第35話 ダンジョン【淀宮(よどみや)】7




 ≪ 淡青たんせい


 ≪ 感染銃・ハーベストレイン ≫


 ≪ 感染弾・ハーベストレイン ≫



 報酬ドロップはこの3つだった。


『弾丸の方、リン先輩なら使い道あるんじゃないですか?』


『リン、わたしもそう思う』


 リン先輩は召喚した植物の有毒な花粉とかを戦闘に使う。今は散布したりするだけだけど、あらかじめ採取しておいた花粉や毒液を弾丸に充填しておけば別の戦術につながるんじゃないか?


『短刀の方は……』


『二刀一対とは面倒ですね。片割れを探したくなります』


『というか探せって意味だと思うよ?』


『いちなん去ってまたいちなん』


『先輩たちどっちかステータス合ってます?』


 結論を言うと、誰も装備条件が合わなかった。≪淡青≫は装備に高い技量を要求して、さらに高い技量補正があった。完全に純技量ビルド向けのアームズだ。


 ゆりあ先輩は一応装備できる。超電磁外骨格でステータスが全体的に引き上げられているから。けど科学の方がステータスが高いのでこのままマイクロプラズマブレードを使った方が良い。淡青を装備する理由が無かった。

 リン先輩は科学秘術型なので論外。オレは科学筋力型、雫は秘術型なのでやっぱり論外。


『売却っすかね』


『そうなりそうですね』


 そのうち片割れを見つけられることを期待して持っておくのも手だ。セット販売の方が付加価値はあるはずだ。でもコストが見合うかどうかは微妙なラインだし、一生見つからない可能性もある。放流して「片割れもほしい!」と思った人に自分で探してもらう方が無難か。


『じゃあリン先輩は≪ ハーベストレイン ≫シリーズを』


『ありがとうございます!』


『あとはアイテムの換金だけど……リン、換金分は後輩ズに全部あげてもいい』


『『え』』


『それもそうですね。私はハーベストレインいただいちゃいましたし、なによりあのボスを撃破できたのはお兄さんのおかげです。MVPです』


『いやいや! それはさすがに!』


『そうだよ! わたしたちだけじゃあのボスとか絶対倒せないし!』


『もともと頼んだのはわたしたち』


『そうですそうです。望外の成果です』


 そんなやり取りを何度か繰り返した結果、結局オレたちが折れた。先輩たちはガンコだった。まだ淡青の売却額も決まってないのにこんな約束して大丈夫なんだろうか先輩たち。まあ思ったより高額でやっぱちょっとくれって言われた方が気が楽かもしれない。











「よ。後輩」


「先日はありがとうございましたお兄さんお姉さん」


「何でいんの……?」


 何故か分からないがゆりあ先輩とリン先輩がいた。ウチに。どうも雫がOK出したらしい。先に言えや。


「そうですか。こんな田舎まですみません。すぐ駅まで送りますよ」


「後輩、バーベキューしよ」


「今日はお姉さんの家に泊まります!」


「ん~♪ 妹ができたみたーい♪」


 雫が先輩たちに抱きついてお互いきゃーきゃー言っていた。



「バーベキュゥゥゥ? けっこう面倒——」


「後輩、牛肉買ってきた」


「すぐ準備します」


 見せてもらった。霜降り・肉厚・箱にぎっしりなめっちゃ良さげな牛肉だった。しかも何箱もあるし。これが高レベル冒険者か……!


