第28話 高端(たかばし)ゆりあ3





 先天性レベル保持者。




 文字通り、生まれながらにしてレベルを有した人々のことだ。


 大多数の人間がレベル1、かつ多少のステータスだけを持って生まれる中、先天性レベル保持者たちは圧倒的に高いレベルとステータスを持った状態で生を受ける。その数値はレベルにして大体が3桁だ。


 当然、かなり若年のうちからの活躍が期待される。そしておおむね期待通りになる。多くの人々がレベル上げに苦労しときにドロップアウトする中、彼ら彼女らは高いステータスを裏付けにして安全にスタートダッシュできるから。


 とはいえ、自分好みのステータスにできないというデメリットもある。


 経験値を稼げば別のステータスにも数値を振れる。けどすでに伸びているステータスは活かしたいのが心情というもの。それになにより高レベルになるほどレベル上げが大変なのだから、別のステータスに数値を振るのも一苦労だ。


 そういったことをふまえた時。


 目の前にぶら下がっている少女—— 世にも珍しい耐久ビルドの少女の苦労は推して知るべしだ。


「先天性レベル保持者だけど、まさか高かったステータスが……」


「ええ、はい、ゆりあちゃんのステータスは生まれた時から耐久特化だったんです」


「うわぁ……」


 気の毒だなんてもんじゃなかった。冒険者人生はほぼ絶たれたと思っていい。


 たしかに耐久が高ければ防御力と状態異常への耐性は高くなる。だけど防御力についてはアーマーの方がよほど防御力の向上に貢献する。耐性の上昇は便利だけどアイテムで何とかなると言えばそうだ。


 けどそれよりも問題なのは火力の方だ。

 攻撃力が無ければ敵を倒して経験値を得ることもできないし、仮に倒しても得られる経験値がレベルに対して非常に少ない—— その攻撃力で倒せるエネミーはいわゆるザコ敵だから。つまりレベル上げが超しんどい。自分のことじゃないけど心が折れそうだ。


「よく腐らずにいられたな」


れいさんのおかげ」


「なるほど。≪超電磁ちょうでんじ外骨格がいこっかく≫は光さんからもらった感じか」


「もらってない。出世払い。もう返した」


 えらいな。なんかふてぶてしいというか、堂々としてるのも理解できる。


「このアーマー、装備条件に耐久のパラメーターがあるんですよ。そして装備したら他のステータスが大幅加算! なんとレベル1000相当! まさにゆりあちゃんのためのような装備です!」


 名前から察するに、電磁気力で発生した力で体を動かすスーツだろう。かなり強烈な瞬発力が発生するのだとすれば、ただの身体ではその挙動についていけずケガをする。しかし耐久にステータスを振った冒険者であれば話は別、といったところか。


「大変だったんだねぇ……!」


 感極まった様子のしずくがゆりあちゃんとやらの頭を撫でている。ちょっと迷惑そうだったけど抵抗はなかった。


「まあなんでもいいけど修理代はよこせよ」


「わかった。体で払う」


「現金でよこせや」


 どこで覚えてくるんだ小学生がそんなセリフ。

 あとオレは雫一筋ひとすじ……たぶんそう、おそらくそう、部分的にそうだからな。


「しょうがない。後輩におごるのは先輩の仕事」


「おまえの方が先輩だっていうのか?」


「ん。活動期間も長い」


 冒険者ライセンスを見せられた。マジで登録年月日がオレより早かったわ……。


「くっ……先輩、金払え」


「先輩……悪くない響き」


「満足げにしてないで払ってもらえます?」


「あとで請求書送って」


 女子小学生の連絡先をゲットしてしまった……逮捕されないよな?


「ふふふ……わたしが先輩……つまりやっぱりわたしが光さんの一番弟子……ふふ、ふふふふ……」


「……なぁ先輩」


「なに、後輩」


「えらく光さんの弟子に固執してるみたいだけど……そもそも光さんは弟子取ってないし。あと光さんだったらあんなことしないと思うぞ」


「あんなこと……?」


「果たし状だよ」


「……?」


「光さんならあんなもん出さずに闇討ちしてるって絶対」


「……」


「オレの方が光さんのやり方よく理解してないか?」


「……」


 きょとんとした様子のゆりあ先輩としばらく顔を見合わせる。


 すると。




 ポロ、ポロポロポロ……!




 先輩の瞳から涙が溢れ出した。


「えぇー!?」


「あーあ、泣かした」


「うぅうぅう……後輩がいじめるぅー……」


 泣きながらリンちゃんに抱きつくゆりあ。リンちゃんは彼女をそっと抱き留めて頭をぽんぽんした。


「おぉーよしよし。でもお兄さんの言うことも一理あるからねぇ〜」


 そうだよリンちゃん。もっと言ってやって。





 突然やってきた厄介な年下先輩は、そんなこんなでこの町からは去っていったのだが……。


「あ、小学生かせたヤツ」


「小学生から連絡先おしえてもらって喜んでたらしいわよ」


「もの壊されたからって身体で払えって小学生に言ったらしいわ!」


 尾ひれとか背ひれとかがくっついた噂が街中に拡散していたのだった。これだから田舎は!!



「ちくしょう! オレは悪くねぇ!」


「しゅーの話題でもちきりだね♪」


「こんな負の話題は御免だ!」



 と、今度はこっちが泣きそうになりながら校内を歩いている時だった。背後から大人に声をかけられる。教頭だった。



「はいこれ請求書。校門のあたり無茶苦茶になっちゃったからその修理費だ」


「待って待てよ待ってください! あれやったのほとんど高端ゆりあじゃないですか! 見てたでしょ先生も!」


「見てたけど……でも小学生に請求するわけにはいかないだろ? ほらこれだ。お前なら余裕で払える額だろ?」


「オレより稼いでますってアイツ!」


「とにかくよろしく」


「おかしいだろー!!」


 オレが崩れ落ちたので代わりに雫が請求書を受け取っていた。


 先輩への請求に絶対に上乗せしてやる!!



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