第二話 有栖院聖華の隠しレアスキル
全裸。
それは、全人類に与えられた唯一平等な財産である。
ただそれでも、私の裸には庶民共とは比べものにならない程の価値があるという事実は、どうしても拭いきれなかった。
「――だからって、なんで禿のおっさんのアバターなんかにしっちゃったんすか……?しかも、キャラメイクで三日も使うって……」
アルスマグナ・オンライン。
始まりの町ファストブルグ周辺。嘆きの森。
全裸で禿散らかしたメタボ体系のおじさんアバターが、股間の立派なマツタケを揺らしながら、堂々と直立している。
下僕一号は、その国宝にもなり得る芸術を目の当たりにながらも、思慮の浅さを
「はぁ」とため息をつく。
「良い?私の様な美しい人間の裸を見て、貴方達凡人はなんて思うかしら??きっと“こんな卑しい私めになんと
「はぁ……」
ここまで言わせておいて、まだ、理解が及ばないらしい。
「下僕。私はあくまでも背徳感を味わいたいの。裸を見せて感謝されては、本末転倒だわ。折角、アバター?とやらで見た目を好きに出来るのだから、野外露出してより人生が終わりそうな見た目にするのは当然でしょう?」
「それは、それでちょっと各方面から苦情とか来そうですが……。まぁ、お嬢様が俺の理解の到底及ばない次元で悩んでいるってのは、分かったっす……」
「まぁ、そこは良いわ。下僕如きが私に共感しようなんておこがましいもの。――そんなことよりも、下僕。貴方の見た目の方が問題あると思うのだけれど……」
私は、自分の周りを蠅のように飛び回るそれに、話しかけていた。
「え!?そうすっか?夢の国の登場人物みたいで自分じゃ結構可愛いと思うんすけど???」
何が「可愛い」だ――。こんな汚物が夢の国に居たら、即
下僕は、“妖精”というジョブ?を選んだらしい。
お陰で、手のひらサイズの下僕が私の周りを飛んでいて不快だ。
見た目は、黄色い全身タイツで、生意気にも蝶の様な羽を生やしている。
間違いなく、私が見てきた妖精の中で最も汚い。
と、言うか、妖精に対して初めて汚いという感情が芽生えた。
「今すぐ、ゴ〇ジェットを吹きかけたいわ」
「そんな~、サポートスキルが充実していて、実は優秀ジョブなんすよこれ。お嬢様をサポートする自分にピッタリじゃないっすか」
「でも、戦闘とかしないわよ私」
「へ?」
下僕の眼が点になっている。そんなに変な事を言ったのだろうか。
「いやいやいやいやいや、今プレイしてるのってMMORPG、戦って冒険するゲームなんですよ!?わかってんすか!!?」
少しむっとする。
「知ってるわよそのくらい!“すらいす”?とか“ろーたー”?とかを倒すのでしょう?」
「スライムとローパーっすから。片方完全に下ネタじゃないっすか」
「どっちだっていいじゃないそんな事。私は、このゲームで野外露出さえ出来れば良いのだから」
「えー?せっかくだから冒険しましょうよー」
「くどいわよ」
思わず、手ではたき落としそうになる。まぁ、はたき落としても良いか――。
「兎に角、行くわよ」
「行くって何処に?」
「町ね」
「それは流石にマズいですって!」
威風堂々と全裸で風を切って進んでゆく。
こうして、私達のある意味冒険は始まった。
※※※
一年後。
「とうとう今日で、このゲームを続けて一年ね」
「ソウッスネ。まさか、毎日全裸のおっさんのケツを追いかけるなんて思いもしなかったすよ……」
そうこの一年間。私は今までの人生で味わったことも無い濃密な時間をこのアルスマグナ・オンラインで過ごしたのだ。
下僕も如何やら感動している様だ。涙を流している。
森や山などでの野外マップでの露出は勿論、街中で人目を盗んでの露出、全裸でプレイヤーの後ろを付けながら気づかれないように露出、特にモンスター相手の露出はその場で絶頂をする程の快感を得た。
この経験は、私の人生においてかけがえのない財産になる事だろう。
すると、
「きゅいーん♪ぴーぴ♪ぴろろろろろー♪」
不意に、頭の悪そうな底抜けに明るいファンファーレの音が耳元で聞こえる。
同時に、
〔おめでとうございます!プライベートエリア以外での全裸状態での滞在時間が累計1000時間になりました!!隠しレアスキル“ネイキッドマスター”を獲得しました!!!〕
と、目の前に文字が浮かび上がった。
「え?なによこれ……」
「なんすか?……ってえええええ!?これ隠しレアスキルじゃないすっか!!?」
「隠し……レアスキルぅ……?」
「獲得条件が公表されていない、裏要素の事っすよ!何でも最初に達成したプレイヤーしか手に入らない、世界でオンリーワンのレアスキルだとか」
「はぁ……」
「良いから、どんな効果か見てみましょうよ。ステータス画面を開いて見て下さい」
下僕は、よくわからないが、鼻の穴をゴルフボールが入りそうなくらい広げ興奮していた。
「“すてーたす”?」
「自分の今のレベルとか、パラメーターの事っすよ。“ステータス・オープン”って言ってみて下さい」
「嫌よ、そんな馬鹿みたいで恥ずかしい」
下僕は目をキラキラさせていた。
……。
まぁ、たまには少しくらい労ってやっても良いか――。
「……。し、仕方ないわね。――ステータス・オープン……」
・ステータス
LV.1
HP 10
MP 10
POWER 1
DEFENSE 1
M・DEFENSE 1
SPEED 1
LUCK 1
・スキル
◇ネイキッドマスター
と、何もない空間に表示される。
「このネイキッドマスターって文字を、指で触って下さい」
「指で?一々注文が多いわね」
渋々、指でネイキッドマスターの文字に触れる。
そこには、
効果:全裸状態時、全ステータスは9999になる。
と、記されていた。
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