第23話 ダンジョン【メリーさんハウス】3




「課題が山盛りだなぁ……」




 メリーさんハウスの大ボス—— カラフルで巨大なクマのぬいぐるみ——を倒した。ダメージを与えると綿が飛び出して辺りに散らばって障害物になる & こちらの速度をダウンさせてくるヤツだった。


 ボス部屋は広かった。だからゼンテイカを使用できた。できたんだけど……例によってぬいぐるみなので打撃・刺突が無効だ。ゼンテイカの武装は機関砲(刺突)・ハツリパイル(刺突)・スナイパーキャノン(刺突)なので、れいさんに属性弾丸を融通してもらってようやく土俵に立てた。やはり要改善だ。


 まぁいずれにせよ俺たちには荷が重いボスだったので、ある程度戦ったら光さんたちにバトンタッチしたけど。そして光さんたちは危なげなくボスを撃破した。


 報酬アイテムはぬいぐるみのキーホルダー。

 キーホルダーは装備すると攻撃力とか耐性とかが上昇する効果付き。みんなそれぞれ微妙に違うキーホルダーを受け取っていて効果もちょっとずつ違うっぽい。

 共通しているのは、これまでに何度かドロップしていたキーホルダーより効果が高いらしいこと。正確な数値は鑑定しないと分からないけどさすがボス産のアイテムだ。


「あんたたちおめでとう! さぁ、出口はそこよ! 早く帰ってゆっくり休んでね!」


 ボス部屋の奥に現れたドアをメリーさんがしきりに指差している。あとオレとしずくを背中からめっちゃぐいぐい押してくる。どんだけ帰ってほしいんだよ。


「いえ、まだ帰れません」


「なっ、なんでよ! もう用はないでしょ!?」


「あります。あの箱が開いていません」


「あっ」


 そういえばそうだった。後半になって敵が強くなって必死で忘れてた。あの開かない箱があったんだ。


「あなたがカギの場所を教えてくれればすぐに帰るのですが」


「そういうことはどうあっても教えられないわ! せいぜいモヤモヤすることね!」


「けどここまで来て見つからないとはなぁ。よほどうまく隠してあるのか」


「所詮はおもちゃの箱です。存外、力づくで壊れるかもしれません。鳴司さん、ちょっと出してもらえますか?」


 光さんの思考が脳筋すぎる。いつもこんななのか……?


「ふむ、ダメですね」


 爆破しても箱は開かなかった。逆に言うと壊れもしていない。やっぱ正しい手順を踏まないとダメか。


「今日はここで休みましょう。一度出ると戻って来られなさそうですし」


「はぁ!?」


 時計を確認したらもう夜だ。というか指導を受けてヘトヘトで帰って来たあとここに来たんだった。体力の方はアイテムで解決したけど、時間の流れはどうしようもない。

 ボスを倒した後のボス部屋は安地だからここで休んでも大丈夫だろう。メリーさんが問題ありそうで声を上げてるけど。


「じょ、冗談じゃないわ……! アンタたちなんかとひとばん一緒になんていられないんだから! わたしは自分の寝床に帰らせてもらうわ!!」


 メリーさんのすぐそばにドアが現れる。ボス部屋の奥に現れたドアと似た感じのものだった。オレたちが止める間も無くメリーさんは扉を開けて中に入って行ってしまった―― んだけど……。



 バキィ!! ガキィン!!



