第21話 私ってそんな面倒な女かな?


 

 ー #保健室 #夜 #三人称視点 ー



 紅が焼いたクッキーをつまむ散歩部部長の少女。


 保健室に出入りしているメンバーも含めてなので10人分以上は

用意されている周到さだ。



 「初めに言っておくけどさ、私は恋愛感情なんて物はないから。


 そのうえで紅先輩には好意を抱いてる、ラヴではなくライクで」




 散歩部部長の放った言葉は紅に突き刺さる、

「何もしてないのに振られたぞ!いったいどうなっている!!!」と

紅に突っ込んだが気にせず会話を続ける週休3日部長。



 「私と紅先輩はどっちも学園保守がメインの仕事だから。


 プログラムの是正か機械自体のメンテかの違いはあるけど。



 似てるんだよね私達って。


 何度か顔を合わせたけどさ、メイド喫茶でのカッコよさが決め手。


 後輩に対して優しくてカッコイイ姿に脳を焼かれたというか、

” 推し ” なんだよね」



 「あー、エリーはリエの・・・機械部副部長の変装だった。


 つまり俺の初恋は沈んだ。


 そして今追い打ちをかけられている、正直実家に帰りたい」




 目を背ける紅の声が低くなっていく。


 それを横目にクッキーを食べていく散歩部部長、

保存が効かないお菓子を残すのは失礼に値するとのこと。




 「このクッキーもそうだよね、錬金術部、機械部、掃除部、そして散歩部。


 それだけじゃなくて各部活にも配っていたり、

3年の全クラス分も作ってるって聞いた。



 生徒会の選挙に出るならともかく、その意図が読めないんだよね。


 

 媚を売るメリットがないならただの偽善者

そう思われても仕方ないよね。・・・・・あっ、ごめん」



 少女は軽い会釈をしたものの言葉自体にはトゲがあることには変わりはない。



 暫しの沈黙の後紅が口を開く。



 「確かにそうだな。

だがもし俺のクッキーを楽しみに学校にくる生徒がいたとしたら?



 長期休暇明けの学生は自殺者が増えるというデータもあるからな。



 休み前と後でクッキーを配れば間違いを犯す生徒が1日延命できるのだ」




 「たった1日・・・・誤差の範囲だよね」




 「その1日で考えが変わるのを期待している。


 リエも元々保健室登校だったからな。


 キキョウが、機械部部長がヤツを支えてきたからこそ今のリエがある」



 本来は学内カウンセラーの仕事だが大人を信用できないのと、

本当に困っている生徒は自分から問題を定義させないという

実体験から偽善者まがいの事を紅は実行していた。


 そして目の前にいるのは会話が通じるタイプの人間と悟った紅は

散歩部部長に自身の過ちを語り始めた。




 「他人の過去を探るのは校則違反だが自分から語るのは問題ではあるまい。



 俺の前世は ” 装狂演譜そうきょうえんふ ”という

ロボットホビー同士を戦わせるゲームが流行していた。


 学生トーナメントを勝ち抜けば就職最難関企業への道が開けるからだ。



 勉強はともかく部活動なんて稼ぎにもならない普通の生徒はみなこぞって

夢を追いかけた。



 そして・・・リエが中2を迎えるころ俺は生まれた。


 リエの第2の感情と言っていい攻撃的で自分勝手のな」




 「ふーん、ゲームが強ければ成り上がれる世界か。行ってみたいかもね」




 「そして俺の戦闘スタイルは味方事撃ちぬき勝利を勝ち取るスタイル。


 敵も味方も再起不能なまでにチカラの差を見せつけるのが癖になっていた」




 「・・・今の先輩とは真逆じゃん」



 散歩部部長は呆れ半分と驚き半分で言葉を放った。




 「それを手助けしたのがリエと俺の決戦機能、

” 紅の双璧くれないのそうへきシステム ”


 おおざっぱに言えば脳のリミッターを外し意図的に

” ランナーズハイ ” や、 ” ゾーン ” と呼ばれる事象を引き起こす。



 脳内快楽物質の増大および

酸素供給不足による脳がマヒした思考能力の低下、

2つの要因だから双璧」



 「やっぱ偽名なんだ、紅の双璧って。

だから私が名前を呼べたんだ」



 伯爵も紅の双璧も本名じゃないからこそ掃除部部長は名指しできたのだ。


 


 「じゃあさ、私にも名前を付けてほしいんだ。


 ほら散歩部結成記念ってヤツ」



 「俺が?なんとなく察してはいたが本名が嫌いらしいな。


 詳しいことは詮索する気はないが名前の候補はあるのか?」



 散歩部部長はスマホを見せて自分が考えた名前を披露する。



 「ふむ、紅は私の嫁に紅2世ぃ?なぁ本当に俺の事恋愛対象じゃないのか?」




 独自のネーミングセンスに困惑する紅と

ドヤ顔で見せつける散歩部部長、

あくまでメイド喫茶で見せた紅のイケメンムーヴが好きなのだ。




 「私は自分の為に生きていくと決めたからね。


 クッキーを渡すのが過去の罪滅ぼしということが分かって

ますます意味不明な生き方と感じたんだ。


 メリットないじゃん?そんな生き方はカッコイイとは思わないし、

結婚しても苦労するだけ、だから推し」



 「返す言葉もないな」



 「今の生き方を全部捨てる覚悟があるなら散歩部に来ない?


 面倒を押し付ける機械部副部長からも、伯爵からも守ってあげるから。


 常々言っている休みが欲しいという願望も私となら叶えられるし、

悪い提案じゃないはずだけど?」



 もうすぐスス伯爵から電話がかかるタイムリミット。


 紅と散歩部部長の沈黙が場を制していく。

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