玄関先

 玄関で娘の靴を履かせ、玄関の扉に手をかけた。


(この格好で、外に……)


 何度目かもわからない葛藤。

 だが、もう時間が迫っていた。


 通園バスに乗り遅れれば電車。車は生活費のため売ってしまっている。

 絶対にこんな格好で乗りたくない。


「……お母さん?」


 扉の前で固まる私に、娘が心配そうに話しかけてくる。


「……じゃ、行きましょう」

「うん!」


 そうして、私は一気に扉を開けた。

 太ももの、普段ならありえない位置に風を感じる。


(あぁ……本当にこの格好で……)


 無心で、扉を施錠。

 そこに風が吹き渡り、制服のスカートをふわっと舞い上がらせた。


「いやっ!」


 私は金切り声をあげてスカートの裾を押さえようとする。

 しかしオモラシに繰り返し耐える為の特厚オムツは、そんな事関係なく丸見えである。


「大丈夫だよ、オムツ可愛いよ」


 娘の心配そうな声に、曖昧な笑顔を浮かべ誤魔化す。


(誰にも……誰にも会いませんように)


 そうして、娘の手を引いて、幼稚園バスの乗り場に指定された場所へ向かった。

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