第36話 ショートエピソード:二色開闢(にしきのはじめ)
「……なぁ副支店長」
「なんです?」
「わたし帰りたいんだが。やっと地上に戻って来たんだ」
「であれば早く書類を片付けてください」
「片付けろってお前、見ろこの書類の山。ダンジョンの床より分厚いぞ」
「あ、次これです」
「お前
「早く書類片付けていただけたら愛想よくしますよ」
「なんでお前
冒険者組合・梅田支店。
そのビルの[理事長室]と表示された部屋で2人の女性がボヤいていた。
1人はこの支店の副支店長。つまり事務方のナンバー2。どこかの酔っぱらいに厄介な依頼を振ったところ思いの
そしてもう1人は理事長。つまり大阪の冒険者組合のトップである。
この国における冒険者の実質的な頂点にも君臨する冒険者だ。
ビルドは純技量型。レベルは3000を超えていた。メインアームズはその辺でドロップするノーマルな刀だが、ダンジョン産の素材で極限まで鍛え上げられている。和風に仕立て上げられたアーマー類も素材は当然ダンジョン産であり、そのいずれも超高ランクの素材であった。
当然
ちなみに30代既婚者で2人の子持ち。最近の楽しみは子供と一緒にお菓子を作ることだった。
「おかしくないか現役バリバリの私がこんなことしてるの? ……そうだ、
「
「私も子供と過ごしたいんだが??」
「そういえば
「ああ、これか」
「技量特化のアームズでなぁ。本当は二刀一対らしい。これの片割れ見つけたらいよいよ引退するかな。はっはっはっ」
「待ってくださいよ。理事長が引退したら次
組合の理事は人手不足だった。
というのも冒険者というのは奔放な生き物だ。組合というシステムの恩恵を受けながらもいざ組合に貢献しろというと面倒だと言って何だかんだ逃げるのが普通だった。まぁ社会のどこでもその傾向は見られるのだが、冒険者ではそれがさらに顕著になる。
その点において二色開闢は非常に人格者であった。
いろいろ文句はいうけど最終的には冒険者の規範として仕事をしようとする。特に、破天荒なのがデフォルトな高ランク冒険者たちの中において奇跡的なまでに話が通じる貴重な人材なのであった。
「あーほら、アイツがいるじゃないか。
「ハァ? 光さんがこんなことするわけないじゃないですか」
「アイツの評価
冒険者としての能力はむしろ非常に高く評価していた。彼女がこの数年で成し遂げてきたことはダンジョンの歴史に名を刻んでも良いレベルのことが含まれている。
しかし一方で、社会人的な評価に関しては地の底だった。
「この前なんて『組合の理j——』って言った瞬間グランドリーフで逃げましたからね」
「なんというグランドリーフの無駄遣い……」
「結婚して落ち着いたかと思えば……相手が良くなかったんじゃないのか?」
「それいうと地の果てまで追いかけてきますよ」
「下手なホラーより怖いんだが」
と、ここで
「そうだ、飲んだくれの方の
「現実逃避はそろそろやめましょう」
「……そうだな」
部屋の明かりはまだしばらく消えそうにない。
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