第29話 ダンジョン【淀宮(よどみや)】1




『後輩、【淀宮よどみや】行こ』


「嫌です。じゃあな」




 ピ。


 ピリリリリリ。




『後輩、【淀宮】——』


「行きませんそんな激ヤバダンジョン」




 ピ。


 ピリリリリリリリリリリ。




「行かないって言ってんだろ!!」


『ふぇ……っ、あ、あ、す、すみませんお兄さ……! あの、は、話だけでも……! ぐす……っ、ぅぅう……』


「マジすみませんでした」



 ゆりあかと思ったらリン先輩だった。ゆりあめ、姑息な手を……! そして電話を替わったのか再びゆりあの声が聞こえた。



『後輩、【淀宮】行こ』


「……そのダンジョンちょうヤバイ所じゃん。なんでまた……」


『わたしたちのホームダンジョンのひとつ』


「……マジ?」


『入手できる≪ 機身きしん ≫……超高性能の義肢ぎしとか義眼は欲しがる人が多い。普通の人もだけど、とくに手足や視力をうしなってしまった冒険者とか。わたしはそういう人たちに機身を届けたくてあのダンジョンに潜る』


「……」



 耐久ビルドとかいう理不尽な先天性を持って生まれ、超電磁ちょうでんじ外骨格がいこっかくを光さんからもらってようやくまともに冒険者をやれるようになった先輩だ。そういう気持ちが人一倍強いのかもしれない。ちょっと見直した。



「ホームダンジョンならいまさらオレたちはいらないんじゃないか?」


『やっかいなフィールドボスがいる。見つかると無限再生して延々追跡して来る。大きな損傷を与えれば一時的に行動不能になって追跡されなくなるけど、リンと2人では安定しないし、仮にそこまでダメージを与えてもこちらの消耗が大きい。だからそれ以上に進めなくなる』


「4人なら何とかなりそうなのか?」


『試したい』


「なるほど……うーん、でもなぁ」


『お兄さんお姉さん、リンです。防塵ぼうじん機能のあるバトルマスクを支給してそのまま差し上げます。もしおふたりが耐高ストレス環境スーツや、粉塵ふんじんを防げるパッシブスキル―— 科学ビルドなら” クリーンルーム ”とか、秘術ビルドなら結界系をお持ちでしたらそちらでもOKです』


「どっちも無いな。粉塵対策ができれば何とかなるのか?」


『致命的な事態は防ぐことができます。ダンジョンの出入口で除染と検疫ができますので、最終的にはそこで完全に安全な状態にしていただく必要があります』


「さすがだな。だが無理もない」


機身きしんの他にも超能力サイキック系のスキルを強化するドラッグ型のアイテムとかも入手できます。産出品は優秀ですが、それに比例して危険なダンジョンですから管理はとても厳しいです』


『それでどう後輩。一緒に来てくれる?』


 しずくに視線を送る。頷いた。たしかにそこまで対策が確立していて装備も用意してくれるなら安全マージンとしては合格か。


「わかった」


『ありがとう。じゃあまた』


『お兄さんお姉さん、ありがとうございます! よろしくお願いします!』






 ――その数日後、オレたちはダンジョンの出入口の前にいた。



 ダンジョン【淀宮よどみや】。



 通称・ うら三宮さんのみや 。三宮周辺の街並みを丸写ししたかのような空間が広がる都市型ダンジョンだ。ダンジョン内は重篤な生物汚染が発生していてバイオハザード状態となっている。


 汚染の元となっているのはとあるウイルスだ。それは冒険者にも感染した。仮にそのウイルスがダンジョン外へ持ち出された場合、ダンジョン外で甚大な被害が発生すると予想されている。


 ダンジョンは危険な場所。


 それを強く再認識させてくれるダンジョンだった。



『では最後にもう一度マスクを確認してください』



 イヤホンからリン先輩の声がする。オレはもう一度マスクを確認した。


 金属のプレートが組み合わされてできたサイバーパンク的なデザインのマスクだ。なんかよく分からない数字やマークがプリントされている。正直めっちゃカッコいい。目を覆う透明なゴーグルと一体になっていた。


 リン先輩はオレと同じマスクを付けている。でも結界系のスキルがあるので基本はそちらで対策するらしい。マスクは気力が切れた時の保険とのことだ。


 そして雫とゆりあ先輩はフルフェイスタイプのマスクだった。オレとリン先輩のはゴーグル部分が透明だけど、2人のはゴーグル部分まで金属プレートで覆われている。当然こちらから2人の目は見えないけど、内側からは外が見えるらしい。ゴーグル部分には横方向にラインが通っていてブルーに光っている。同じ系統のデザインでやっぱりかっこいい。防塵性能は同じとのことだ。



『OKですね。それでは行きましょう』


『よろしく、後輩』


『ああ』


『はい!』



 こうしてオレたちはいよいよダンジョンに足を踏み入れたのだった。




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