第45話 ジオラマスターの【人形庭国】4
「外も探してみよう。何かヒントがあるかも」
行き詰まった感に押し潰されそうになっていた時、ふと
ダンジョンの外にも手がかりがある場合がある。内部ばかりうろうろしていたけど、外はほとんど手付かずだ。強いていうならオルゴールを買いに行ったくらいで、このダンジョンの周りを探索したわけではないのだから。
「といってもダンジョンの周りって……」
「そうだった……」
ここビルの一室だったわ。仕切り壁のないワンフロア、ジオラマ、ダンジョン出入口のガラス円柱、以上。これがシンプルイズベストか……。
「別のフロア行ってみる?」
「うーん……」
ここにあるダンジョンは相互作用している。それは分かっている。【人形庭国】で手に入れたアイテムが【オウマガハザマ】で役立つように、【サターン・ステーション】で手に入れたアイテムは【人形庭国】で役に立つ。
つまり三角関係であり、その三角形はもう完成されている。追加要素がこれ以上に入り込む余地があるだろうか?
といった具合にオレが唸っている頃、雫はぼんやりとジオラマを眺めていた。
ジオラマはドーナツ状—— 立体的な形状で空中に浮いてる―― なので横から眺めたりしゃがんで下から覗き込んだりしていた。飽きさせてしまったらしい。
……にしてはがっつり見てるな?
「何か気になるものでもあったか?」
「んー……大したことじゃないけど、人形とかエネミーはここからは見えないんだなぁって思って」
「へー」
オレもジオラマを覗き込む。ちょうど王都のあたりを覗き込んでいた。
街並みは内側で見たそのままだ。でも人形やエネミーはいない。動いているものは黒煙や溶鉄、巨大歯車くらいだ。
ダンジョン外からエネミーを倒せないようにする
「あ、竜もいない」
「マジで? マジだ……」
じきに目覚める山に擬態した竜。王城の廊下から眺めたアレもここからは見えなかった。あるべき場所になかった。地形じゃなくてエネミー扱いだから表示されないのだろう。
「へぇー、おもしろーい。もっちー」
「も゜」
「拡大モード」
「も゜」
付喪神型召喚獣のもっちー。
見た目は銅鏡だけど、像を反射する以外にも遠くのものを見たり虫眼鏡みたいに拡大することができる。
「これが王城よね……あ、ここが玉座かな? へー、こうなってるんだ」
「どれどれ……ほーん」
王城の頂上付近、バルコニーっぽいところから内部が見られた。ボスがいるので近づかなかった場所だけど見物したかったのは確かなんだよな。
「やっぱ内装
「大聖堂とは意匠が違うね」
「大聖堂も見てみようぜ。あのめっちゃ細かい意匠がどう見えるか気になる。門も開いてたし見られるだろ」
「大聖堂……ここか」
もっちーを持ったまま大聖堂の正面に回る。そして内部を覗き見た。
「おー、すっげー。中で見たまんまだ」
「万華鏡みたい。すごく綺麗」
内装から竜の像、ステンドグラスまでそのままだ。ステンドグラスから射し込む光とロウソクの灯りで浮かび上がる景色は幻想的だ。万華鏡という雫の表現がピッタリだった。
「……あん?」
「ねぇ、しゅー、これ変じゃない?」
オレは違和感を覚えた。そして違和感程度にしか思わなかったオレと比べて、雫は明確に異変を識別したようだった。
「パイプオルガン、見えなくない?」
オレたちは急いでダンジョン内に再突入した。
「ちくしょう、そういうことだったのか……!」
悪態をつきながら走る。
外部から観測しないと分からないように擬態してるとか。いや、ジオラマという特性を活かすならそういうのもアリかもしれないけど。しれないけど! 建物内まで確認しないといけないし何重の偽装なんだよもう!
「日本語でいうところのオルゴール、ドイツ語の” Orgel ”が由来だけど、” Orgel ”はドイツ語じゃオルガンのことらしい」
「メイン・スプリングが残していったオルゴールっていうのは大聖堂のパイプオルガンのことだったのね。そしてあのパイプオルガンは……!」
「メイン・スプリング、ぜってー転生者っていう設定だ! しかも中二病! 響き優先でネーミングしてやがる! おかげでみんな大混乱だ!」
一目散に大聖堂へと駆け込んだ。その勢いのままパイプオルガンに走り寄る。
「……これが生きてるってマジか」
「外から見て表示されない以上はエネミーかNPC扱いなんでしょうよ」
「そうだな。さて、じゃあとりあえず」
ノックでもしてみるか。
それでダメなら殴り、それでもダメならゼンテイカで砲撃してやる。そう考えつつ手を伸ばした……その時だった。
ポン。
オレの肩に手が置かれた。振り返ると雫も同様だった。
「……!?」
『ふむ……ただの不届き者ではなく全て察した上で来られたようですね。
つまりあなた方も我が友、メイン・スプリングと同様、この世界の外から来た者であると』
声の主。竜の像の前で祈ると回復してくれるシスターさんだった。回復してくれる時の無機質な雰囲気はすでに無く、圧倒的なプレッシャーを放っていた。
『友の頼みとはいえ、面倒な役を引き受けてしまったと思っていましたが……見せていただきましょう。
彼女が剣、我が
そして……グパンッ。
シスターさんの口が裂ける。人形的な機構が剥き出しになった。
口の奥に強烈な閃光が生じる。空気がビリビリして危険が一目瞭然だった。
「ヤバ……——!」
ちゅどーーーん。
「いきなりビーム撃つとか卑怯だろ!」
「危なかったね」
戦う準備をしてなかったので即アイテムで離脱した。いや、あのシスターさんが襲いかかって来るとか思わんだろ。ていうか髪の毛ちょっとコゲた。
「準備して再戦だ!」
「うん!」
ちゅどーーーん。
2人まとめて煤まみれにされた。
「強すぎだろ! 倒させる気あんのか!?」
「けほっ、
「クソ、こうなったら……!」
「何か考えがあるの?」
「デトネティア様に言いつけてやる!」
「しゅー、カッコ悪いよ……」
もともと見つけたら教えてくれって言われてたしな。殴り合いが強いことだけが力じゃないことを分からせてやる……!
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