「くっ……オレは屈したりは……!」


「うん、準備万端だねしゅー!」


「おう!」


 いつの間にか準備万端だった。おかしい、体が勝手に……。






 都会在住の先輩たちはあまりバーベキュー、特にダンジョンじゃない場所でやるバーベキューには縁がないらしく、ずっとワクワクした様子でコンロの炭火とかを眺めていた。



「そういえば≪ 淡青たんせい ≫は二色にしきのさんが買ってくれた」


「え!? 二色さんってランキング2位の!?」


「その二色さんです」


「ひぇー」



 二色にしきの開闢はじめ


 マルギナタ・ランキング2位の女性冒険者だ。第1位が災害級冒険者で非公開のため、国内の実質的なトップ冒険者は二色さんということになる。


 純技量ビルドの冒険者で、メインアームズはなんとそのへんでドロップするノーマルのかたな。ただしダンジョン素材で極限まで強化されているとか。


 彼女が繰り出す斬撃は大気を斬り裂きしのけ、青空あおぞらに宇宙のくろを覗かせることができるらしい。ただ地上でやると有害な宇宙線が降り注ぎかねないのでダンジョン内でしかやったこと無いとかなんとか。


 ちなみに二色さんの拠点は梅田だ。こんな怪物冒険者がいるのに、それでもなお梅田ダンジョンは踏破されていない。梅田ダンジョンのヤバさが身に沁みる一因になっていた。



「後輩のこと教えといた」


「なんで??」



 なんでそんな人にオレの情報売ったの??


「片割れの≪ 新星しんせい ≫を探してみるって言ってた。淡青を手に入れられたのは後輩のおかげ。せんだつはあら……あま……あほ?」


「あらまほしきことなりだ」


「それ」


 だれがアホだよ。


「ちなみに≪ ロータスラヴ ≫を再入手できたので売りに出したところ、ランキング6位の” 艦剣タンカーブレード ” さんが買ってくれましたよ。鑑定したらサイキック系スキルの強化率がすさまじくって、興味あるから試してみると」


「ひぇー」


 第6位” 艦剣タンカーブレード ”。

 国内最強のサイキック冒険者だ。その2つ名は念動力でタンカーをぶん回して敵にぶつける圧巻の戦闘スタイルから。KAIJU映画か? そんだけ強けりゃブーストなんていらないだろうに。



「あと後輩もちょっと話題」


「なんで??」



 ゆりあ先輩からスマホを見せられる。SNSのアプリが開いていた。なんか動画が再生されている。



『ガコォン――』



 ゼンテイカで砲撃している時の様子だった。どこからか撮影されていたっぽい。その動画に付けられているコメントはこうだった。




 ” 【淀宮】で砲撃してるヤツいるんだが……エネミーめっちゃ寄ってくるだろこれ……”


 ” なんだこの黄色いスナイパー 命知らずか?? ”


 ” エネミーの方から来てもらえれば探す手間が省けるからヨシ! ”


 ” た、たしかに不意打ちはされなくなるかもしれんな……”


 ” 黄色いスナイパー……目立つためのカラーリング……なのか? ”




「……」


 オレが唖然としていると、リン先輩が申し訳なさそうに手を上げた。


「あの……【淀宮】のエネミーって銃火器の音にけっこう敏感に反応するみたいで……スナイパーキャノンレベルになると絶対エネミーを呼び寄せるらしくって……」


「……」


 え? じゃあ何? ボスを相手にしてる時にエネミーが寄って来たのってほぼ必然だったってこと? あの迫真の足止めは何だったの??


「わっ、私もゆりあちゃんも銃火器系は使わないから忘れてて……それでお兄さんにああいう指示をしてしまって……ご、ごめんなさい!」



 リン先輩……先輩だけは信じてたのに……!!



「リン、もっと申し訳なさそうに」


「申し訳ございませんでした!」


「リン、もっと可愛く」


「かわいく……!?」


 何言ってんのゆりあ先輩。前に自分が謝罪させられた時の仕返しか?


 でも気になる。リン先輩の可愛い謝罪、めっちゃ気になる。SNSで晒される結果になったのは許しがたいが。


「えーっと……!」


 わたわたしてるリン先輩。この時点で可愛い。それを見てなごんでいると、意を決した様子のリン先輩が、顔を赤らめさせながら言った。




「て、てへぺろ……☆///」





 許した。





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