第40話 それでこのアームズは食べられるんですか?【全自動スイーツファクトリー】4
「うわっ、マジだよ」
ドローンを高くまで飛行させる。
といっても予算の関係でエントリーモデルのドローンなわけで、この工場全体を映し出すほどの高度までは行けない
それでも仮説は充分に証明できそうだった。
「この
「上から見るとこうなってたんだな」
このダンジョンは縮尺からして違う。人間からすると全体像を把握することが難しいくらいに巨大だ。外から建物を見ても壁にしか見えんし、周りが海だから遠くから眺めたりしないし。だから形まで意識が回りにくいんだ。
「ちょー広いけどやるしかないな。ここまで来たんだ」
「そうだね」
「オレはドローン操作するから周りの警戒頼む」
「りょうかい!」
こうしてオレたちは工場の空撮を集めていった。
すげー時間がかかった。当然1日で終わるわけもなくしばらくダンジョンに通うことになった。
ずっと屋上づたいに移動できればまだマシだったんだけどな。そうは問屋が卸さない。
高低差がキツかったり設備が邪魔したり、あと高温の蒸気が噴き出してたりして、結局エネミーのいる建物内を移動しなきゃいけないことがほとんどだった。ボスについてはある程度スルー出来たのが救いか。
「いちおうサイズ測っとくか……≪ 計測 ≫!」
ビカッ!
終盤、スキルで確認した建物のサイズをメモっておく。あとで画像を組み合わせる時に基準として必要になるだろうし。
スキル≪ 計測 ≫。
目視だけで対象のサイズや速度を計測できる科学系の便利スキルだ。
レベルのあるスキルでオレのはただの≪ 計測 ≫だけど、+1、+2……とレベルが上がるにつれて精度や規模が上がっていく。例えばオレはミリ単位までしか測れないけど、高レベルの計測スキルはマイクロやナノまで計測できるようになるらしい。
……あ゛ぁ? 女の子のスリーサイズ?
残念だったな。このスキルは使用するとカメラのフラッシュ並に目が光る。つまり使えば一発で周囲にバレる。そんな用途では使えないんだ……使えないんだよ!!
「しゅー? なんで泣いてるの?」
「いや……世の中おいしい話は無いんだなって」
「???」
と、そんなこんなで工場の空撮は集め終わった。あとはこれを合成して読み込めるかやってみるだけだ。
「出来上がったのがコレだ」
「おぉ~!」(パチパチパチ)
A4紙に映し出されていたのは紛れもないQRコードだった。空撮画像を合成してから白黒2値に変換したりしてようやく出来上がったものだ。QRコードって作るの大変なんだな……!
「では雫さん、お願いします!」
「まかせて!」
雫がスマホでコードを読み込む。
「……来た!」
「よし!」
スマホを覗き込む。無事サイトにアクセスできていた。応募ページだ。入力フォームがあったので必要な情報を入力した。内容を確認して送信する。
ピコン♪
「「!」」
すぐに応答があった。登録したアドレスにメッセージが届いていた。たぶん受付完了のメッセージだ。
と思ったら。
『ご応募ありがとうございます! また日頃より弊社商品をご愛顧いただき誠にありがとうございます!
あなたは「QRコードで当てよう! 特別なスイートストライクをプレゼント! あなたのハートに甘~い一撃♪ スイートストライク!」の最初の応募者です。
通常、一定期間を設けた上で抽選を実施し当選者を決定いたしますが、初めてのご応募者であるため特別に、ただちに” 特別なスイートストライク ”を進呈いたします!
我々はあなたのようなお客様に恵まれたことを感謝いたします。ご応募までの課程もお楽しみいただけていれば幸いです。今後とも弊社商品のご愛顧よろしくお願いいたします!』
「「!」」
まさかの当選通知だった。そしてメッセージを読み終わった時だった。目の前にウィンドウが表示される。
[ アームズ ≪ スーパースイートストライク ≫ を獲得しました。 ※初到達者の確定報酬です ]
「「おぉー!!」」
スーパースイートストライク。
間違いない。スイートストライクの上位版だ。さっそく雫に取り出してもらった。
ぼむっ!!
