第6話 世界標準ダンジョン3



「ダンジョン内に拠点的なものがあるらしい。そこからダンジョン内の階層に転移できるんだってさ。まあ、一度自力でその階層に到達する必要はあるみたいだけど」



 オレと雫はダンジョンの扉の前にいた。


 扉は見上げるような巨大さだ。門と呼んだ方が良いかもしれない。少しだけ開いていてそこから内部に進入できる。扉だけがぽつんとあって、扉の周りに構造物は存在しなかった。


 中に入ると一気に湿度が増す。温度は下がった。入ってすぐのちょっとした広場から狭い通路が真っ直ぐに伸びていた。



【地下牢】



 そう呼ばれるエリアだ。世界標準ダンジョンの名にはふさわしいだろうか。

 このダンジョン全体で見ると最序盤のエリアになる。壁や床は基本は四角い石かレンガでできているけど、ところどころゴツゴツした岩肌が剥き出しのとのころもあった。


 燈色の光を放つ松明が掲げられているけど数は少ない。暗さに加えて白いモヤが立ち込めているせいで5メートルくらいしか見通せなかった。


 オレたちは歩いて進む。

 ゼンテイカに乗れれば楽だけど狭くて使えない。強力だけど大型化しがちな搭乗式アームズの難点だ。


 だから自分で振るう武器—— ≪グレートレンチ≫。名前の通り工具のレンチを巨大化させたもの――をかまえていた。筋力・科学のステータスで補正がかかるアームズだ。


 ちなみにサブ武器として≪貫通ドライバー≫を用意している。鱗や装甲の隙間にねじ込んでダメージを与えることができる筋力・科学補正を持つアームズになる。武器重量に対するダメージ効率が良好なこともあってなかなか使い勝手が良かった。冒険者の採用率も高い。


「ねぇ、エネミーいなくない?」


「この辺りはいないらしいぞ」


「なんで??」


 オレの後ろに隠れつつ進む雫。足元に召喚獣のおあげがいるとはいえ、装備してるアームズが例の呪われ(仮)アームズなので戦闘はできないといっていい。


「—— このダンジョンは、ダンジョンに潜る上で大切なことを冒険者に叩き込んでくれるらしい」


「???」


 そのタイミングだった。


 通路が終わって広い空間に出た。通路はかなり短かったことになる。


 相変わらず白いモヤのせいで視界は悪い。


 いや、悪かった。不意に空気が動いてモヤが押し流された。


 何でだろうなぁ。どうしてこんな、地下牢なんて呼ばれる空間で空気が動くのか。いやほんと、何でだろうなぁ……なんて考えていたらモヤが晴れた。




 ――GRRRRRR……。




「……ちょ!? しゅー! 何これ! ナニコレ!?」


「何って……ボスだけど?」


「ボス!?」


 そう。このダンジョン、最初にエンカウントするエネミーがボスなんだ。つまり入ってすぐがボス部屋になってる。普通はダンジョンの奥にあるんだけどな、ボス部屋。そのセオリーを裏切ってくる。


 このボスは通称”地下牢のデーモン”。

 身長は15メートルはあるだろうか。2本のツノがある頭部はヤギの頭蓋骨の面影があった。造りのせいか少し笑っているようにみえる。

 腕は4本、背中には1対の翼を生やしている。足の先端はひづめだった。体は細く骨ばっていて、携えている両手持ちの巨大な斧なんて持ち上げられそうにないのに持ち上げている。双眸には赤い光を宿していた。


「このダンジョンが冒険者に叩き込む教訓は2つ。ひとつは『いかなる時でも油断するな』」


「……もうひとつは?」


 恐る恐る。雫が尋ねる。たぶんもう答えは分かってる。体が分かっている。ジリジリと重心を動かしていた。雫の視線は振り上げられつつあるデーモンの両手斧に釘付けだった。




「『ヤバそうだったら逃げろ』、だ」


「でしょうね!?」




 ――ゴッ!!!!!!!!




 破壊が撒き散らされる。デーモンが斧を振り下ろしていた。

 容赦ない。『ようこそ! ね!』って感じだ。衝撃が周囲へ拡散した。回避したから直撃はしていないけど、破片が飛び散って地味にダメージを受ける。


「ボスの背後に細い通道があるらしい! その先が拠点だ!」


「先に教えなさいよ! 行くよ、おあげ!」


「コン!」


「GRUOOOOOOOッ!!!!」



 武器が使えなくても逃げることは可能だ。雄たけびを上げるデーモンの足元を抜け、オレたちは前情報どおりに存在した通路に駆け込んだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る