 ヒヒイロカネのスコップで光さんが扉を破壊し始めた。


「ぎゃあああああ!」


 扉の中から悲鳴が聞こえる。もちろんメリーさんのだ。しかしそれを無視して光さんはドアを破壊し続ける。やがてドアにちょっとした隙間ができた。光さんはそれを覗き込む。




「お客様ですよー」


「ぎゃあああああああああ!!」




 オフシーズンのホテルの管理人になるホラー映画かな? しかも光さんがそのままドアを破壊してメリーさんを引きずり出したので映画より怖いかもしれん。


「もうやだぁ……!」


 こうしてオレたちが食事を用意するまでメリーさんは床にへたり込んでいた。メシは「なにこれ美味しいじゃない!」とバクバク食べていたけど。










「いや、見つからなすぎだろ」


 翌朝。ダンジョンを逆走しつつカギを探す。しかし一向に見つからない。ついグチがこぼしたところその場で小休止になった。


「ここまで見つからないとは……」


「しかも4個あるんですよねハコ? それぞれ別のカギだとしたらオレ恐ろしいんですが」


 光さんは顎に手を当てて考え込んでいる。オレはいい加減あしが疲れてその場でしゃがんだ。そんなオレを見たメリーさんが気味きみがって「キャハハ☆」って笑ってたのがちょっとむかつく。


「まぁまぁ2人とも。そんなとこじゃなくてこっち座って休もうよ」


うですよ。あ、羊羹たふぇます?」


 イス・テーブルセットで秘術チームがくつろいでいた。ストレージから取り出したっぽい。窓のすぐそばに置かれていて日当たりが良い。ちなみに鳴司さんは酒飲んでるししずくは羊羹食ってた。なんだこの人とコイツ……。


 まあ羊羹は食うけど。栄養食として優秀だしな羊羹。探索で疲れた時とかにはちょうど良い。4人ともどころかメリーさんも食べてた。


「何か条件を満たさないとカギが現れないのかもしれません」


「何か仕掛けがあるのかなぁ。久しぶりだなぁそういうの」


「でもその仕掛けすら見当たらなそうなんですが」


「もうこの家の中は探し尽くしたよぉ~」


「外は外で広そうですが……まあ窓は開かないので関係ありませんね」


 4人して窓の外—— 女の子のものと思われる部屋 ――を眺めながらため息を吐いた。



「……んん?」



 とその時、声を上げたのは鳴司さんだった。何か見つけたのか、椅子から立ち上がって窓ガラスに張り付くように外を見つめる。


 どうしたんだ?


「……れーちゃん、望遠鏡みたいなのある?」


「ライフルのスコープなら」


「何か見たいんですか? じゃあ私にまかせてください! 来て! もっちー!」


「も゜」


 召喚獣がテーブルの上に現れた。教科書で見る銅鏡みたいな鏡だけどフワフワ宙に浮いている。像を反射する面とは反対側の面の中央に目玉がぎょろりとひらかれていた。ひとつ目だ。


 もっちー。付喪神つくもがみタイプの鏡の召喚獣だ。名前の由来は鏡餅かがみもちだってさ。


「もっちー、望遠モード」


「も゜」


 カクカク頷いてからくるっと向きを変えた。そして鏡だった部分に風景が映し出された。


「スマホと同じ感じで拡大縮小できます!」


「便利だなぁ。じゃあ遠慮なく」


 鳴司さんがもっちーを手に持ってどこかを見る。オレたちもその先に視線を向けるけどよくわからない。鳴司さんは何をしているんだ?



「あー、これかぁー? みんなもちょっと見てみて」



「「「?」」」


 3人してぞろぞろと鏡の前に移動する。そして鳴司さんが見つけたそれを見る。一方そのころオレたちの背後でメリーさんが「あーっ! あーっ!!」って悲鳴を上げていた。


「……? なんですかこれ。パッケージ? でしょうか」


「あ、ほんとだ。これ、この家のパッケージの箱じゃないですか? お店に並べられてる時に入ってるやつ」


 光さんと雫が言うとおり、この家のパッケージの箱と思しきものが映し出されていた。この家、元はどこかのお店で売られていた設定らしい。パッケージの箱を保管しておくなんて、この部屋の主はマメな女の子のようだ。


「注意書きが書いてあるんだよ。ほらここ」


「「「?」」」


「なんでよ! なんで気づくのよ!」


 メリーさんがわめいている。そのことがオレたちの期待度を大きく高めていた。というかこれが正解なのだろう。パッケージに印字された注意書きはこんな文言だった。





『メリーさんの宝箱を水などで濡らしてしまった場合、電子レンジで乾燥させないでください。箱が変形し、フタがいて閉じなくなる恐れがあります』






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