17. 応答せよ!応答せよ!

 ぼくが栗林さんに暴力をふるったというが、校内をかけめぐっていた。


 そりゃそうだ。栗林さんが学校を欠席し続けている理由には、ぼくになんらかの原因があると考えた方が、理解しやすいだろうし。しかし「暴力をふるった」というのは、根拠のないウソだ。でもなんで、そのウソが説得力をもって語られているのか。


 もちろんそれは、過去のぼくのが、この学校でも周知になったからだった。ぼくは確かに、妹を守るために、いじめっ子たちに暴力をふるった。殴った。それは間違いない。ウソではない。しかしぼくはあれ以来、だれにも暴力をふるっていない。それも本当のことだ。


《四条は暴力沙汰を起こしたから、引っ越しをせざるを得なくなった》


 なるほど、そういった邪推も、かくだん想像しがたいものではない。しかしぼくの引っ越しは、暴力沙汰を起こす前から決まっていた。しかしなぜ、そのことを知っているんだ?


 最小限の力量で、嫌いなやつを蹴落とす方法のひとつは、根も葉もない噂を立てることで、しかしこれができるのは、絶妙なウソを作り上げられる、それなりに影響力があり情報通の人物だけだ。


 この学校では、長白河颯太ながしらかわそうたくらいだ。


 こういうとき、ぼくはどう振舞えばいいのかといえば、もちろん、黙りこんで弁解しないこと一択だ。


 根も葉もない噂に対して弁解する言葉を、エイリアンが持っているわけがない。彼らのなかで流通されている言葉のルールを打ち壊すことは、別のルールのなかで生きてきたエイリアンたちには成しがたい。


 机に落書きをされること、周りから冷たく扱われること、酷い言葉を投げかけられること――こういうことに、慣れるわけがないだろう。日常的なことなのだと、納得できるわけがないだろう。


 明日、ぼくたちは漫才を披露するはずだった。


 でも「2年4組のエイリアン」は先日解散し、ぼくたちはそれ以降、ネタ合わせもしていないし、会ってもいないし話もしていない。それでも、ぼくたちのコンビ名はいまだに文化祭の屋外ステージの香盤表こうばんひょうの中にある。良彦も大紀も学校にいない。ぼくの相方となるひとはもういない。


 栗林さん、ぼくたちは、この約一カ月の間に、かけがえのない経験をしてきたんじゃないのか?


 プロテスト。教室の隅に追いやられたエイリアンの漫才が、に対する唯一のプロテストなんだ。


 ねえ、栗林さん。ぼくは、栗林さんをプロテストの手段にしたのかもしれない。でも、きみと一緒にいるうちに、きみと過ごしていくなかで、そしてあの公園できみの想いを聞いたことで、確信した。


 栗林さんだって、ぼくと似たり寄ったりのエイリアンなんじゃないのか?

 プロテストをしてやりたいと思っているんじゃないのか?


 夕方。ネタの練習をしていた公園で、ぼくは何度も栗林さんに電話をかけた。留守電もいれた。未練たらたらの彼氏みたいなしつこさで。


 折り返しの電話も返事もない。美月みづきさんに間を取り持ってもらうなんて、したくない。ぼくはいま、栗林さんと直接話をしたい。繋がりたい。

 でも、栗林さんは、ぼくを遠ざけ続けている。


 夜八時。遠くにお巡りさんの姿が見えた。ぼくの方へと向かってくる。


 ぼくは走った。走りながら、留守電をいれる。叫ぶ。これを聞いて、耳がきんきんすればいい。家族のだれかの耳にまで届いて、恥をかけ。ヤケクソだ。


〈応答せよ! 応答せよ! ウェスト・ツリー・ツリー・ツリー! こちらマーケット・アドバンテージ! 明日! UFOに乗って……舞台にこい! こちら! マーケット・アドバンテージ! 頼んだぞ! ウェスト・ツリー・ツリー・ツリー!〉

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