第42話 ジオラマスターの【人形庭国】1





 怪物がジオラマを作り続けていた。




 ここは大阪府内のとあるビル。

 高さは5階建て。1階は冒険者向けのショップが入っている。けど他のフロアは” ジオラマスター ”と呼ばれる怪物と、それが作り出したジオラマに占領されていた。



「なんていうか、その……見た目はコワいわね……」


「それは同意だ……」



 ジオラマスター。


 骨と皮ばかりの、そして異形の巨人だった。


 まず体が無い。ドーナツ状に設置されたジオラマの中央に巨大な頭部が鎮座している。頭部のサイズは鉄道の小型貨物コンテナくらいか。


 そして天井に伸び広がった皮膚? 体? からはたくさんの腕が垂れ下がっていた。それらが微細に動き回ってジオラマを製作・調整していた。


 察するにタコみたいな構造の存在なのだと思う。

 頭部には耳も鼻も口も毛髪も無い。唯一ある目ですらも白目を剥いたような造りだった。この目がタコのものではなく人間の造形なことと、皮膚の質感が明らかに人間のそれ―― 皮下に血管とかが見える―― であることがジオラマスターの不気味さに拍車をかけていた。



「……でもジオラマの方は本当にスゴイわね。素人目に見ても異様に細かいところまで作り込まれてる」


「さすがだよな。伊達にしてない」



 ――ジオラマスターの作り出すジオラマはただのミニチュアではなかった。内部がダンジョンになっていた。


 所定の場所から進入することで人間が縮小してジオラマ内を探索することができる。もちろん内部にはエネミーもいた。


 ジオラマによって環境が異なるダンジョンが広がっている。1フロアにひとつのジオラマがあり、具体的には、



 2F 夢とうつつのジオラマ

 【オウマガハザマ】


 3F 剣と魔法のジオラマ

 【人形庭国にんぎょうていこく


 4F 宇宙と科学のジオラマ

 【サターン・ステーション】



 という感じ。

 ちなみに5Fはジオラマの土台だけがあってそのうち増えるっぽい。ジオラマスター先生の次回作にご期待ください。



「神、いや、造物主ライフメーカーと呼ぶにふさわしいかもな」


「このジオラマダンジョンの中のエネミーとかにとっては間違いなく造物主だと思うわよ……それで最初に潜るダンジョンは【人形庭国】だっけ?」


「そうだ」


「剣と魔法のジオラマかぁ」


「本命は【オウマガハザマ】と【サターン・ステーション】のドロップなんだけどな。

 でも【人形庭国】のドロップがあると【オウマガハザマ】の難易度が下がるらしい。それで今度は【オウマガハザマ】のドロップがあると【サターン・ステーション】で役に立つらしい」


「……何度聞いても○ックマンよね」


「オレたちのレベル的にも今は【人形庭国】が限度だ。他は推奨レベルに達していない。つまりこれから下準備だな」



 人形庭国で入手したいアイテムはいくつか候補がある。【オウマガハザマ】攻略用にその中のどれかが手に入れば良いので、まあレベル上げもかねて丁寧に攻略していこうと思う。


「それじゃあ行きますか」


 部屋の隅にある円柱状のガラスケース。これがダンジョンへの入口だ。開閉できるようになっていて、中に入って扉を閉じるとジオラマ内に転送される仕組みだ。2人で中に入ってまもなく、オレたちの視界は真っ白に埋め尽くされていった。









 剣と魔法のジオラマ【人形庭国】。

 その目玉エリアは[ 王都 ]だ。


 他に[ 湖 ]や[ 森林 ][ 村 ]といったエリアもある。けどジオラマスターには悪いが他のダンジョンにもありそうなエリアだった。湖とか特に。


 その点、[ 王都 ]エリアは特徴に富んでいた。


[ 王都 ]は王城と市街地と工業地帯が1つの城壁の中に収まった広大なエリアだ。石造りの家に石畳の道、過密した構造に中央の巨大な王城といった景色は、ゲームとかに出てくる中世ヨーロッパ風と呼ばれる街並みを彷彿とさせる。


 内部では人型人形が人間の真似事をしていて、一部の例外を除いて彼らには干渉できなかった。青空には黒煙がたなびき、鉄は常にながれている。延々と回り続ける歯車により街は常に細動していた。



「どこが剣と魔法のファンタジーなのよ」


「このエリアだけおかしいんだよな」



 バキバキに工業化している。そのせいでエネミーが剣と魔法以外にも初歩的ながら銃火器を使ってきたりして攻略の難易度は上がっていた。まぁ中央の王城がダンジョン的には”奥”なので敵が強くなるのは当たり前だけど。



「定期的にでっかい竜種が街に襲来するらしい。それから街を防衛するために工業技術が発展したっていう設定じゃないかってネットに書いてあった」


「えっ、そのドラゴンが来た時に街にいるとどうなるの?」


「まずドラゴンから逃げるエネミーのスタンピードに巻き込まれる。高レベル冒険者なら素材が向こうからやってくる状態だからわりとおいしいとか」


「何がおいしいよ。私たちなら逆にエネミーに美味しくいただかれちゃうのが関の山じゃない」


「そのあとに真打しんうちのご登場だ。街総出そうでで防衛するらしいんだけど、被害はその時々でマチマチらしい。街が全壊する時もあれば半壊くらいで済むこともある。

 冒険者が防衛戦を支援できるから、冒険者の活躍によって程度の差が出るっぽい。ああ、防衛戦への貢献度に応じてお城の女王様からご褒美がもらえるらしいぞ」


「ドラゴンを倒しても街は半壊が限界なんだ……」


「いや、ドラゴンは倒せなくてルートを変更させるのがせいぜいらしい」


「ルート? このエリアはただの通り道ってこと? 迷惑すぎじゃない?」


 いやほんとそれ。でもドラゴンからすればいつもの通り道に街が後からできただけかもしれないんだよな。



「けどまぁそんなものには参加しないから。イベントが発生するのはもうちょっと先の時期だし、とっとと用を済ませるぞ」


「はーい」



 参加しないったらしない。



 絶対しないぞ。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る