第14話 ダンジョンの水全部抜いてみた【清流のダンジョン】2




「湖の水、全部抜こう!」



 瞳をキラッキラに輝かせながらしずくは言った。


 うん、まぁ、良いアイデアだと思う……実現可能性を一切無視しているという点を除けば。


十和田湖とわだこくらいのサイズだぞこの湖。深さもある。みず何立米あると思ってるんだよ。ポンプめっちゃ必要だぞ」


「そこは完ぺきで究極の冒険者たる雫さんに秘策があります!」


「いつからそんな冒険者になったんだ」


 そんなオレのツッコミをよそに、雫は両手のひらを湖面に向けて「むむ~っ」と唸りだした。いや、なに放出してんの……? 


「!」


 少しずつ。

 本当に少しずつだけど、波打ち際がこちらに近づいて来ていた。まるで次第に満ちていく潮のように。


 もしかして……水を操っているのか? 


「おおおおお?」


「どーよ! これが私と習合してるなんかよくわかんない召喚獣の能力よ! 雫ちゃんは遊んでるようで実はいろいろ検証していたのだ!」


「ま、マジかよ」


「驚いた?」


「ああ……まさか雫が検証なんて作業をするだなんて」


「ンばかぁー! そっちじゃなぁーい! 能力の方を驚きなさいよ! 精度は低いし速度も遅いけど干渉範囲が異常に広い!」


「ぅうっ、雫っ、立派になって……! オレは嬉しいぞ……!」


 オレの涙も湖水の方に引きつけられて合流した。その様子を呆れた顔して雫は見ていた。








 湖水があふれて渓流の水量が激増している。湖から流れ出す水は勢いづいてゴウゴウと流れていた。最初はあふれているって感じだったけど、いまは水が山のように不自然な隆起をして渓流の方に流出していた。目印として水中に木の棒を立ててあるけど、ちょっとずつ水位は下がっているようだった。


 下流に人がいたらヤバいかもだけど、例によってこのダンジョンは過疎ダンジョンなのでそれほど心配ないだろう。いたとしても冒険者だし、身体能力あるからなんとかなる。


「雫、コレひょっとするとひょっとするんじゃないか?」


「天才雫さんの発想に感謝してよね♪」


 オレらが手に入れられるしょぼいポンプよりよほど効率的に排水できているだろう。これなら1日か2日くらいで全部の水を抜けるかもしれない。



 なーんて考えていた時期がオレにもありました。




 ごぼごぼ……。




「……ん?」


「どしたの?」




 ごぼごぼごぼ……。




「なんか聞こえないか?」


「?」


 オレの膝を枕にくつろいでいた雫が体を起こす。その時だった。



 ざばーーん。



 すぐそばの水面から、ゴツゴツとした巨体が姿を見せた。見上げるほどデカい。水面から出ている分だけでかなりデカい。




「「……」」


 うん……もしかしなくてもフィールドボスのモササウルス風エネミーさんですよね?


 めちゃくちゃグルグル唸ってるし、こちらを睨みつけている。目と目が合う。どう考えてもご機嫌ナナメだ。嫌な予感しかしない。


 そしてその予感は当たった。



「グガアアアアアアアッ!!!」


「「うわああああアぁッ!?」」



 雫を抱えて逃げ出した。そりゃあもう必死で逃げた。



「ハァ、ハァ……べ、別の場所でやるか」


「し、しぬかと思った……」



 というわけで場所を移動してまた排水を始めたのだが——。



「グガアアアアアアアッ!!!」


「「なんでええええええ!?」」



 追いかけて来やがった! どこに移動してもだ! しまいにはちょっと離れて作業してたのに遠距離攻撃ぶつけてくる始末だ。


「こんなに妨害されるのおかしいだろ!」


「怪しい! すっごく怪しい!」


 ずぶ濡れになりながら2人で悪態つく。

 あのボス、よほど水を抜かれるのが嫌らしい。雫の思いつきで始めたことだけど、案外まと外れではないのかもしれない。


 だけどそれはそれで問題だ。排水しようにも邪魔される。落ち着いて作業したければアイツを何とかする必要が出て来るけど、正直オレらにはその手段がない。


「うーん、今日はこの辺にしとくか。もう疲れた」


 このダンジョンには昼間しかない。だから感覚が狂うけど、時計を確認すればもう夕方だと分かる。


「今日の晩御飯はカレーってしゅーのお母さんから連絡あった」


「オレには無かったんだが??」


 なんで雫には連絡があるんだよ。おかしいだろ。


「今日はしゅーの家に泊まります、っと。はい、連絡完了。しゅー! 早く帰ろう! しゅーのお母さんのカレー食べたい!」


 コイツまた泊るのか。雫の私物が増えすぎてオレの部屋狭いんだけど。


 れいさんと鳴司めいじさんもこんな感じだったのかなぁ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る