第22話 ダンジョン【メリーさんハウス】2





「ぐすん……えっぐ……うぅ……」


「「「……」」」




 れいさんが号泣してる女の子を連れてきた。ライフルを突きつけているので見てくれが非常に悪い。映画とかでもそうそう無いぞこんなひどいシーン。


「れ、れーちゃん? この子がメリーさん?」


「はい、そのようです」


「なんでこんなに泣いてんの……?」


「血が出ないならなない。であれば何をしても大丈夫と判断しました」


 前半はともかく後半のロジックはヤバいのでは……? ていうか何をしたんだ? いややっぱり知りたくない。


「まぁ、この子がダンジョン的存在であることは確かです。多少のことは些細なことでしょう。それに見てください、きずひとつ無いこの綺麗なはだ


 メリーさんの顔の輪郭を光さんが撫でる。メリーさんは体を硬直させて「ひいぃぃっ!」と悲鳴を上げた。



「あ、情報ありました。【メリーさんハウス】。さっきの鍵を拾うとメリーさんから電話がかかってくるみたいですね。最終的に背後から目隠し& “だーれだ♪”をされたあと、視界が戻るとメリーさんハウスにいるみたいです」


 しずくがつらつらとダンジョンの情報を話した。未発見のダンジョンではないっぽい。

 でも……。


「危険なダンジョンですねそれは。冒険者ではない人や低レベル冒険者が自分の意思とは関係なくダンジョンに入ってしまうのでしょう?」


「えーと……あ、鍵が落ちてるのはダンジョン内ばかりだそうです。あと最初の階層は驚かせたり怖がらせたりする系の罠ばっかりでエネミーもいなくて、さらにボス部屋前に出口があるそうです」


「なんですかそれは。ふざけているのですか?」


「ひええええ……!」


 ライフルの銃口でメリーさんのほっぺをぐりぐりする光さん。メリーさんはガクブルだった。


「ちょ、ちょっとしたイタズラで……すみまっ、すみませんっ……! でも楽しんでくれる人も……!」


「ほう。それで私の鳴司さんにちょっかいを出したと」


「ワザとじゃないんです! 信じてくださ゛い゛!」


 このタイミングでメリーさんは土下座になった。なんというか崩れ落ちる感じだった。さすがに可哀そうのなのでもうやめたげて……。




「……ふむ、まあ良いでしょう」


「え♪」


「それでは連れていってください」


「え゛」


 パァ……! と明るくなったメリーさんの表情は一瞬で青ざめた。短い春だった。




「いっ、まから来るんですか、わたしの家……?」


「ええ」


「あの……べ、べつにどうしてもわたしの家に来てもらわなきゃいけないわけでは……」


「……まどろっこしいですね。さぁ、早く案内しなさい」


「勘弁してください! ほんと勘弁してください!!」


「なぜです? これまで多くの冒険者を自分のダンジョンに引き込んだのでしょう? ならば我々も問題ないはずです」


「むっ、無理です! 許してください! 許してぇー!! わたしのおうちムチャクチャになっちゃううう!!」


 泣きが入った……というか最初からずっと泣きが入っていたメリーさんだけど、もちろん光さんに勝てるわけもなく。


 最終的にオレたちは全員、【メリーさんハウス】の中で視界を取り戻したのだった。











「あぁ……あぁ……わたしの家……わたしのお友だちが……」




 ダンジョン【メリーさんハウス】。


 巨大化&迷宮化したおもちゃの家のダンジョンだ。ときどき窓があって開閉はできないんだけど、外には小さい女の子の部屋っぽい風景が見受けられる。世界観が作り込まれていた。なんだか自分がおもちゃになった気分だった。


 最初の階層は前情報どおり。なんというかファンシーなお化け屋敷みたいな感じだった。雫は普通に楽しんでたし、光さんは真顔で鳴司めいじさんに抱きついていた。アレは怖いんじゃなくて抱きつきたいだけだな。


 それで出口のところまで来たけど……もちろんそこで帰らずに攻略を続ける。メリーさんが「ほらここ! ここが出口よ! みんなお疲れさま!」ってしきり言ってたけど誰も相手にしてなかった。


 エネミーはぬいぐるみのおもちゃたち。ウサギさんとかクマさんとかだ。大きさはまちまちで膝くらいのサイズのものもいれば天井に頭をこすっているものもいる。


 ちょっと変わっているのは防御特性が極端なところだ。打撃と刺突が一切効果がなく、代わりに斬撃と火炎が非常に有効だ。グレートレンチ(打撃・刺突)と貫通ドライバー(刺突)がメインウェポンのオレは役立たずかと焦ったけど、鳴司さんが火炎のエンチャントをかけてくれて戦闘に参加できた……武器の種類そろえなくっちゃな。




「あ、またあった」


 雫が小さな箱の近くでしゃがみ込む。


「メリーさーん、これの鍵どこー?」


「言わないわよ! 絶対言わないわ! ノーヒント!」




 ところどころで見つけられる箱。パステルカラフルな布が貼り合わされていてこれまたファンシーな色合いになっている。形はカマボコみたいな感じだ。鍵がかかっていて中身は取り出せない。

 ちなみに鳴司さんが拾ったカギは合わなかった。あれはこの家に入るための文字通り家の鍵なのだろう。


「こればっかりはわたしが言ったらダンジョンの意義を失うもの! だいたい今だってあんたたちと一緒にダンジョン歩き回ってるのがおかしいのよ!!」


 攻略情報はどうしても言わないらしい。光さんが言ってもダメだった。オレたちに干渉する上でゆずれない一線があるみたいだ。逆のパターンで、加勢しても良いだろうにぬいぐるみたちが撃破されるのも見ていただけだったし。


「とりあえず持っていきましょう。そのうち鍵が見つかるかもしれません」


「じゃあオレが」


「ありがとうございます」


 鳴司さんが宝箱を回収した。一番レベルが高くてストレージの容量があるからだ。まぁ酒でだいぶ埋まっているらしいけど。




「では、次に行きましょう」


「「「おー」」」


「だから帰ってってばぁー!!」





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