第49話 ジオラマスターの【人形庭国】7(2/2)




 というわけでたんまり報酬をもらったわけだけど……これで終わりではなかった。



「はっ?」


「なにっ?」



 ダンジョンから出たら驚きの光景が待っていた。





「オオオオオッ……! オオオオオオオッ……!」





 ジオラマスターが声を上げていた。口なんて無いのに。あと天井から生えた無数の手が拍手をしていた。大喝采みたいになっていた。



「な、なんだ……!?」


「ジオラマスターどうしちゃったの……ひっ!?」


「!?」



 拍手していた手のうちの2本が伸びて来る。オレたちの方に。そして手を差し出してきた。


 な、なんだこれ。握手……なのか?


 恐る恐る握ってみる。しずくもそうした。

 骨ばっているけど手は手だった。かなり大きい。握り返されてシェイクされた。



「えっと……しゅー、これ、なんだと思う……?」


「……ダンジョンのギミックを作動させたから喜んでる……のか?」



 シェイクが激しくなった。正解っぽい。


 なるほど、たしかに自分がせっかく作ったギミックならちゃんと見つけて動かしてくれた方が嬉しいもんな。頑張って作った甲斐があるというものだ。


 しばらくしたら手が離れた。そして別の手が伸びてきて何かを差し出してくる。大きめで透明な浮き輪みたいなものだった。


 これってもしかして……。


 受け取った瞬間に説明テキストが読めるようになる。






 ≪ ジオラマスターのジオラマスタジオ(Sサイズ) ≫

 ダンジョンジオラマ界の巨匠・ジオラマスターのジオラマスタジオ。内部に進入することができるジオラマベース。そのSサイズ版。


 省スペースかつプリセットのフィールドとフィギュアをロードでき初心者でも親しみやすい。ジオラマスターおすすめのベース。


 設置後は移動ができないため、設置場所を変えたい場合は一度ストレージに収納する必要があるが、ストレージに収納すると初期化されるため注意すること。また、設置者以外は収納できない。






「おおっ、これももらって良いのかジオラマスター!」


 そう尋ねるとジオラマスターの手がサムズアップをした後に作業に戻っていった。ジオラマスターはそれきりこちらを見向きもしなくなった。


「雫ももらった?」


「もらった!」


「これは夢が広がるアイテムだな」


「美味しいものを置いてから中に入って食べよう!」


「真っ先に思いつくのそれかよ……」








 数か月後の話をしよう。


 ジオラマスターからもらったジオラマスタジオ、2個は使わないので1個はレンタルに出すことにした。れいさんたちに相談したらそう提案してくれたんだ。


 ジオラマスタジオは梅田の冒険者組合ビルからほど近い、組合所有のビルの一室に設置することにした。運用は組合に委託し、家賃と組合の経費を差し引いた利益を組合とオレたちで折半することにした。


 組合も収入源が増えるし、冒険者の訓練スペースが増えることによる冒険者の質の向上が狙える。


 意外だったのは冒険者以外も使わせてくれと言ってきたことか。


 例えば自衛隊。

 地形が自由自在、かつ民間人も部外者もいないので、ストレージに装備とか戦車とか護衛艦とか新兵器とかを収納してジオラマ内に持ち込んで演習しまくってるらしい。


 あとは映画とかの撮影。

 都合の良い環境が作れるし、外からミニチュアでセットを用意した後に中に入って撮影とかしてるらしい。製作費がかなり圧縮できるし、CGより実写が好きな海外の映画監督とかもわざわざ来日して使ってくれているとか。


 おかげで普通に黒字だった。というかなかなか予約が取れないレベル。もうこれの収入だけでつつましく生活できるレベルだった。



 ああそれと。


 レンタルに出さない方のジオラマスタジオは黎明記れいめいき機械きかいの名義のマンションに設置した。


 光さんたちと共同で使うためだ。これまでの恩返しのひとつだった。あと光さんたちとの接点を絶やさない狙いもある。


 ちなみに他の場所じゃ動かしにくいアームズのテストで光さんはちょくちょく使ってくれているらしい。喜ばしいことだった。



「ねぇしゅー、いまさらなんだけどさ」


「ん?」


「ここに設置したら私たちあまり使えないよね。普段大阪にいないし」


「あ」


「やっぱり何も考えてなかったんだ」


「い、いや……オレたちが普段使えないことを補って余りあるメリットがあるじゃないか」


「……」


「はい、すみませんでした」


「うん、まあ、でも確かにそのメリットが一番重要だよね。私が頑張って ≪ 水脈渡り ≫ をまともに使えるようになれば解決するし」


「雫……好きだ……!」


「知ってるよ。あ、そうだ。ゆりあちゃんとリンちゃんもジオラマに誘ってみない?」


「おー、良いじゃん。そうするか。先に光さんたちに相談してみよう」


「そうだね」



 他にもいろいろとアイデアが出てくる。たくさん探索した甲斐があったな。


 これからもっと面白くなりそうだ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る