどんどん暖かくなり、音姫が打ち消す音はそもそも出ない。




 耐えた、溢れていない。

 帰る直前、バス内、自宅のドア前ときて通算四度目をこのオムツは受け止めた。

 



 異様に厚いにも関わらず、私の恥を何割増しにもしてくれたオムツ。

 自分の股間を覗きこむような姿勢のまま、紙オムツのテープに指をかけた。

 テープを剥がすビリッという恥ずかしい音も、やりようのない怒りの前には一瞬であった。



 ビッ……ビッ……





 内側を見ると、やはりびしょ濡れであり、飽和寸前だったのであろうことがわかる。



 ――そう言えば、使ったオムツを入れるビニール袋を忘れていた。



 片手で器用に幼稚園のカバンに入れていたそれを取り出す。 

 そういえば、濡れたオムツを自分で替えるのはこれが始めてだった。

 

 入れていなければ、自分で替えていれば、私はリサにビニール袋を頼む……恥のさらなる重ねがけが必要であった。




 トイレにビニール袋とオムツを一部置きっぱなしにしておこう。

 それを決めて、改めて"また"テープに手をかけた。



 表面がびしょ濡れで、なかなか爪が引っかからず苛立ちと焦燥感に駆られる。

 正直、いつ次の尿意が始まるかわからない。


 ――訂正。もう着ている。




(早く、早く!)


 ハズれない。



 もちろん、その隙を見逃すような弱い利尿剤ではない。





 やがて大きく、しかしトイレでは聞き慣れない水音が響き始めた。

 今度は音姫は使ってすら居ない。



 オムツを外し、便座に座っている私は、しかしまたお漏らしした。

 

 歯を食いしばり、このやり場のない羞恥と怒りに耐えていた。




 なぜこれがお漏らしなのか。

 それは、このオムツが二枚重ねだったからである。


 ただでさえ厚くみっともない、無様なオムツを更に無様にする当て方を、帰宅前の私はさんざん嫌がった。




 だが、その必要性はあったのだと、一枚目を外した時点ですでに証明は済んでいた。

 帰りのバスの座席は、この二枚重ねによって汚れなかったのであった。

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