第21話 ダンジョン【メリーさんハウス】1





「さぁ、早く案内しなさい」


「勘弁してください! ほんと勘弁してください!!」




 れいさんに女の子が土下座していた。ウェーブした長い金髪とひらひらしたワンピースが印象的な小柄な女の子だった。床に打ち付けるレベルで頭を何度も下げている。顔立ちは綺麗なんだけど半泣きだった。


 まああれだ、絵面はメチャクチャ悪い。


 あとしずく以外で土下座する女の子を初めて見た。



「なぜです? これまで多くの冒険者を自分のダンジョンに引き込んだのでしょう? ならば我々も問題ないはずです」


「むっ、無理です! 許してください! 許してぇー!!」



 何がいったいどうしてこうなったのか。少しだけ時計の針を戻す。











「つ、疲れた……!」


「もう歩けないぃ……」


「お疲れさまでした」


 タイミングが合ったのでこの週末は光さんたちから指導を受けていた。


 光さんの戦闘技術についてはスゴすぎて参考にならないのひと言だった。

 だってそもそもレベルが違って身体能力が圧倒的だし、同じアームズでも補正が入るから光さんが使うと火力がおかしいし。


『ね、簡単でしょう?』


 ひとりでエネミーを殲滅した光さんに言われたけど、オレと雫で全力で首を振ったね。ちなみに鳴司さんも振ってた。


 ああでも、スコップを使った近接戦闘は参考になったかもしれない。光さんのスコップが無駄ムダにヒヒイロカネ製でたまげたけど。


 その点、鳴司めいじさんのレクチャーは非常に参考になった。リスクを抑えた堅実な立ち回りというやつだ。バフやアイテムを活用して詰みの状況になるのを避けている。ステータスがバランス型寄りなので、火力が一歩劣ることと長期戦になりがちなこと、アイテムの消費が結構多いのがデメリットか。


 一番印象に残っているのは探索だ。


 2人とも探索をすごく重視している。フィールド系のダンジョンだと地形をがっつり確認して、何の変哲もない石とかも手にとって確認している。文明のあるタイプのダンジョンだとメモは漁るわ日記は読むわ、引き出しは全部開けるわで。どこのRPGゲーの主人公かと。


 正直、こっちはいつエネミーが現れるか気が気じゃなかった。高レベル冒険者なら多少の敵は脅威じゃないんだろうけど。あるいはエネミーの接近を把握するスキル的なものがあるのか。雫の召喚獣のミアが似たようなことができるけど、狭いところだとそれも難しい。


 道のりはまだ長い。




「あれ? なんだこれ?」


 組合に戻って休憩している時だった。鳴司さんが自分のポケットから何かを取り出した。


「……鍵? なんで?」


 それは小さな鍵だった。ファンシーなお花のキーホルダーが付いている。鍵の造形はシンプルでおもちゃにしか見えない。


「拾ったんですか?」


「酔ってるうちに拾ったのかなぁ?」


「鳴司さん酔ってない時ってあります?」


「相川ちゃんは手厳しいなぁ〜、あっはっはっは」


 雫のやつコワイもん無さすぎだろ。鳴司さんが温厚で良かった。


「でもそれ、ほんと何なんでしょう」


「とりあえず交番にでも——」




 ピリリリリリ。




「「「「!」」」」


 スマホが鳴る。鳴司さんのスマホだ。テーブルの上に無造作に置かれている。

 そして鳴司さんは着信している電話番号を見て首を傾げる。知らない番号らしい。しばらく応答しないで待っていたけど、鳴り止まないので電話に出た。テーブルに置いたままスピーカーモードで話し始める


「もしもし?」



『もしもし? わたしメリーさん』


















「女ですか。私の知らない」



 光さんの方が怖かった。



『もしもし? わたしメリーさん。いま梅田駅にいるの』


 光さんの姿が消えた。そよ風だけが残っていた。鳴司さんが問いかける。


「もしもし? メリーさん? キミの後ろにれーちゃん居ない?」


『もしもし? わたしメ……ハァ? 何いって——きゃあああああ!?』


『あなたですか鳴司さんの電話の相手は。聞きたいことがありますので同行してください』


『ちょ!? な、なによあんた?! や、やめ——』




 ブツッ。




 そして場面は最初に戻る。

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