第39話 それでこのアームズは食べられるんですか?【全自動スイーツファクトリー】3




「どこにあるのよQRコードぉー!」




 雫が叫んだ。巨大どら焼きの上に大の字で寝転がった状態で。声が天井に跳ね返って反響していた。


 やってやろうと軽率に始めたまだ見ぬアイテム探し。ヒントを掴んだものの、オレたちは見事に行き詰まっていた。


「……背伸びし過ぎたかもなぁ」


 オレも正直疲れていた。壁に寄りかかる。固い。疲れを癒すには不向きだ。あん巻きクッションが恋しかった……まさかアレが恋しくなるなんてな。


「しゅー、れいちゃんたちってやっぱすごかったんだね」


「そうだなぁ」


「……やっぱりお酒を飲んで脳を柔らかくするのが秘訣なんじゃない!?」


「んなわけないだろ」


「んぁ~」


 起き上がって何を言うのかと思えば。すぐにまたぐでーんとなってしまった。このまましばらく小休止みたいだ。することも無いのでオレはここまでの動きを思い返していた。







 さしあたり向かったのはもちろん” わたあめ ”エリアだった。


「えーとこのエリアは……このエリアも粉塵爆発に注意だってさ」


「ということはまた炎系のスキルは厳禁かぁ」


 このダンジョンは炎系のスキルやアームズの使用がほぼNGになっている。


 というのもお菓子の材料に小麦粉とか砂糖とかがあるからだ。暴れ回って粉末を巻き上げたところに火を付けようものなら一発で爆発する。このダンジョン内で火気を扱えるのは氷菓エリアくらいだろう。



「あと、回転するわたあめに巻き込まれるのに注意」


「わたあめに巻き込まれて○ぬのはイヤね……」


「葬式で『わたあめに巻き込まれ――』って説明されるのもイヤだなぁ」


「なにその具体的なシチュ……気を付けようね」


「ああ、気を付けよう……」



 話しているそばからわたあめが列を成して回転していた。ギュォォォォと高速回転してる。瞬く間に棒にわたあめが絡みついていった。すぐに≪ スイートストライク ≫ が出来上がる。


 縁日とかで売ってるサイズなら良いんだけどな。それより遥かにデカいもん。普通に人間も巻き込まれてぐるんぐるんされるわこれ。



「≪ スイートストライク ≫ も食べれるのよね?」


「食えるらしいぞ。その代わり耐久度がバキっと下がるらしい」


「食べれるし武器になる……なにそれ最強!?」


 雫にとってはそうかもしれないな。


 工程を進む。製造されたわたあめは最終的にビニールでパッケージされて運ばれていった。行き先は[ 駅 ]だ。


 この工場で作られたお菓子たちは全て工場内にある[ 駅 ]に集積される。そこで列車に積み込まれて出荷されるんだ。


 もちろん敷地の外に線路が伸びていた。

 工場は海に囲まれていて海上の高架に線路は敷設されている。


 お菓子を積み込んだ列車は遠く、ここからは淡い輪郭しか見えない街に運ばれていくみたいだ。


 線路に沿って途中まで行くことはできるんだけど、ある地点から先には進めなくなっていた。距離が無限に伸びてしまうらしい。


「材料の搬入も製品の搬出も、マジで全部自動なんだなぁ」


 人間がいないからだろうか。動線がシステマチックで無駄がない。機械たちが大量搬入・大量生産・大量出荷していた。列車も絶え間なくやってくる。


「……っておいおいおいおい! 何してんだ!」


「へ? 疲れたしお菓子もらおうかなって」


 雫が列車に近寄って荷物を漁っていた。箱をこじ開けわたあめのパッケージを抱え上げるとご満悦そうにしていた。列車強盗……いや、列車も巨大すぎるのでネズミあたりが関の山か。

 でも……。


「エネミーを刺激するだろうが!」


 ネズミが紛れ込んだら駆除しようとするよな普通。荷物を運んでいたクレーンが荷物を投げ捨てて……というかこっちに荷物を投げつけてきた! 商品だろそれ! クレーン自体もアームを回転させながら体当たりしてくるし!


