これからと、傷心

ガシャ、ジャー―


「はぁ……はぁ……」



 幼稚園から帰宅し、私は一人トイレに居た。

 もちろん、バイトの約束である「トイレで用を足してはならない」を破ったのではない。



 嘔吐してしまったのだ。


 今日のようなことがこれから当分続く。

 その事実を思った途端、出してしまった。


「お母さん……大丈夫?」


 娘が心配そうに水を持ってきてくれた。

 飛び込んだ為、扉はしまっていなかった。


「……ありがとう、大丈夫よ」


 一瞬躊躇するも、受け取る。

 水分の補充に抵抗があったが、口内の気持ち悪さや――何より乾きには耐えられなかった。


 とても美味しい。

 炎天下の日の帰宅してすぐの氷水ですら比べ物にならない。

 それほどまでに、この常温の水は美味しく感じた。


「良かった……じゃあ、早く、替えよ?」


「……いえ……お家だから自分でやるわ。

 ありがとうね」


 トイレには入った。だが約束は破っていないのだ。

 オムツなら濡れている。つい先程も、鍵を取り出すまで耐えられず扉の前でやってしまった。


 行きとの違いと言えば、帰りはバスの座席を汚すことはなかったくらいである。





 入園式の娘の挨拶の後、私は立てなかった。

 強い目眩、頭痛等に襲われたのだ。

 足も釣った私は、入園式を車椅子で退場していた。



 症状からわかる。脱水症状である。

 あれほど強力な利尿剤を服用したにも関わらず、コップ一杯しか飲まなかったのだから当然である。



 あの後、保健室に担ぎ込まれた私は、スポーツドリンクを飲み休まされた。


 止まらなかった。

 気付いたときには、2Lのペットボトルは空になっていた。

 そして、しばらく横になっていたのだ。


 寝てしまった。





 保健室の先生は事情を知っている人だった。

 起床した私に待っていたのは、二度目の服用と水分の再補充。





 そしてクラスに始めて入った私に待っていた運命は、言わずともである。

 すでに自己紹介を終えていたクラスメイトの視線。後は帰るだけという状況。

 私だけ後日となった。



 だからクラスで行ったことは、オムツ替えと連絡帳の記載だけだった。


 


 

 グラスを娘に返すと、オムツを受け取る。

 家でも替えるつもりだったのだろう。替えを取りに行く必要はなくなっていた。

 

 替えのオムツは行きの時点ではカバンに五枚入っていた。帰ってきた直後なのでカバンはまだ袈裟懸けになっている。

 そのオムツは使い切っていたのだ。

 カバンはいまガラガラである。


「……一人で、出来るから……ね?

 おうちだし……ね?」


「うん、わかった」


 娘がようやく居間へ行った。

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