第41話 ショートエピソード:ゆりあの免許取得奮闘記
『お兄さんお姉さん助けてください! ゆりあちゃんが……ゆりあちゃんが……!』
大天使リン先輩からの電話だった。
切羽詰まった様子に内容も聞きもせず「すぐ行きます」と答えて通話を切った。そしてゼンテイカを展開して雫と一緒に高速をぶっ飛ばす。わりと大阪の近くにいて良かった。
「リン先輩!」
「あっ! お兄さんお姉さん! 来てくれたんですね!」
「当たり前じゃないですか! なぁ雫!」
「うんうん! お姉ちゃんが来たからにはもう安心よ!」
「ありがとうございます! 心強いです……! 本当に……うぅ……!」
リン先輩は涙をぬぐった。そして「こちらです」といって歩き出す。
辿り着いたのはとあるコーヒーチェーンだった。どこにでもある――いやごめん、うちの地元には無かったわ―― コーヒーチェーンだ。
その奥にいた。
「「!?」」
思わずアームズを取り出してしまった。それほど危うい雰囲気が立ち込めていた。
発生源は一番奥のボックス席だ……なんだかあそこだけ暗くない? へんなオーラ出てない??
「ほらゆりあちゃん! お兄さんとお姉さんが来てくれたよ! 教えてもらおう勉強! ね? だからしっかりしてゆりあちゃん! ゆりあちゃんーー!」
「…………」
返事がない。ただの
リン先輩がいくら肩をゆすっても机に倒れ伏したゆりあ先輩に反応はない。ペンを握ったままなんかブツブツ言ってる。ひたすらに営業妨害レベルのどす黒いオーラを垂れ流していた。
「えーとつまり」
とりあえず飲み物を買って席に座った。そして机の上に散らばった教材で全てを察する。
「” ダンジョン特殊 ”の免許を取ろうとしたら完全にお見舞いされてしまったと」
「はい……」
リン先輩が肩を落として肯定する。ただでさえ小っちゃいのに余計に小っちゃくなってしまった。おかげでもっと食わせなければと思ってついデザートを追加注文してしまったじゃないか。
「なるほどなるほど。つまりオレですら持ってる——」
ピクッ。
「”ダン特”の筆記試験のひっかけ問題に盛大にやられて自信喪失してるってことか。そりゃそうだろうな。散々いばり散らした相手であるオレが持ってるのに――」
ピクピク。
「いざ自分がやってみたらボロボロだったなんてダサいにもほどがあるもんな先輩。オレですら持ってるのに」
ブチッ!
「むがー!!」
「ぎゃー!! 噛むな! 噛むなって! 痛い痛い! ごめんなさい調子に乗り過ぎましたスミマセンって! 先輩やめてぇー! ア゛ァー!!」
「ゆっ、ゆりあちゃん! お店のご迷惑だから! 落ち着いて! ゆりあちゃん!」
「フーッ! フーッ! ガウッ……! がるるる……!」
リン先輩に抑えられてゆりあ先輩は落ち着いた。ていうか本気で噛まれたんだが?? 歯形残ってるし。マジで痛い。
「ていうかゆりあ先輩たち小学生じゃん。ダン特は取れなくないですか?」
「ゆりあちゃんはレベルが高いので条件緩和してるんです」
あったなそんなシステム。高レベル冒険者だったら年齢で制限かけるよりガンガン活動してもらった方が社会的にプラスが大きいもんな。そして活動のためには自前の移動手段くらい必要だろう。かくいうオレも取れるようになってすぐ免許取ったし。
しかしまぁ、免許は免許であって。
免許というのはたいてい大人が取得するものだ。当然、試験内容も大人が解くことを前提としている。小学生では理解や想像が追いつかなくて内容がちんぷんかんぷんでも無理はない。
「うぅぅ……こうはいぃ……」
「はい?」
「青信号って進めじゃないの……?」
「青信号は”進んで良い”ですよ」
「緊急走行車両が接近してきたら気を付けて運転するべき……!」
「あーそれ緊急走行車両が接近してきた時だけじゃなくて常に気を付けて運転しなきゃならないってヤツですね」
「ぅぅぅ……」
ゆりあ先輩からぷすぷす音が聞こえる。頭から湯気上がってね?
「ところで何に乗るつもりなんですか?」
「ホバーバイク」
「いいなー」
一応アームズに分類されるものだ。オーバーテクノロジー系の搭乗式車両型アームズになる。アームズを取り付けることができるので戦闘にも使えた。
プロペラとかではなく不明な方法で浮遊・推進する。ホバータンクとかと同じだ。なので使用時に周囲に強風を吹き荒らすこともない。
男の子なら一度は憧れる
「免許取ったら後ろに乗せてくれるらしいです」
「それは楽しみっすね」
「はい!」
リン先輩は満面の笑みだった。やっぱこの人
チクッ。
「痛った! 刺したなペンで!」
「リンでニヤニヤするな。あと失礼なこと考えてる」
「せっかく人が心配して来たってのに……」
「……リンのおじいちゃんに言いつけてもいい」
「待て話し合おう」
最近知った。リン先輩のじいさん、組合の元理事長だった。つまりめっちゃ強いし高レベル。名前は
ビルドはリン先輩と同じ科学・秘術の複合ビルド。
どちらかというと生産系の人で、科学スキルと秘術スキルを組み合わせて製造するアイテム―― 毒ガスとかでダンジョンを制圧する戦闘スタイルを得意としていた。
毒ガスは敵味方を選べないため、『ダンジョン内で白衣の老人を見たら逃げろ』と恐れられたヤベー人だった。そんな人に目を付けられたらたまったもんじゃない。
と、こんな感じのドタバタがあったのだが、ゆりあ先輩は無事に免許を取得した。
「うおおおおぉぉ! すっげー! 最高ですよ先輩コレ!」
「まだまだいける」
「まだまだ行きましょう先輩!」
「まかせて」
ゆりあ先輩が運転するホバーバイクの後ろに乗せてもらっている。
さすがはホバーバイクで、走る(?)場所を選ばない乗り物から見える景色はどれも新鮮だった。運動性能もかなり高くて、ゼンテイカより圧倒的に速いのはもちろん、宙返りしたり横滑りするみたいにぐるぐる回ったりすることだって朝飯前だ。アトラクションみたいだった。
「仲良いですねぇ」
「精神年齢が同じなだけじゃない?」
リン先輩は微笑ましそうにしている。一方で
なーんて調子に乗っていた結果。
「「おえー」」
吐いた。酔った。ゆりあ先輩も。なんで先輩も吐いてんだよ。
「ゆりあちゃん……」
「しゅー……おバカ」
保護者2人が額に手を当てていた。頭が痛いらしかった。
いやほんとスンマセン……。
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