「きゃー!?」


「探索中なんだから戦闘になるようなことすんなよ! うわあああ!?」







 こうしてオレたちは四方八方から襲い掛かってくるクレーンの攻撃をなんとか掻いくぐりながら退避した。そして駅全体を見渡せる高所—— 工場の屋上 ——から様子を観察する。


「あの列車、ちゃんと広告のペイントもされてんだな」


 材料やお菓子を詰め込んだコンテナにはペイントが施されていた。工場で生産しているお菓子の写真とか宣伝文句とかだ。


 やってきた列車は荷物の積み下ろしが済んだあとは方向転換して戻っていく。工場をぐるっと囲うようにUの字状に線路が敷設されていた。この工場のためだけに用意された線路だった。



「でもせっかくの広告も誰も見ないな。いや、あっちの街まで行けたら違うんだろうけど。ここで見るのはスイーツをつまみ食いする冒険者だけだ」


「しかも列車のこっち側しか見えないしね」


「……」


「……」


 工場を回り込むようなU字を描いて列車は街に戻る。つまり工場側から見ているかぎり片面——内側の広告しか見ることができない。



「……なぁ、雫がいま言ったの」


「私も気づいた……しゅー、ドローン的なの持ってる? 列車のすぐ向こうは海だからいけないし」


「こんなこともあろうかと大阪で買っておきました」


 ストレージから偵察ドローンを展開する。そして列車の反対側へ機体を回り込ませた。ドローンから届けられる映像がスマホに表示される。列車の側面、工場側からは普段は見えない広告が確認できた。そこにはこう描かれていた。




『QRコードで当てよう! 特別なスイートストライクをプレゼント! あなたのハートにあま~い一撃いちげき♪ スイートストライク!』




「「これかー!!」」





 ――と、まぁ。


 ここまでは順調だった。でもここからが問題だった。


 いくら探してもQRコードが見つからなかった。


 フツーだったらスイートストライクのパッケージとかにプリントされてそうなものだけど違うらしい。じゃあパッケージを開けた裏側かと思ったけどいくら開封してもそんなもの見当たらなかった。


 じゃあオフィスか? と思ってオフィスエリアのロッカーとかデスクとかをあさりまくったけど一向に見つからない。チラシとかはあったけどQRコードが記載されたものはなかった。


 そのあたりで心が折れ始めていた。所詮しょせんここらが限界だったかと。


 あとダンジョンがそもそも縮尺的に巨大なので単純に移動距離が長いというのもある。高低差も激しい。しかもいろいろ探しながらだからペースも上がらない。探索をしているものの「なんでオレこんなことしてるんだっけ?」という自問自答が何度も脳内でリピートするくらいに疲れていた。






「……」


 そして回想が今に追いつく。

 かくして出来上がったのが巨大どら焼きに大の字で脱力する雫と、クソデカあん巻きが恋しくなったオレだった。


「どーする帰るー?」


「んんー……」


 悩みどころだ。2つの意味で。


 1つはわたあめ系を諦めるかどうか。


 もう1つは今からダンジョンを出るかどうかだ。


 というのも出入口が遠かった。

 いまオレたちがいるのは工場の出入口だ。それはつまり受付——エントランスだろうか。工場見学とかに来たら通されるような空間だ。受付さんがいそうなカウンターがあるし、足元は絨毯だし、ソファとかローテブルとかもある。観葉植物とかもあってオシャレだ。


 ここはダンジョンの出入口からは離れていた。ちょうど壁に掛けてある敷地の案内マップを見れば一目瞭然だった。


 工場の敷地は正方形をしている。現在地は正方形の下辺の中央。一方いっぽうでダンジョンの出入口は左上の頂点の近くにある。遠いんだこれが。まっすぐ進めるわけじゃないしな。



「……んん?」


「しゅー?」



 オレはフラフラと立ち上がった。そして案内マップに近寄って眺めた。不思議に思ったのか雫も起き上がって案内マップを見上げた。



「あのマップがどうかしたの?」


「ああ、いや……同じだなぁって思って」


「何が?」




「つまりその……この工場の敷地とQRコード、どっちも正方形だなぁって」





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