第24話 ダンジョン【メリーさんハウス】4




「ふ、ふーんだ! まだその説明文が正しいとは限らないわ。もっとこの家を探索するか、あるいはここから出ていって自分の家のレンジを使うか、せいぜい悩むことね! キャハハ♪」


「あ、オレ電子レンジ持ってますよ。バッテリーで動くやつ。たまたまドロップして便利なんで使ってました。工具メーカーからも同じようなのが販売されてますね」


「なんでよおおおおお!!」




 またメリーさんが崩れ落ちてたけど慣れてきたな、うん。


「助かります。確かに彼女の言うとおり、実はあれはフェイクという可能性もありますからね。ここで試した方が無難です」


「では」


 どん。テーブルの上に電子レンジが現れた。その傍らで鳴司めいじさんがカラフルな箱—— メリーさんの宝箱 ―― に水をぶっかけている。なるほど、小さい箱だと思ったけど電子レンジに入るサイズだったんだな。


 そして箱をレンジに入れてあたためボタンを押すこと数十秒。


 ボンっ、と中で音がした後、レンジがピーピーと鳴ってあたため終了を告げた。レンジのトビラを開けると、そこにはフタが少し開いた例の箱があった。それを4個繰り返す。


「何なのコイツら……なんで……どうして……!」


 メリーさんはそのへんの壁に背中を預け、足を投げ出して座り込んでいた。ぐったり燃え尽きていた。放置された人形みたいだった。


「それじゃあ中身を確認しよっか」


 フタを開いた。ぽんっ! ともふもふした何かが飛び出してきた。




 ≪うさぎのかぶりもの≫

 うさぎの頭部を模したかぶりもの。もふもふしている。外から中の人の顔は見えないが、中から見ると視界を遮るものはなく外がよく見え、蒸れない。打撃に対して極めて高い防御力を発揮する。




 ≪くまのかぶりもの≫

 くまの頭部を模したかぶりもの。もふもふしている。外から中の人の顔は見えないが、中から見ると視界を遮るものはなく外がよく見え、蒸れない。打撃に対して極めて高い防御力を発揮する。




 ≪るすばんうさぎ≫

 6匹のうさぎのぬいぐるみ。もふもふしている。家に置いておくと留守番をしてくれる。侵入者にまとわりついて転倒させ、そのまま心地良い眠りにいざなう。




 ≪るすばんべあー≫

 おおきなくまのぬいぐるみ。もふもふしている。家に置いておくと留守番をしてくれる。侵入者を抱きしめた後に寝転がり、そのまま心地良い眠りにいざなう。




「や~ん、かわいい~♪」


 しずくが速攻で≪るすばんうさぎ≫にとびついた。抱きかかえてほっぺすりすりしている。食べるなよ。


「かぶりものの方は頭部アーマーですか」


「刺突の軽減はしてくれないんですねこれ。エネミーのぬいぐるみは刺突無効だったのになぁ」


「エネミーのぬいぐるみは中身がいないけどかぶりものは居るからね。その差じゃない?」


「視野が狭くならないのは良いですね。かぶってみても良いでしょうか」


「はいはい! 私も被ってみたい!」


 女性陣が手を上げる。うさぎの方を雫が、くまの方をれいさんが被った。そしてこちらを振り返る。


「どう?!」


「ですか?」


「「…………」」





 うん……。





 どうみても銀行強盗です。













「いやー、スッキリしたね。これはうまい酒が飲めそうだ」


「そうですね。逆瀬さかせくんも相川あいかわさんもお疲れ様でした」


「お疲れさまでした!」


「こちらこそすごく勉強になりました。ダンジョンって一筋縄ではありませんね」


「そうですね。ですが、諦めることも必要です。謎が解けないからといって無理をして命を落としては意味がありませんから」


「「はい!」」


「散々な1日だったわ……」


 そんなことを話しつつ歩いているとボス部屋に戻って来た。まだボスはリスポーンしていなくて出口のドアもそのままだ。鳴司さんがドアに手をかける。


「じゃあ帰りますか」


「はい」


「勉強になった」


「うん♪」


 メリーさんが「さぁどうぞ! さぁ早く! うぅ……これでやっと解放されるわ……!」とドア前で交通整理していた。どんだけ帰ってほしいんだよ。いやまあ当然か。


 ドアの向こう側にはモヤがかかっている。何かが横切っている様子があるので外につながっているらしい。順番にそこをくぐると、抜けた先は組合前の路上だった。突然現れたオレたちに通行人の皆さんが驚いていた。


 最後にオレが出てきたのを見届けると、雫がドアの方に向かって言った。


「メリーさーん、またね~!」


 するとモヤの中からぬっとメリーさんが顔を出した。そして「べーっ!」と舌を出したと思えばすぐに引っ込み、ドアをほとんど閉じてから叫んだ。






「2度と来んなーーーーーー!!!!」






 バタン! 


 扉が閉じて、瞬く間にドアは姿を消したのだった。





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