始まりの終わり
「はい、出来たよ」
◯◯は、異様に膨れた紙オムツをポンポンたたきながら、満足げな笑みを浮かべた。
「あらあら、裕子ちゃんどうしたのかしら。
さっ、起きよう」
先生が裕子の肩に腕をまわすと、やさしく抱き起こしていく。
上半身を起こした裕子の目に飛びこんできたのは、新しいオムツに包まれた下半身だった。
今朝、屋外に出るのもさんざんためらったその下半身は、その時の状態にまで戻されていた。
「裕子ちゃん、よかったね。
リ◯ちゃんに新しいおむつに替えてもらって」
「……ぇ?」
「ほら、◯サちゃんにお礼言わないと」
理解がまだ出来ず、また目を伏せる。
子供向け教育番組の、愉快なキャラクターたちの笑顔がプリントされたおむつを目にした時、なんとも言い表せない、やるせなさが堰を切ったように裕子の胸に込み上げてきた。
「うっ、うっ……、うぅぅ……」
くぐもったような嗚咽。
「うぅ……、ヒッ…………、ヒック…………」
《リサ…………リサのため…………》
この言葉がまるでエンドレステープのように、裕子の心の中でこだましはじめた。
やがてこの言葉は裕子を、ある決心へと駆りたてていったのである。
「最後に、改めて春の晴れやかな日の下で、先生やみんなによろしくお願いします!」
裕子の目は涙で濡れていた。
いつの間にか再開されていたリサの挨拶を聞きながら、裕子の心は沈み込んでいった。
リサの言葉が、どこか遠くから聞こえてくるようだった。
成長を実感できる。それは間違いなかった。
自分が娘のためにできること、それが、オムツなのだ。
だから、耐えねばならない。
「幼稚園でたくさんのことを学び、成長していけるように頑張ります!
ありがとうございました!」
リサの挨拶が終わると、裕子はじっと娘の姿を見つめていた。裕子は上半身を起こしたまま、立てなかった。
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