第43話 ジオラマスターの【人形庭国】2
女王・デトネティアを
「ここからジオラマスターは見えないのね。普通の空」
「見えたら怖いだろ」
「ここの人形たちは外の世界があるなんて知らないのよねきっと」
「だろうな。でも案外、オレたちもそうかもしれないぞ」
実は目的の物はもう手に入れていた。
[王都]の衛兵型エネミーからそこそこ低確率でドロップする≪ 朝告げのベル ≫だ。ベルを鳴らすと一時的に幻惑を揺らがせて強調させる効果がある。
特別な金属で作られたベルらしく、秘術的な存在に対する干渉力があるとかなんとか。そのため怪異系のエネミーや幻惑・擬態を多用してくるエネミーがたっぷりの【オウマガハザマ】では大活躍するアイテムだった。まあこれに頼りきりになるのも危険らしいけど。
というわけで目的のものは手に入れたのであとは消化試合だった。観光がてら行けるところまでダンジョンを進もうという魂胆だ。レベルが上がったからこそできることだった。
城壁、広場、噴水、橋、線路、水路、溶鉄の川、巨大歯車……このエリアの見どころはたくさんあって、とてもじゃないが1日では回り切れない。ダンジョンに対していうセリフじゃないのは分かっているけど。
でもダンジョン内でしか見られない光景というのも確かにある。それを目当てにダンジョンに潜るダンジョンカメラマンとかもいるので需要はけっこうあるのだろう。
「単純に建物として見てもすごいんだけど、ジオラマスターが作ったと思うともっとすごいわね。本当はミニチュアなんでしょこの街? どんだけ細かい作業得意なのよ」
「この壁面の意匠とかも自分で彫ったのかなジオラマスター。オレなら気が狂いそうだ」
オレたちが見上げていたのは、このダンジョンの目玉建築の1つである[大聖堂]だ。
外壁にはびっしりと彫刻が施され、空には高く塔が伸びている。正面の巨大な門は開け放たれていて内部をチラ見せさせていた。
「うおっ、内側もすごいな」
「きれー……」
内部は思わず見とれてしまう壮麗さだった。
天井は高い。柱や壁、天井まで余すところなく意匠が刻まれている。正面には巨大な竜の彫像があり、その背後では極彩色のステンドグラスが光を溢れさせていた。少し脇にある金属パイプの束はパイプオルガンだろう。パイプは天井近くまで伸びていた。
「このダンジョン内では” 竜は知の基盤 ”と言われて信仰と研究の対象になっている、という設定らしい。この世界の住人は竜がやっていることを自分たちで再現することで文明を発展させてきたんだと」
「エネミーが使ってくる魔法? 秘術? っぽいのも竜の攻撃手段の模倣なのかな?」
「そういう設定なんだろうなぁ」
見物しつつ竜の彫像の正面まで歩いていく。そして巨大な竜の像の足元でオレたちはパンパンと手を打った。いや、祈り方はなんでも良いって書いてあったんだよネットに。
『——お祈りですか』
声。女の子のそれだった。
顔を上げると先ほどまで誰もいなかったところにシスター服? の女の子が立っていた。中学生くらいの背格好だ。
「そうだ」
『良き心掛けです』
体のほとんどは服で隠されている。髪の毛すら見えない。けど手先は外気に晒されていて、球体関節が見て取れた。この子も人形だ。声はするのに口は動いていなかった。
『私にも祈らせてください』
シスターさんが両手を組んで祈りを捧げる。するとオレたちの身体が淡く光った。それと同時に身体の疲れが取れていくの感じた。
ここ、祈りを捧げるとシスターさんが体力とかを回復してくれる救済ポイントなんだよな。そして安地でもある。だから休憩には持ってこいの場所だった。
「おお、すっげ。ありがとうな」
『よろしければ寄付をお願いできますか』
「もちろんだ」
ダンジョン内のエネミーからドロップした硬貨を渡した。エネミーを倒せばいくらでも手に入るので惜しいものではない。
『ありがとうございます。おふたりに竜の
休憩をすませた後、オレたちは順調に攻略を進めた。そしてついに王城の中に入ることができた。
王城内部のエネミーは外部のエネミーが強くなった程度で特筆する点はあまりない。重装の鎧兵とかが出現するようになるのは少し厄介か。
エリアボスは[
「え? 玉座にボスがいるの? 女王は?」
「ああ、それは――」
と、その時だった。
すぐ近くの部屋から声が聞こえた。
『ない……ない……どこにあるの……?』
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