第13話 ダンジョンの水全部抜いてみた【清流のダンジョン】1
「……前から思ってたんだけど」
「?」
「ダンジョンの入口がコイン精米っていうのはあんまりでしょ!?」
「そんなこと言われてもなぁ……」
というわけで地元に帰って来た。
よく、ダンジョンができると冒険者が集まってきて、その冒険者目当ての施設や店ができて賑わいが生まれる! なんて話があるが、何事も例外はある。
例えば……何かの理由で攻略不能。
例えば……立地が悪い。
例えば……入手できるアイテムが微妙。
なーんて条件が重なると例外である過疎ダンジョンになる。
このうちの2つの条件、つまり立地が悪く、入手できるアイテムが微妙という特徴を兼ね備えたのが【清流のダンジョン】だ。推奨レベルは250くらい。優しめのダンジョンになる。
ちなみに攻略不能ではない。だけど逆に攻略不能だったならチャレンジ精神のある冒険者があえて足を運ぶ可能性があるわけで。攻略済みという点はもはや過疎を加速させていた。
オレと
他の冒険者はほぼ見たことがない。貸し切りダンジョンといっても良かった。ここより割りの良いダンジョンはいくらでもあるので無理もない。
「コイン精米が1台使えなくなっちゃったからすぐ隣にもう1台あるの、ほんと何コレって感じだよなぁ」
「どんだけ精米したいのよこの田舎はって思われるわ……うぅー、高校卒業したら絶対大阪行ってやるんだから! そして
「毎日は無理だろ……」
コイン精米の引き違い戸を開ける。本来なら中には精米のための操作盤やら玄米の投入口があるんだけどそれは無い。代わりにダンジョン内部に続く、鏡映しのようになったがらんとした空間と反対側の戸があった。その戸を開けてくぐるともうダンジョンだ。
清流のほとりに佇んでいた。
コイン精米な出入口から出てすぐの光景だ。ごつごつした岩場が印象的な清流、あるいは渓流が奥へ奥へと伸びていた。ざぁざぁと水が流れている。
この沢を
ルートと反対の方向は見えない壁で先に進めない。ダンジョン的作用というやつだった。野外系のダンジョンだとよくある。
最奥には巨大な湖があって、大ボスはクソデカオオサンショウウオ。
だけど湖を回遊するフィールドボスもいるらしい。ダンジョンが見つかってすぐの頃—— 数十年前——からレベル500〜700クラスの複数人パーティが何度か倒した記録がある。見た目はモササウルスに似ているとか。まぁオレらでは倒すのは無理だレベル的に。あと水中戦に対応できる装備もスキルもない。
「さて、とりあえず大ボスは倒したけど……」
ビシャァン、と浅瀬に身体を沈めたクソデカオオサンショウウオが光になって消えた。もう何回も見た光景だった。初めて倒した時の達成感はすごかったけど、昔ほぼ毎週倒してたのでやっぱり慣れとか飽きとかがどうしてもある。
「この前はこの先の水の上が歩けたんだよなぁ」
グレートレンチを肩に担ぎながら水面を眺める。水面がキラキラと輝いていた。いつも通りだ。波打っている。うん、歩けそうにない。いちおう一歩だけ踏み出す仕草をしてみるけどすぐに水が靴底にぶつかった。これは沈む。
「……」
あの時の光景を思い出す。
ボスを倒して休憩していたら急に霧が立ち込め、雫が「女の子がいる!」と騒ぎ出した。んなわけと思ったら本当にいて、しかも浮遊していたから気になって追いかけた。
そして女の子が波紋を広げながら湖の奥へと行ってしまって、これ以上はどうしようかと悩んでいたら、オレたちはもう浅瀬の上に立っていた。靴は濡れていなくって、見えない床があるかのようだった。その先にあったのが、あの刀だ。
「やっぱりあの女の子がいないとダメなんじゃない?」
雫が言う。
だけど……オレの予想だとあの女の子はもうオレたちと一緒にいる―― 雫と習合しているので、であれば今も水面を歩けても良さそうだが、現実そうなっていない。
「雫はどうだ?」
ばしゃーん!
「ムリだった!」
そんな派手に足を水に突っ込まなくてもいいだろ。そっとでいいだろそっとで。あーもう、ブーツがずぶ濡れじゃないか。
「……
「だよねー」
そうとしか考えられない。
考えられないが、ではどうするという話になる。
まず水中用の装備もスキルもない。レベルが高ければ身体能力でゴリ押しできるかもしれないけど、オレたちはまだその水準ではない。
あとこの湖にはフィールドボスがいる。しかもオレたちでは倒せないであろうレベルの。
「うーん……」
「あ、
「はい雫さん早かった」
雫は自信満々、胸を張って言った。
「湖の水、全部抜こう!」
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