利尿剤

 学生時代の入試の合否判定の日でも、ここまで祈りはしなかった。

 娘の手を引いていたが、心のなかでは合掌。全力で誰にも会わないことを願っていた。


 そのかいあってか、住宅地から指定されたバス乗り場までは誰にもすれ違うことはなかった。

 だが、そのバス乗り場はそうも行かない。



 片側二車線道路。

 通勤ラッシュは落ち着いたが、それでも車の通りは多い。

 しかも、都バスの乗り場近く。


「お母さん、バスまだ~?」

「うん……早く来ないかしらね……」


 視線が痛い。

 先程から、信号が青になっても車がすぐに動き出さないのは、私に視線が向いているからだろう。


 そのような恥ずかしさもも最初の数分だけだった。



「……ぅっ……!!」


 娘と繋いだ手を離した。

 それは突然着た。



 膀胱が痛い。

 辛いではなく、痛い。

 

 思わずしゃがみ込み、両手で股間を押さえる。


「え、お母さんどうしたの!?」


 服用前にトイレに行った。

 接種した水分は、覚悟が決まっておらず、いつもよりも少ない。



 特別な利尿剤とは聞いていた。

 だが、これほどまでに強力とは思わなかった。


「だ、大丈夫、だい……ぁ!?」


 我慢時間、1分程。

 およそ23年ぶりに、私はオムツを使用した。

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