「「でっか!?」」
クソデカだった。ウチの居間がパンパンになってしまった。慌てて庭に出る。
わたあめに棒が差さっているという構造は通常版と一緒だ。だけどわたあめの部分が異様にデカい。運動会とかで使う大玉よりひとまわりくらい大きかった。これはスーパーだわ……。
「持ってみる?」
「持ってみる」
スーパースイートストライクを受け取る。わたあめなので基本軽いはずだけど、ここまで巨大となるとそれなりに重い。少なくとも片手で振り回すのは無理そうだ。
≪ スーパースイートストライク ≫
スイーツファクトリーで生産されるお菓子をアームズとしたもの。その中でも特別に生産された一品。固有のアームズスキルにより対象を大きく減速させる。
アームズスキル:スーパースイートストライク
効果:対象を大きく減速させる。
「ッ……、やったな雫!」
「うん! やったね!」
思わず雫と抱き締め会っていた。
初めてだ。初めて鳴司さんや光さんの力を借りずにアイテムを見つけ出した。しかもまだ誰も見つけたことが無かったものだ。達成感もハンパない。
「やっていけるかな、冒険者。いや、これならやっていけるよ」
「うんうんそうだねしゅー。わたしたちやっていけるよ」
ひとしきり抱き締め合ったあと、雫がうずうずしていたのでスーパースイートストライクをそっと差し出す。すると雫はわたあめにパクっと噛みついた。雫が顔を離すと柔らかそうなわたあめが伸びて千切れた。
「うまいか?」
「うーん……もうひと口食べれば分かるかも?」
「しょうがないヤツだな」
「えへへ」
食べ過ぎは良くないけど……まぁ、こんだけわたあめがデカけりゃ少しくらい食べ過ぎても良いか。
そして次の週末、オレたちは大阪にいた。
見つけ出したアームズを自慢するために。
「どーよ先輩! オレたちが見つけたアームズ!」
「……これ食べれるの?」
「他にもっと気になることあるだろ」
まず会えたのはゆりあ先輩だった。「えらいえらい」とほめてくれたけど撫でてくれたのは雫だけだった。オレは? あとやっぱり食べられるかどうか気になるのね……。
次に会えたのがリン先輩。
巨大でピンク色でふわふわしたスーパースイートストライクに目を輝かせていた。かわいい。「さすがです! すごいです!」って褒めてくれたけどやっぱりなでなでしてもらえたのは雫だけだった。ちくしょう……。
「あの……ファクトリーのアームズは食べられるんですよね? ちょっと食べさせてもらっても……あ、ダメならいいんですけど……」
「たくさん食べてください」
そんな上目遣いで頼まれて断れるヤツいるの??
そして最後に
2人とも驚いてはくれたんだけど、それ以上に嬉しそうだったのが印象的だった。自分のことでもないのに、まさかそんな反応されるとは思っていなくてこっちが驚いてしまった。
「見事です。指導した甲斐がありました」
「はい、おふたりのおかげです。ありがとうございました」
「それでこのアームズは食べられるんですか?」
「……」
その後。
なぜか女子4人が集まってコソコソしていた。顔を寄せ合っている。そして雫がぼそりと言った。いや、めっちゃ聞こえてんぞ。鳴司さんと一緒に聞こえないフリしてるけど。
「光さん、わたし気づいちゃったんです」
「というと」
「このスイートストライクの減速効果の本当の使い道です」
「ほう」
雫がもうちょっと近寄るよう手招きする。4人がもっと顔を近づけ合った。やっぱり声は聞こえるんですけど。
「これで減速させるとなんと……ベッドで男の人が長持ちするんです!」
「ほう……」
「???」
「はわ、はわわわっ……!////」
雫ー!! なんてこと言ってんだー!! 光さんは目をキランッとさせてるし! ゆりあ先輩は意味わかってないっぽいけど!
「というわけで皆さんに通常のスイートストライクをプレゼントしますね! たくさんドロップしたので遠慮なくどうぞ!」
って、あ!
しかし遅かった。速攻で雫のスーパースイートストライクの餌食となった。
減速させられた体—— 逃げることはもはや不可能だった。
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