第8話 紅の恋模様その2 たまには湿度高めでもよかろうて
ー #百合の鳥島学園文化祭2日目 #メイド喫茶 #三人称視点 ー
紅は客であるエリーの分とは別に自分用のオムライスを完成させた。
「えっと・・・2人分?
もしかして私がお金払うぼったくり店ですか?」
「いや?俺用だが?」
効率を考えるならメイドは接客で
料理人は別人が理想ではあるが、
百合の鳥島学園にそんな常識は通用しない。
” 稼げるときに稼ぐ ” が校歌の歌詞にあるように
とにかく働いた分だけ自分達に見返りがあるのだ。
いわゆる時給制ではなく出来高制と言えば伝わるだろうか。
「ああそうだ、ケチャップで文字を書くサービスもあったな。
何か書いてほしい文字はあるか?」
「エリー♡って書いて・・・ほしいかなって」
「承知した」
紅は要望どうりの文字を書きエリーにオムライスを渡した、
そして自分用には ” 完全週休2日 ” と切実な願いを描いた。
「じゃあなんか呪文を唱えるぞ。
おいしくなーれ、萌えキュンキュン」
「紅先輩、目が死んでます」 引き気味
呪文を唱えるのが恥ずかしいのか、それとも仕事疲れからか、
終始真っ暗なテンションで儀式を終えたエリーのオムライス。
いただきますと小声で言い、
恐る恐る ノロイ マシマシ オムライス を口に入れるエリー、
だが味に関して言えば文句のつけようがなかった。
オムライスの中身、ケチャップライスの具が大きいのだ。
玉ねぎやベーコンが歯ごたえがあるレベルで程よく切られており、
エリーは気が付かなかったが ” うま味調味料 ゆりの元 ”が
ご飯を炊く前に振られていたのだ。
イメージとしては おかかのふりかけの優しい味版と言えるが
口に入れた瞬間旨味が広がり、且つ自己主張が激しくない絶妙なバランス。
終始おっかなびっくりのエリーも思わず美味しいと口にしたほどだ。
「いい食べっぷりだ!俺の分も食べるか?」
「じゃあ、ひとくちだけ」
エリーはスプーンで紅のオムライスを切りそのまま口に入れた。
それが間接キスであることに紅は気が付いていない。
エリーの体温は緊張と興奮でアドレナリンが生成され、
顔が赤くなっていた。
そんな様子を気にしてか紅が席を立ち両手でエリーを持ち
おでこ同士を合わせて体調を確認した。
「少し待て・・・・ふむ熱はないようだな」
「//////////♡」
距離が近い。
紅とあわよくばキス手前までの距離感、
どうせならオーバーランして欲しかったというのがエリーの本音ではあった、
それ以上に自分を心配してくれる紅への好意が加速していた。
「話は変わるがその服、俺と同じタイプの洗剤だな?」
「せ、洗剤ですか?これはその、友達に勧められて・・・・」
「いい香りだからな。普段は他の洗剤と混ぜて使っているが今日は特別だ。
俺の野望は全部活動に道場破りをすることと、
頂点に立った地位を利用し!この洗剤の香りを広めることにあるのだ!!!」
「もしかして・・・匂いフェチなんですか?」
「運動中は汗をかくからな。
それに不快な匂いを放ちながら対戦するのは失礼にあたる。
俺なりの騎士道精神ってやつだな」
紅の言葉を聞き、エリーが俯きながら話す。
「でも先輩の評価ってあんまりイイ物じゃないんです・・・よ」
「当然だな、試合を挑んで負けたのだ。
それが自分の苦手な競技であろうと、相手の得意競技だろうと関係がない」
「それじゃあ紅先輩は舐められっぱなしですよ?」
「わざと負ける気は毛頭ない・・・が、
ズルをしてまで勝とうという考え方もない。
かつては勝利に囚われていたが上には上がいることを知った、
正確にはそれを理解するまで言い訳を繰り返し更生したというのが正しいか」
「先輩って不器用なんですね」
「ここだけの話にしておいてくれ」
ブラックコーヒーをすする紅を見つめながらエリーは
自分が紅に対して好意を寄せたエピソードを話し出した。
「じゃあ私が紅先輩を好きになった理由を話します。
ここだけの話ですよ?
文化祭の準備の中冷水器が壊れた時がありましたよね?
夏の暑い日ですから生徒たちが暴動を起こす寸前まで怒り狂ってました。
その時に専門外ながら冷水器を修理する紅先輩を見つけたんです」
「あの時か、結局リエが・・・機械部副部長が来るまで
騒ぎが収まらなかったな。
まあ結局部品の摩耗、使いすぎてパーツが基準値を下回ったから
部品交換となったが」
「確かに機械を直したのはリエ先輩でしたが・・・・
暴動を抑えるための時間稼ぎをしていたのは間違いなく紅先輩でした」
「ならばリエに惚れるべきだろう?」
「私も野次馬もただ見ているだけで冷水器を治そうともしなかった。
そんな中我先にと飛び出した紅先輩の勇気に恋を・・・
恋をしたんです!!!」
直後周りの人たちから黄色い声援を浴びる紅たち、
ちゃっかりメイドもご主人様たちも恋バナに耳を傾けていたのだ。
☆☆☆
ー #20分後 ー
談笑をしながら食事を終えエリーのテーブルにプリンを出した紅。
当然紅の分も用意してあった。
「別にプリンが好きという訳ではないぞ?
当店のサービスに ” 食べさせあいっこ フォトサービス ”があってな、
もしよければスマホの自撮りモードで記念撮影ができるぞ?」
「ぜ、ぜひ♡」
当然そんなサービスは存在しない。
だが自分に好意をむける相手を無下にするわけにはいかないのが紅だ。
反骨精神を持つ者にとってエリーのような善意の塊には相性が悪い。
カウンターが出来ずに終始相手のペースに巻き込まれてしまうのだ。
写真を撮り終え会計に向かうエリーに対し紅はメモを手渡した。
「何と言えばいいか・・・・俺は多分エリーに恋をしたのだ。
ここに俺の個人用電話番号が書かれてる。
その・・・気が向いたらでいいが電話をしてほしい。
俺もその、話し相手が欲しい時があってだな」
「先輩・・・・」
再び黄色い声援が湧く。
それを押しのけるかのようにエリーをお姫様抱っこで会計へ運ぶ紅。
もはや誰の目から見てもカップルと言っていいだろう。
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