第44話 偽りのツルギ フランヴェルジェ


 ー #第三人称視点 #紅の部屋 ー




 蒼転寺リエの残した旧装狂演譜によるオフライン対戦がはじまった。



 もっとも自称蒼転寺ランが改良したヴァージョン1,5と呼ぶべきものであり

機体が受けるダメージはゼロとなり壊れることはない。




 ☆☆☆




 「紅の双璧システム、出るぞ」



 搬入用エレベーターがせり上がり腕組みをした紅が姿を現した。



 腕組みは心理学において他者への拒絶の意味合いが強いが

彼女の場合単純なカッコつけである。



 何もない荒野がバトルフィールドなのだが

これは格闘ゲームで純粋な果し合いをしたい場合に好まれるため

人気が高いのだ。



 とはいえ13cmの ”物理的な人形 ” が

ゲーム上の ” 幻の敵 ” と戦うのもいささかシュールだ。



 「敵影だと・・・・速いな」



 紅はすぐ臨戦体勢に入った。 



 背中のバックパックは先の戦いのヤトルフェ機と同じ

8連複腕サブアームをフランヴェルジェがいるであろう方向へ向けた。



 

 「さて、リエの技が効かないのであれば

俺がやるべきは攻撃誘導を目的とした偏差射撃だな」



 背中の複腕サブアームは紅の意志で攻撃を開始した。


 それはスマホの攻撃ボタンを押したからではなく

そう念じたからである。


 人間が手や足を動かすのと同じく自然にスッと動く、

文字通り機械と同化した存在なのだ。




☆☆☆



 「攻撃?ふーん、じゃあこれで」




 装飾を除けば紅と同等の13cmの新装狂演譜そうきょうえんふ

フランヴェルジェが姿を現した。



 バイク用のヘルメットを被り

目元をクリアオレンジのVRバイザーで隠し、

口元は黒色の布製マスク。


 蒼転寺ラン謹製の複合防炎布で覆われた姿は

荒野の賞金稼ぎ ” ガンマン ” と呼ぶべきか。



 

 華奢きゃしゃな体に似合わず、手から二の腕を覆う巨大な機械腕。


 足には追加装甲とローラースケートシューズ。


 背中には燃料タンクが魚のヒレのように無数に突き刺さっている異形。



 だがそれらは完全には固定されておらず

 ” ダクトテープ ” と呼ばれる粘着力の強いテープが張られていた。


 彼女及びシーフの得意戦術である武装パージからの高速戦闘を

実現させるための接合強度がダクトテープとの結論に至った。


 ☆☆☆




 紅の攻撃を次々に避けるフランヴェルジェ、

そしてトキソウマルと同じく背中のバックパックから

2本の複腕サブアームを展開させビームソードを

扇風機のようにクルクルと回転させ攻撃を防御していく。



 右手にライフル、左手にビームソードで活路を切り開いていく。


 ちなみにジエンドは普段は右利きで生活しているが

本来は左利きだ。


 親に矯正させられたためどちらも器用にこなすが

目立ちたくないという理由で多数派に合わせている。



 つまり左右においての攻撃に優越は存在しない。



 このことがジリジリと紅を追い詰めた。




 ☆☆☆



 さらにフランヴェルジェが近づく、

背中の燃料タンクも全て排出し紅に肉薄していく。



 自分のアドバイスから攻撃パターンに緩急をつけた

紅をジエンドは改めて惚れ直したが、

それでも音ゲープレイヤーにとっては見慣れた譜面のように

リズムから癖を見抜いていた。


 

 



 「ここまでか・・・・」



 紅の本気を見届け、ジエンドが残念そうにつぶやき

エネルギー切れのバックパックと手持ち武器を解放した。



 それと同時にスマホのボタンを押し、

頭部ヘルメットとVRバイザー及び黒マスクが外され・・・・・・・




 「なっ!!!!!!!」




 フランヴェルジェの顔は紅と瓜二つであったため

紅が一瞬ビクついた。



 紅の双璧システムの対抗策である

脳への必要以上の刺激を与え、

隙を作るのには十全じゅうぜんな時間を確保したのだ。



 そして左右の機械腕をロケットパンチのように打ち出し

紅の複腕サブアーム一部いちぶを破壊し

” 手首を回転させ ” 紅に殴りかかった。



 残念ながら現実を生きる人間の手首は回らない。


 しかしこれはゲームであり人間ではないキャラクターが戦っている、

故に手首が回転することは ” 普通 ” だ。




 とっさに避ける紅だが手持ちの銃剣が破壊されてしまった。



 殴っても銃は破壊されないのは人間界の常識だが

回転運動が加わることにより銃を削り取り穴を開けることが可能だ。





 ☆☆☆



 紅は内心恐怖におびえていた。


 人形の体が自由に動くということは感覚を共有しているという事、

現に複腕サブアームが破壊された時に

通常ではありえない痛みが彼女を襲ったのだ。


 

 背中の異物が最初から生えていたかのように体のパーツとして

脳が認め始めてしまっていたのだ。



 もし回転する手首が自分の体を貫いたら・・・・・・

これはゲームであり実際に穴が開くわけではないが

痛みが快楽というのは少数派、例えば蒼転寺リエぐらいなものだ。




 だが紅はリスクを取って戦う道を選んだ。



 この戦いで負ければジエンドが転校してしまう、

なら今の俺が幻痛に襲われようが

リエのように脳が焼き切れようが関係ない。



 紅の双璧システムのさらに奥、

ランナーズ・ハイやゾーンを越えた集中力の果てへ

意識を沈めていった。 




 

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