第10話 黎明記機械(れいめいききかい)3
というわけで模擬戦ができる場所までやって来た。
組合のビルの一画にある試験場だ。ダンジョンドロップの特殊な道具の効果で実際より広い&頑丈なため、武器やスキルの検証、あとは講習会とかに利用されているらしい。こんな施設まであるなんて都会は違うな。
「えーっと、なんでこうなったんですか……?」
鑑定さんが首をかしげていた。模擬戦の監督役で連れてこられたらしい。でも高ランク鑑定スキル持ちで多忙じゃないの? 大丈夫?
「いやぁオレもよく分からないんだけど、れーちゃんがノリノリでさぁ~」
「はぁ、そうなんですか……であれば仕方ありませんね」
やっぱり光さんってヤバイ人なんだろうな。完全に
「
「あー、うん、たぶん大丈夫ー」
「
「はい、絶対勝ちます!」
「聞いてませんね??」
ちなみに周りには見物人がいる。最初から試験場にいた人たちに加えて、なんかぞろぞろ集まって来ていた。うちの地元の街より人口が多そうなのがもうね。
「鳴司さんならうまくやってくれます。心配ありません」
「すみません、ご迷惑を……」
「構いません。始まりますよ」
光さんが隣に来て言った。ヤバイ人なのは分かったけど、それでも憧れの人であることには変わりない。現実感が追いついていなくて不思議な気分だ。
「それでは……はじめ!」
「来て! おあげ!」
「コン!」
雫がおあげを召喚した。キツネ型召喚獣だ。
雫が使役している召喚獣の中では最も攻撃に向いてる。この場では最適なチョイスだろう。
鳴司さんはどうするんだろうか。武器もなにも構えてないけど。
「おぉー、キツネの召喚獣。だったらオレもキツネにするかぁ」
鳴司さんも召喚獣を保有しているらしい。しかも雫と同じキツネだ。そんな偶然……いや、そういえば雫は光さんのキツネ耳に影響されておあげを手に入れたんだった。ひょっとして鳴司さんと光さんのどちらかがキツネ的な要素と縁が深いのだろうか。
などと考えていたその時。
「召喚、九尾!」
「はぇ……?」
鳴司さんが口にしたセリフに声が出る雫。それはオレも同じだった。
だって、九尾っていったら……。
空から光が降る。屋内だけど。次々に光が積層されて形ができる。瞬く間にソレは現界した。
ソレは人型で、でも頭に獣の耳が生えていて、さらにしっぽが9本あった。髪は眩いばかりの白銀だ。身に纏う真っ白な和装からはナイスバディが零れ落ちそうになっている。
まさか……あれが九尾なのか?
「む? やけに人間が多いところに呼ばれたの?」
しゃ、しゃべ……!?
「おう、九尾」
「ようぬし。ところで分かったのじゃ。これは宴会じゃな? ということは酒じゃな? どこじゃ? どこにある?」
「待て待て、先に仕事してくれよ」
「しごと~? 初めて聞く言葉じゃ―― ん?」
九尾が雫に、そしておあげに気が付いたようだった―― おあげはもうガクガクに震えていた。
「ん~~~? そこのキツネは我に連なるものじゃな? どういう状況なんじゃ?」
「模擬戦だよ模擬戦。わかるか?」
「もぎせん……? ああ! 鍛錬じゃな! ということはその者らを鍛えれば良いわけか!」
「その通りだ。理解が早くて助かるよ」
「当然じゃ! 我は頭が良いからの! では始めようではないか!」
ぼふん!
スモークが広がる。巨大なスモークだ。試験場いっぱいに広がって視界がゼロになる。しかしそれもすぐに晴れた。
巨獣がそこにいた。
白銀の毛並みが神々しいキツネだ。見上げるような巨大さをしている。人間なんて前足でプチっと潰されるレベルだった。
「……っ」
凄まじい威圧感で動けない。観客もシンと静まり返っていた。かなり頑丈なはずの試験場がビリビリと悲鳴を上げる。
これが、この獣が、もしかしてずっと攻略不能だった【九尾】のダンジョンの九尾だっていうのか……!?
「……!!??!???」
雫が九尾を見上げてフリーズしている。離れた場所で見ているオレでも動けないんだ。すぐそばにいる雫では息すらできないだろう。雫の足元にいるおあげも同じのようだった。
九尾が牙を剥いてニヤリと笑う。
『さぁ、どこからでもかかってくるが良い』
いや、無理だろ。
オーディエンスが内心でそうハモった頃。
雫とおあげは同時に気絶し、模擬戦は一瞬で終了したのだった。
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