第4話 世界標準ダンジョン1




「はいはい! あたしユ〇バ行きたい!」



 滞在中の寝床を確保したタイミングだった。しずくが元気に提案してきた。瞳をキラキラと輝かせている。


「ダメだダメだ。そんな状態で何言ってるんだ」


「えー!?」


 ユニバか……オレも行きたいとは思ってるんだ。1度は行っておきたいもんな。話題作りにはちょうど良いし。気持ちは分かる。


「ねぇ、ちょっとだけ! ちょっとだけでいいから!」


「けど雫の状態を考えるとなぁ……」


「大丈夫! 関係ないわ! むしろ逆にアリまである!」


 ないのかあるのかワケ分かんねぇよ。


「……もう昼だし、ちょっとだけだぞ」


「やった! 大丈夫! 何度でもトライすれば良いのよ。どのみち1日じゃ回りきれないし♪」


「攻略する気なのか……!?」


 どうしちゃったんだ雫。そんなにやる気を出すなんて。

 いやしかし、こんなことは滅多にない。鉄は熱いうちだ。雫の気が変わらないうちに早いとこ現地に行こう。


 オレはいそいそと≪ゼンテイカ≫をストレージから取り出す。金属の巨人が目の前に現れた。



 ゼンテイカ。



 そう名付けた4脚タイプの搭乗式人型アームズだ。サイズは横断歩道橋をくぐれるくらいか。


 歩行モードとタイヤによる走行モードがあって、走行モードの最高速度はがんばって80キロほど。自動車専用道も走行できるけど、公道を走らせたい場合は” ダンジョン特殊 ”—— 通称 ”ダン特 ”の免許が必要だ。取得が大変なんだコレ。


 重機タイプの人型アームズで、工業機械みたいな意匠が目立つ。重量感は満載で実際おもい。頭部は半球状になっていて、雫いはく「ヘルメットかぶってるみたいでカワイイ」らしい。


 カラーリングはイエローが基調で、ゼンテイカというネーミングの由来になっている。ゼンテイカは黄色い花を咲かせる植物のことらしい。近所のばーちゃんが言ってた。


 武装は機関砲、ハツリパイル、そして両肩を占用するスナイパーキャノン。


 ≪ハツリパイル≫はコンクリートとかを破砕はさいする=はつる工具を武器に転用した……という設定のものだ。


 パイル系で一番採用されている”バトルパイル”と比べると貫通力に劣る。けど振動で多段ヒット扱いになるため、押し付け続けることができればバトルパイルより大ダメージを期待できた。


 ゼンテイカで珍しいのは操縦席——胴体内部にある―― が複座式なことか。


 というかオレがそこにこだわった。雫と一緒に移動したいからな。この胴体パーツを手に入れるために何度も遠征した。ダブったパーツを売ってそれなりの収支になったのは嬉しい誤算だ。


「はーい乗ってー」


「お願いしまーす♪」


 雫を乗せて走り出す。


 分かってはいたけど、家の近所を走るのとは勝手かってが違う。

 道は広いけど交通量がはるかに多くて走りづらい。分岐が複雑で、そっちに気を取られているうちにどこかにぶつけそうだ。他の搭乗式アームズや騎乗できる召喚獣がちらほら走っているのが心強い。


 ……ああ、だけど。


 ひとめ拝んでみたいと思っている1機はいない。そのへんに居てもおかしくないだろうにやっぱりいない。


 でもどうしても探したくなる。あのビルとビルの間の空を横切らないかと期待してしまう。


 ゼンテイカより巨大な体躯をしているにも関わらず空を飛び回り、他の追随を許さない高速機動で敵を圧倒する、搭乗式人型アームズの最高峰—— 。



 グランドリーフ。



 冒険者・橿原光が保有するその1機は、彼女と共に科学系ビルドの冒険者の憧れだ。

 あるいはオレのように、彼女たちに影響されて筋力ビルドだったのに科学にもステータスを振るようになった冒険者の。


 ま、完全に雲の上の人なんだけどな。


「ねぇ、しゅー、どこ向かってるの?」


「ユニバだけど?」


「え? え? なんかナビと全然違う方に向かってるみたいなんだけど……」


「??? 道を間違えたりはしてないと思うんだけど……ていうかもう着くぞ」


「?????」


「はーい降りてー」


 ハッチが開いて光が差す。外の眺めと対面する。


 たくさんの冒険者たちが行き交う光景があった。冒険者向けの施設も立ち並んでいる。



 そしてそんな景色の奥に佇む重厚な扉——。



「おぉー! ここが世界標準ダンジョン【ユニバーサル・ダンジョン・ジャパン】かー!」


「…………」


 思わず声を上げたオレとは対照的に、雫は絶句したまま佇んでいた。




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