第38話 それでこのアームズは食べられるんですか?【全自動スイーツファクトリー】2




「もう食べられないぃ……」



 信じられないことにダンジョン内で聞こえたセリフだった。音源はお腹を抱えて巨大あん巻きに寄りかかるしずくである。口元にあんこが付いていた。



「だから言ったろ。食うなとは言わないけどペース考えろって」


「うぅぅ……」



 雫が動きそうになかったので隣に座る。クソデカあん巻きに一緒に背中を預ける。……悔しいことに案外心地ここち良いんだよなコレ。ふわふわだ。



「まあでもけっこうドロップは手に入ったな。余裕で黒字だろ」


「てことは……晩ご飯はごちそうってこと!?」


満腹その状態で目を輝かせられるのスゲーよ」



 別腹ってやつか? 胃袋何個なんこあんの?

 よく食べてよく眠る。お手本のような健康体だ。

 太ってもいないんだよなぁ、不思議だ。気になって脇腹つついてみたらびくん! ってしたあとフシャーッ! ってされた。ごめんて。



「レベルが上がったおかげでだいぶ余裕ができた。今までだったらこの辺りに来るのはもっと時間かかってただろ?」


「そういえばたしかに……あ! だからお腹いっぱいなんだ! 1つのスイーツエリアを抜けるまでの時間が短くなってインターバルも短縮されたのよ!」


「実感するトコそこかよ」



 けどやっぱり今までよりスムーズに攻略できるようになったのは確かなようだ。


 【淀宮よどみや】でフィールドボスを撃破したのが大きかったのか、すでにレベル600代も目前になっていた。

 600代といえば冒険者のレベルの中央値。つまり多くの冒険者がこのレベル帯で生計を立てている。ステータスが上がり装備が整い、取れる戦略が増え、安定感が出てくるのがこのレベル帯ということだろう。

 つまり……もうひと押し。



「……なぁ、アレ探してみないか?」


「アレ?」


「見つかってない ” わたあめ ”系」



 このダンジョンには存在が予測されていてまだ見つかっていないアイテムがある。それが ” わたあめ ” 系と呼ばれる、お菓子のわたあめにあやかったアイテムだ。



「わたあめ系で今のところ見つかってるのは……」


「 ≪あたり棒 ≫ と≪ スイートストライク ≫」



 ≪ あたり棒 ≫ はわたあめを巻きつけてあった棒がアームズになったものだ。棒の先端に『あたり!』と書いてある。長さは1メートルくらいでカテゴリ的にはメイスらしい。


 あたり棒、ダンジョン外のお菓子だったらもう1個もらえたりするんだろう。けどもちろんそうはならない。


 というのも、アームズの≪ あたり棒 ≫は攻撃した対象に[ 毒 ]の状態異常を発生させる効果を持っていた。つまりあたりはあたりでも食毒とかしょくあたりの方の ”あたり” だった。



 そして≪ スイートストライク ≫ はというと、≪ あたり棒 ≫にピンク色のわたあめが巻き付いたものだ。わたあめのサイズはバランスボースくらい。余裕で人の顔より大きかった。


 このアームズはグレートメイス扱いになっている。つまり両手持ちが基本の鈍器だ。けどやはりもとはわたあめ。攻撃力はイマイチだ。殴るとボフッてなるし。あと食えるし。


 一方で非常に特殊な効果を持っていた。

 減速げんそく効果だ。


 武器固有のスキル≪スイートストライク≫ を命中させることで対象の速度をダウンさせることができた。【メリーさんハウス】のボスぬいぐるみが仕掛けてきた状態異常と似ている。そういえばあっちも綿わただったな。


 機敏きびんに動くけど図体が大きくて攻撃を当てやすいエネミー……つまりこのダンジョンの製造ロボットたちに効果的だった。



「他のお菓子は最低3種類はドロップがある」



 例えばぼたもちなら

 ≪ 追いはぎおはぎ ≫

 ≪ ぼたもちグレネード ≫

 ≪ グレートぼたもちグレネード ≫。


 まんじゅうなら

 ≪ スキアリまんじゅう ≫

 ≪ みりおんまんじゅう ≫

 ≪ びりおんまんじゅう ≫、といった具合に。



「けどわたあめ系はいまだに2種類しか見つかってない」


「≪ スイートストライク ≫の上位版とかがあるんじゃない? ってことよね」


「そうだ」


「でも見つかっていないってなると……」


「ただ単に攻略してるだけじゃ見つからないタイプのアイテムってことだ」


 顔を見合わせる。

 どちらからともなくニヤリを笑った。



「つまり……れいちゃんたちから教えを受けた私たちの出番!」


「ああ!」



 かつてその存在が予言されていて長くドロップが無かった≪ ヒヒイロカネ ≫。それを最初に見つけ出したのは黎明記れいめいき機械きかいの2人だ。

 そしてその2人からノウハウを授けてもらった。であれば背中を追ってみたいというのが心情だった。



「そうと決まれば!」


 雫がむんっと立ち上がる。


「しゅー! 探索の時間よ!」


「そうだな!」


 オレも立ち上がる。雫が「行くぞー!」と気合を入れたので「おー!」と返した。そのまま雫は意気揚々と歩き出す。



「ふんふんふ~ん♪ まだ見ぬアイテムはどんな味かなぁ~♪」


「食うなよ」



 見つけたら隠した方が良いかもしれん。





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