第31話 ダンジョン【淀宮(よどみや)】3
ズグッ! ——ジュオオオオォォ!!
フィールドボスの胸部から刃が飛び出す。そして紫電が撒き散らされた。
ゆりあ先輩の
と、これだけだとすぐに戦闘が終わったみたいだけど、実際はかなりの死闘だった。何度もお互いフォローしたし、消耗品すげー使ったし、逃げ回った。
あとゆりあ先輩がいなかったら確実に死んでたと思う。1対1ではゆりあ先輩と互角だった。ということは相手もレベル1000相当の強さだったわけだし。
『ハァッ、ハァッ……後輩、よくがんばった』
『……っ、嬉しいっすね。先輩に素直に褒められるなんてな……うぐっ』
『あーもう無茶ですよぅ! 早くこれ飲んでください障害残っちゃいますよ!』
『リンせんぱーい、それってバカも治るー?』
それエリクサーでも治らないって評判だからな
そんなことを考えながらリン先輩に差し出されたボトルを飲み干す。たぶん解毒薬的な何かだ。手足が痙攣するわジクジク痛むわで思い通りに動かせなかったのがすぐに治った。
『でも今度からゼンテイカが壊れたら後輩は退くべき』
『おかげで仕留められたじゃん?』
薬を飲む羽目になったのはリン先輩の花粉攻撃の効果範囲内に生身で突っ込んだからだ。最初はゼンテイカで戦ってたんだけどぶっ壊された。
『わたしたちが期待していたのはもっと安全にこのボスを無力化すること。こんなギリギリの戦いは望んでいない』
『そうですよ。捨て身ではダメです。これはハッキリ言わせていただきます。めっ、ですよ、お兄さん』
『……』
『聞いてます?!』
『あ、スミマセン』
「めっ」が可愛すぎて頭に入ってこないっす。
『それでどうなんですか。2人の時と比べて』
『……まぁ、すこし楽なのは確か』
『初見で逃走じゃなくて撃破で終わったのは素直に嬉しいですね』
そう言ってリン先輩は倒れるフィールドボスを見下ろした。
『さぁ、もたもたしてると起き上がります。消耗したことは確かですし引き上げましょう』
返事をしたりうなずいたりして皆が同意する。ゆりあ先輩が真っ先に歩き出したのでそれに続いた。
のだが。
違和感に気がついて足を止める。それを察した3人もこちらを振り返った
『どうしたのしゅー?』
『いやちょっと』
『? 後輩、復活は割と早い。急いだ方がいい』
『何か気になることがあるんですか?』
『いやその……なんで体が残ってるのかなぁと』
『……? こっちをまた追いかけるためだと思う』
『別にリスポーンでもいいと思うんすよ。いつまでも追いかけてくるなんて正直やりすぎのような気がするし』
——そしてふと頭をよぎる思考。
こんな時、あの2人ならどうするだろうか?
『……なあこれ、武装解除とかできないか?』
『『『???』』』
『ほら、普通エネミーってドロップ残して消えるけど、コイツはまだ体も武器もある。今のうちに武器を奪えば次から楽になるんじゃないか?』
『え、でも……』
『後輩、それは……』
『ちょ、ちょっと
みんなで倒れたエネミーを見やる。血まみれで全身ボロボロだ。仰向けになっていて、動いていた時と表情が変わっていない。つまり微笑んでいる。血まみれなのに。今にも動き出しそうだ。
『……死体漁りは感心しないが』
ものは試しだ。言い出しっぺのオレがやってみよう。そう思ってエネミーの武器に手を伸ばす。
だけど。
『ぐっ……!? は、離さねぇ……!』
武器を握ったまま手はびくともしなかった。引き抜けもしない。そうしている間にもエネミーは微笑みを浮かべたまま。不気味すぎる。
(他に何かないか?)
ポケットとかも漁ってみる。すると。
『あ』
スマートフォン。
ジャケットのポケットに入っていた。ブックタイプのカバーを開くと、中にはスマホと一緒に—— 免許証らしきものが入っていた。貼り付いている顔写真はこのフィールドボスのものだ。
ついでにスマートフォンのディスプレイをオンにしてみると、そこには2人の女性のツーショットが表示されていた。
1人はフィールドボス、もうひとりは知らない女の人だった。どこかの学校の制服を着ている。
『後輩、そろそろまずい』
『お兄さん、今の状態で再戦になると逃げ切るのも無理です。行きましょう』
『分かった。すみませんでした。行きましょう』
スマホと免許証をストレージにしまって走り出す。
『それでしゅー、成果は?』
『この免許証みたいなの、住所が書いてある』
『住所?』
『後輩、見せて。……なるほど。リン、見て』
ゆりあ先輩、リン先輩と順に確認した。そして2人は目を合わせて頷く。
『明日はこの住所に行ってみましょうか』
次の目標が決まったみたいだ。
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