27. 打ち上げ(デート)の前に

 ぼくと良彦が完治したあとも怪我と闘い、ようやく退院した大紀を前にして、ぼくたちは友情を確認しあい、泣きもし笑いもしたのだが、十分も経つと事故の前のような会話へと戻っていった。

 そして、ぼくには問いただすべきことがあるのを思いだした。


「なんで、ぼくの妹の電話番号を知ってるんだよ!」

「ふつうに教えてくれたぞ」


 と、ふたりは口をそろえていう。


「うちの妹を、軽い女の子みたいに言うな!」

「落ち着けって」

「妹には、絶対に手をだすなよ!」


 お兄ちゃんしてるなあ――などと大紀が感嘆かんたんしている。


「停学中にするカードゲームって、なんでこんなに背徳感があるんだろうな」


 ――と良彦。ようやく確定した、三週間の停学という処分。ぼくたちは金曜日の放課後、停学中の良彦の家に集まった。大紀はまだ、歩きづらいところがあるというが、学校に来ることができるようになった。


「ところで」


 バトルエリアに置かれたモンスター全軍の攻撃で、良彦の「体力」をゼロにした大紀は、話題をへと向けた。


「明後日、栗林さんとデートなんだろ? デートのときの服装とか、諸々もろもろの準備とかは大丈夫なのか?」

「デートじゃなくて、な。服装に関しては、妹が相談に乗ってくれるらしいから」

「それがいいよ。あの栗林さんの横に立つのに、優理のセンスじゃ太刀打ちできないから」


 栗林さんと打ち上げに行くことを話していないのに、どこから聞きつけたのか、急にデートコーデの相談に乗りたいと提案してきた妹。しかも、「お兄ちゃんの今後の人生を左右するんだから」などと、大仰おおぎょうなことを言ってきた。もちろん、どうしようか迷っていただけに、助かりはしているのだけれど。


「優理の妹に電話して頼んだ甲斐があったな」

「さすがだな、大紀。これこそ、美しい友情だな」


 今回だけはゆるしてやろう。事実、ぼくの服のセンスは絶望的なのだから。


 ぼくの目の前では、良彦と大紀の十六戦目がスタートされようとしている。ずっと同じ相手で飽きないのかとむかしいたことがあったけど、彼らいわく、信頼できる対戦相手だからストレスがないのだという。


 不正もしないし、カードの能力の処理に関するもめ事も起こらないし、負けたところで、険悪な雰囲気になったりしない。そういう相手と遊ぶ方が、見ず知らずの人と対戦するよりも、安心できるらしい。


     *     *     *


 残念なお知らせは、突然にやってきた。


 ぼくは、妹から教えてもらったデパートのファッション系のエリアに来たものの、なんでこんなやつがここにいるんだ――みたいな視線にさらされているような気がして、猛烈な不安感におびえていた。


 さすがぼくの妹。学校の成績がよくはない。ということで、休日補習を受講する生徒の名簿のなかに連ねられたらしい。前の中学校はそんなに厳しくなかった気がするのだけれど、来年は高校受験が控えているから、それくらいの試練を与えたりするのだろうか。


 というか、いま「本当の試練」を与えられているのはぼくのほうで、まず、どこからどこまでが、どのテナントのスペースなのかさえ分からない。店前に立っているマネキンの「服の着こなし」のセンスに圧倒され、きらきらとした雰囲気をまとう店員さんたちに、どう声をかければいいのかも検討がつかない。


 もうこのまま帰ろうか――と思っていたとき、後ろから、ぼくを呼ぶ女性の声が聞こえてきた。振り返るとそこには、誰だかバレないように変装しているのにそのオーラを隠しきれていない、彼女が立っていた。


「えっと……美月みづきさん?」


 美月さんは人差し指を唇にあてた。


「なんで、こんなところにいるの?――義弟おとうとくんは」


 サングラスをあげて、美月さんはウインクをして見せた。

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