第15話 ダンジョンの水全部抜いてみた【清流のダンジョン】3
ちゃぶ台でタブレットを広げて
「うーん……」
フィールドボスの知能レベルを見誤ったか。あるいは湖の水を抜かれることに敏感に反応するよう設定されているのか。それとも水抜き作戦はレギュレーション違反的なヤツなのか。いずれにせよあのモササウルスを何とかしない限り水抜きは安全にできないっぽい。
対処法ならある。高レベル冒険者を雇って倒してもらい、その上で作業すれば良い。
ただ、依頼するのであれば事情を話す必要が出てくるだろう。だけど
組合の職員さんや
「どうすっかなぁ〜」
ダンジョンの情報を冒険者向けサイトで調べつつ途方に暮れる。
過疎ダンジョンだし大昔に攻略済みのダンジョンなので、最後に情報が更新されてから時間が経っている。低難易度ダンジョンで特筆すべきことも少ないので、逆に情報が少なかった。オレたちの方が詳しいかもしれない。
「しゅー、もう寝よ?」
背後から
「そうだな」
「あと明日おばあちゃんが野菜を直売所まで運んでほしいんだって。頼んでいい?」
「そうなの? わかった」
手伝うと野菜とかくれるしな。
「ありがとしゅー! えへへ」
雫がオレを抱きしめる。頬擦りもしてくるけどいつものことだ。
「むー……やっぱり昔の方が抱き心地が良かった」
「そんなこと言われても……」
「ああああっ、昔は小ちゃくて可愛かったのに! もう大きくなっちゃダメー!」
「ウオオアアア!? おまっ! おバカー!! 頭を押さえつけるな身長伸びなくなったらどうすんだぁぁぁ!!」
コイツ! 両手で頭のてっぺんをぐいぐい押さえつけてきやがる!!
「やだああぁー」
「やめろおお!」
「2人とも静かにしなさい!!!!」
母さんに怒られてしまった。オレは悪くないだろこれ。
「はい、これで全部ね」
ストレージから全ての野菜を取り出して納品した。オレたちの仕事は終わりだ。
例によって雫と一緒に野菜を運んだ。ストレージがあるので運搬系は有利とはいえ、レベルがそれほど高くないので収容量もそれなりだ。もう少しレベルが高ければオレか雫どちらかひとりでも運びきれるんだが。
「野菜と
「いや、もらいすぎだろ……」
両腕で抱えていた。ばーちゃんからもらったヤツ以外の野菜もあるだろそれ。雫を見かけるとみんなくれるんだよなぁ野菜。ここ直売所だけど売らなくていいの農家の皆さん?
「しまいなさい。ダンジョン行くぞ」
「はーい」
フ、と野菜と果物が消える。それを確認してからオレはゼンテイカを展開した。ふたりで乗り込んで走り出す。
田舎とはいえ直売所の近くならそれなりに建物とかがある。小さめだけどスーパーとかガソリンスタンドとかな。車線も2車線だし、人が歩く姿もある。
あるのだが……やはり田舎だ。走り始めるとすぐに閑散として―― いや、緑あふれるのどかな景色へと変わっていく。
雑草の生い茂る道路脇。雑木林。動物飛び出し注意の看板。畑。田んぼ。農機具小屋。用水路。池。
池?
そういえばそんなものもあった。ずっとこの土地で暮らしていて目新しさも無いので気にも留めなかったけど。小学生の頃に何度か
「……」
脳裏にダンジョン内の湖がちらつく。あの湖は物騒だけど、こっちの池は穏やかで良いな。風で水面がゆるゆると揺れて、たまに魚が跳ねている。
「そういえば」
オレの視線に気づいたのか、雫も池の方を見つめていた。
「ここ、龍の伝説あったよね」
「え? そうだっけ?」
「そうそう。ほら、あそこに小さいお
雫が指差す先に……うん、ある。小さなお社だ。状態が良いので誰かが手入れしているのだろう。
それから……龍? 虎と対峙したり、天井とかに描かれたりしてるあれか? 長い体で、鱗とか牙とか角とかを持ってて……。
あ? 角?
「……!」
バッと振り返る。オレのそんな様子に雫がびくりとした。
その雫の頭部に生えているもの……角だ。鹿っぽいやつ。いや、鹿っぽいと思っていたやつなんだけど、これはもしかして……?
光さんの言葉が脳裏によぎる。
”ダンジョンをもう一度よく探索してみることをおすすめします。それからダンジョンの外も。何かヒントがあるかもしれません”
「雫、ちょっと寄ろう」
「え?」
返事を待たずに道路から外れる。そしてお社のすぐそばでゼンテイカを停止させて跳び降りた。雫の言うとおりお社のすぐ近くにあった看板に駆け寄った。そこにはこう書かれていた。
『水位が連動していることから、池同士が水中深くでつながっているとも言い伝えられ、”龍の通り道”とも呼ばれています』
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