第12話 黎明記機械(れいめいききかい)5




「「「あ」」」



 言われてみれば。


 鳴司めいじさんの腰回りを見る。

 ノーマル刀の鞘があった。



 しずくの腰回りを見る。

 呪われアームズの鞘が…………無い! 



「雫、どこで落として来たんだ」


「落としてない! 落としてないわ! そもそも失くせないでしょああいうの!」


「普通はアームズをロードすると鞘も出現します。それが無いということは……考えられる可能性は2つ。

 1つはこの錆びた姿が標準であるため鞘が必要ない。要は鈍器と同じ扱いです。

 もう1つは、どこかのタイミングで紛失した。

 はっきり言って、後者でしょう。おそらく入手前から失われていた。不完全という鑑定結果とも合致します。この刀は鞘が無いので不完全ということですね」


「……」


 頭の中でグルグル考える。


 鞘が無い。言われてみればそうだ。このアームズは水面に抜き身で突き差さって直立していた。ゲームとかで見かける聖剣だってそうだ。たいていは抜き身で岩や地面に突き刺さっている。鞘には入っていない。


 鞘の不存在でこの刀に何が起こるのだろう? どんな不利益があるだろうか? 刀身を保護できないのは明らかだけど、ボロボロ過ぎるのでもうそんなレベルは越えている。


 しかし雫に変な作用をしている。つまりこの刀はまだ生きている。


「……!」


 そうか、生きている。生きているんだった。これはそもそも召喚獣の可能性があるって言っていたじゃないか。だけど鞘が無いために、この刀は本調子じゃないってことなんだ。


 ならどちらだろう、その鞘の効果は? この召喚獣の力を高めるものなのか。



 あるいは、強すぎる力を抑えるものなのか。



「……暴走してる?」


逆瀬さかせくんもそう思いますか」


「あ、はい」


 れいさんに逆瀬くんとか呼ばれてしまった。友達に自慢しよう。


「この刀が召喚獣の一種だとしたら、力を抑えきれなくて不本意ながら雫と習合してしまって、外見にも影響を与え続けているのかなと」


「私も同じ考えです。となると、やるべきことは1つですね」


「はい」



 鞘を見つけ出す。それしかない。



「いかがですか。やれそうですか」


「やるしかありません」


「まあ、そうですね。あなたの姿勢、尊敬に値するものです。応援しています」


 それから、と光さんは付け加える。


「ローラー作戦的に探しても見つかるかもしれません。しかし私の経験上、こういった高位存在は周囲に影響を与えます。

 地形、構造、遺構、伝承、言い伝え、道端の石碑に刻まれた逸話……そういうものにも目を向けることも必要になる場合があります。頭の隅に置いておいてください」


「はい、ありがとうございます! ……それで、あの、ひとつ良いですか?」


「?」


「グランドリーフもそうやって見つけたんですか……?」


 ずっと気になっていたことだった。

 雫があんな状態なのに欲を出している場合じゃない。それは分かってる。でもきっと、今を逃したらもうチャンスは無い。


「ふふ……実のところ、グランドリーフを手に入れたのはほとんど鳴司さんの功績なのです。私はただそのとき鳴司さんとパーティを組んでいて、そしてステータスが合っていただけだった」


 グランドリーフ。

 光さんが静かにそう呼びかけた。



 ——ズゥゥン……!



「……!!」


 出現した。光さんの背後に。搭乗式人型アームズの最高峰—— グランドリーフが。ゼンテイカより二回ふたまわり以上は巨大で、頭部の複眼ではグリーンの光が揺れ動いている。


『お疲れさまです、レイ。お客様ですか?』


「喋るんですか!?」


 九尾といいグランドリーフといい喋るらしい。高位存在では普通なのだろうか。しかもかなり流暢りゅうちょうだ。


「あなたに会ってみたかったみたい」


『喜ばしいことです。少年、あなたも冒険者ですか?』


「え! アッ、ハイッ、そうです! 逆瀬驟雨しゅうといいますっ。筋力ビルドだったんですけど、光さんとグランドリーフに、あっ、グランドリーフさんに憧れて科学にも経験値を振り出した量産型ミーハー冒険者ですっ」


『初めまして、驟雨シュウレイの実力は卓越しています。一部の技能は私の性能が追いついていません。彼女に匹敵するのは困難を極めるでしょう—— ゆえに、目標とするに不足はありません。一緒に頑張りましょう』


 搭乗式アームズの性能を上回る……!?

 人間やめすぎにも限度ってない?


『それから、グランドリーフとお呼びいただいてかまいません』


「お、おおおっ……! ありがとう、グランドリーフ!」


『どういたしまして―― あちらも済んだようですね。ではいずれまた。共に未来を』


「えっ」


 グランドリーフの姿が消えた……と思って振り返ったら、れいさんとしずくが自撮りツーショットを撮り終わったところだった! 


 しまったッ、オレもグランドリーフに頼めばよかった……!







 別れ際、光さんに訊かれた。


「もう大阪を発ちますか?」


「あー……それが」


「明日はユ〇バに行きます!」


 速攻で教えちゃってるし。遊んでる場合じゃないのに。行くことを同意してしまったオレもオレだが。


「なるほど。大変な時こそ息抜きも必要でしょう。楽しんできてください。

 ……ああ、一応確認ですが、テーマパークの方ですか? ダンジョンの方と混同されていて、思い浮かべてたものが同行者と違った、なんてことが冒険者だとよくあるので」


「そーなんですよ!! しゅーったらダンジョンの方を思い浮かべててホント信じら――」


「私も以前はダンジョンの方しか頭になくて呆れられていました」


「ソ゜(裏声)、そういうこともありますよねぇー! あるあるですよ、あるある! ねー、しゅー!?」


「お、おう……」


 おかしいな。ダンジョンの方のユニバにオレが連れていった時はこれでもかと罵られたような気がしたんだけど。


 おかしいなぁ……。





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