第37話 それでこのアームズは食べられるんですか?【全自動スイーツファクトリー】1




「しゅー! 朝よ! 希望の朝が来たわ!」


「……」




 いま何時かって?

 朝の4時です。おはようございます。外が暗い。



「しゅーーーー! おきてー!!!」


「……」



 おかしい。幼なじみの女の子に起こされるという男なら誰もが夢見るシチュエーションなのになんも嬉しくない。ていうか眠い。


 あ、そうかコレ夢なんだ。きっとそうだ。雫がオレより早く起きるなんてありえないからな。



「オハヨー!!」


「ちくしょう! 夢じゃねぇ!」



 ガバっと起きた。こんなうるせー夢があってたまるか! 目が覚めるわ!



「やっと起きた。おはよ」


「ああ、おはよう……」


「朝ごはんはできてるわ! 冷めないうちに食べよう! あ、お弁当もできてるから! もうストレージに入れました!」


「……うん、サンキューな」


「えへへ。まあしゅーが昨日仕込んでくれたのを料理しただけなんだけどね」


 それでもありがたいことには変わりない。欲を言えばもうちょっと寝ていたかったけど。今日行くダンジョンわりと近いし。


「ほんとファクトリーに行く時は元気だよなしずく……」


「冒険者女子なら普通よ!」


 ※諸説あります。


「顔洗ってくる」


「ご飯よそっておくね」


 洗面所に向かう道すがら、台所の前を通り過ぎる。炊き立てのゴハンの香りが食欲を刺激した。









【全自動スイーツファクトリー】。


 その名の通り製菓工場の様相ようそうていしたダンジョンだ。工場内は全て無人でありながら、延々と多種多様なスイーツが製造され続けている。


 ライン上に流れているスイーツは食用可だ。しかもけっこうクオリティが高い。雫がご機嫌なのはこれが理由だった。つまり盗み食いする気満々である。


 しかしそうおいしい話ばかりではない。


 というのもこのダンジョンにもエネミーが存在する。製造ロボットたちだ。ヤツらが人間の代わりに機械を操作したりすることでこのファクトリーは無人で動き続けている。


 製造ロボットたちは作業の邪魔をしたりオレらを見つけたりすると襲い掛かってくる。もちろん盗み食いした場合も。まあ連中からすれば冒険者は完全に害虫というわけだ。


 そう、害虫だ。



 この工場は巨大だった。



 面積が広かったり天井がやたら高いという意味ではない。

 

 縮尺がおかしかった。明らかに人間が出入りするサイズの建物ではないし、人間が普通に食べられるサイズのお菓子を作っていなかった。


 お菓子を移動させているベルトコンベアなんて動く歩道も同然だ。ビスケットは人間が4人座れるちゃぶ台くらいの大きさだし、あん巻きは敷布団しきぶとんくらいのサイズだ。異様にデカイ。


 まぁそれを食おうとしているヤツもいるわけだが……。


 そして当然、作業ロボットも巨大だった。搭乗式アームズ並だ。人間なんてあっさり叩き潰せる。そのせいかおかげか、搭乗式アームズ向けのアームズもドロップしたりする。



 このダンジョンで入手できるアイテムは大きく分けて2タイプだ。



 1つはスイーツ系のアームズやアイテム。


 有名どころでは≪ みがわりあんまき ≫ や ≪ ぼたもちグレネード ≫、≪板チョコシールド≫。あと≪ダンジョンメッチャカタイアズキアイスソード≫はこのダンジョン産のアームズだ。入手できたことないけど。


 もう1つは搭乗式アームズ向けのフレームやアームズだ。


 腕部や脚部といったフレーム類は軽量なものが多い。元は作業用なので戦闘にはあまり向いていないな。けど重量を抑えたい時に選択肢に入ってくる。


 アームズ類は製造設備を無理やりアームズに仕立てたものが多い。≪回転カッター≫、≪ 回転スライサー ≫、≪ ミキサーブレード ≫、≪ あぶりバーナー ≫、≪ PPバンド投擲とうてき銃 ≫などなどだ。


 つまり……。



 雫はスイーツ系のドロップを目当てに。


 オレは搭乗式アームズ向けのドロップを目当てに。



 お互いの需要が一挙に満たせる稀有なダンジョンだ。近所にあれば確実にホームダンジョンの1つになっていただろう。



「狙うは≪ 回転カッター ≫か≪ 回転スライサー ≫だな。刺突属性以外のアームズがほしい」



【メリーさんハウス】ではゼンテイカのアームズが刺突属性ばかりで難儀した。回転カッターと回転スライサーは斬撃属性なので、何とか入手して手札を増やしたいところだ。



「雫は?」


「なんか美味しいヤツ!」


「……言っちゃあれだけど、太っても知らないぞ」


「はっ……!?」



 雫の動きがビタっと止まった。そして自分のウエストに手を当てて何度かでた……何度撫でてもボリュームは変わったりしないと思うが。



「……しゅ、しゅーなら私があん巻きみたいな体形になっても愛してくれる……よね?」


「え……?」



 あん巻き? あん巻きかぁ……あん巻き……。


 うーん。



「……」


「しゅー? ねえ何か言って?」


「……」


「しゅー!? しゅーってば! ねぇ!」


「……」


「ねぇってばーー!」



 二の腕を掴んで体をガクンガクン揺らしてくる雫の攻撃がひと段落した頃、オレたちはファクトリーの入口に辿り着いていた。






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