第26話 高端(たかばし)ゆりあ1




「あの、これ……」




 渡されたのは手紙だった。

 可愛いデザインの封筒に入っている。校門のところで待っていた、小学生くらいの女の子から差し出されたものだ。オレがそれを受け取ると、女の子は何も言わずに去っていった。


「え~♪ なになにラブレタ~?」


『気になる。早く開けましょう』


「食いつきが良すぎだろ」


 どんだけ恋バナ好きなんだよ。あと雫ってオレのカノジョじゃないの?? 当事者なのに楽しめるのかこういう展開?


『小学生くらいだった。驟雨しゅうのへんたい。ロリコン』


「そうよそうよ。どこで知り合ったのよ」


「マジで知らん」


 あの女の子、オレのことをずっと校門で待ち伏せしてたらしい。あと髪が白ベースに金が混じったカラーリングだったこともあって余計に目立った。手紙を受け取ってる間も野次馬いたし。田舎だから目立つんだよなぁ。


「とりあえず開けてみましょ」


『わくわく』


「……」


 他人事と思って好き勝手言いやがって。


 いやしかし、ほんと何なんだこれ。

 あの子のことは全く知らない。だから好かれるようなことをした覚えもない。さらにオレには雫がいる。ラブレターだとして、あの子を傷つけないようにするにはどうしたら良いか、すでに思考が空転を始めていた。


 シールをはがして手紙を開く。


 そこには―― でこう書かれていた。




 ” 果たし状 ” 




「「『……』」」


 雲行きが怪しくなってきた。そして続きの文章は予想を裏切らなかった。




 ” わたしはお前を認めない。 週末、ダンジョンでお前を待つ。来なかったらこちらから行く。わたしからは逃げられない “




 手紙の末尾にはダンジョンの名前と場所が記されていた。


「……」


「ざ、斬新なラブレターね……」


『これが最先端なのね』


 そんなわけないだろ紫柄。むしろお前が人間だった時代の方が現役だったんじゃないか果たし状は。


「熱烈なお誘いだけど、どうするのしゅー?」


「行かないよ? 決闘って違法だし。交番にでも行くかー」


 お巡りさんとか普通に顔見知りだしな。こちとら田舎なんだよ。


 そして交番に行って事情を説明したら苦笑いされた後「学校の勉強をしなさい」といわれてしまった。こんなのまともに取り合うなって意味だろう。







 そして次の週。


 あの女の子がまた現れた。激怒しているかと思ったんだけど無表情で感情が読み取れない。



「どうして来なかったの」


「あれで行くヤツがいるか」


 そう返すとちょっと目を狭めて睨まれた。オレは間違ったこと言ってないぞ。


 周囲には人だかりができている。田舎には大して娯楽はないしな。何かあると人が寄ってくる。しかもここは高校の入口だから余計に。


「そう」


「ていうかおまえ小学生か? なんで平日の昼間にこんなところに居るんだ? 親の連絡先教えろ。迎えに来てもらうから」


 スマホを取り出して電話をかける用意をした。

 すると女の子はポツリと言った。



「ロード」


「あ?」



 女の子の服装が一瞬で切り替わる。これは冒険者がストレージから装備と武器を展開した時の挙動だ。骨組みを備えた見たことも無いスーツを纏い、刃渡り30センチほどの刃物のようなものを持っていた。


「!? 冒険者!!」


逆瀬さかせ驟雨しゅう……わたしはお前を認めない……」


 ぐぐ、と女の子が低く構える。武器は逆手に持たれていた。

 これはまずい。完全に戦闘態勢だ。


「待て待て待て! お前冒険者だったのか!? こんなところで暴れ――」


「黙れ」


「しゅー! こっちも構えた方がいい!」


「くそっ」


 雫に言われて装備をロードする。雫も服装がダンジョン装備になっていた。召喚獣のミアもいる。


「せいぜいあがくといい」


「何なんだよお前は!」


「それはこっちのセリフ」


「オレが何したって言うんだ!」


「まだとぼける気?」


 刹那、女の子の姿が消えた。


(!? 速——!)



 ガ、ギイイン!!!



 ぎりぎりのところで防いだ。

 女の子の武器からは紫電……いや、プラズマか? とにかくビリビリしたものがほとばしっている。攻撃を受けたグレートレンチが一瞬で赤熱していた。


「認めない認めない認めない……!」


「だから何が!」


 ブン! レンチを振り払った。それに合わせて彼女は距離を取る。その挙動は軽快だった。ふわりと着地する。


 そして再び姿を消す直前、彼女はいままでで一番大きな声を出して言った。





「おまえがれいさんの弟子だなんて、わたしは認めない!!!!」






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