第139話「死霊騎士団」★

「全員登録は終わりましたか~?」


「「「は~い!」」」


 今日は学園の外でモンスター討伐の実習授業を行う日だ。


 マホリードの冒険者ギルドにて、生徒達に冒険者登録をさせた後、授業の注意事項の説明を行うと、生徒達は元気よく返事をする。


「見て見てソフィアちゃん! ギルドカードだよ! これで私もファンタジー世界の冒険者の仲間入りだね!」


 雫がハイテンションで10級のギルドカードを見せてくる。


「はいはい。はしゃぎすぎて怪我をしないように気をつけてくださいね。それと授業中はちゃんとソフィア先生と呼びなさい」


「はーい、ソフィア先生。見てろ~、私もそのうち特級冒険者になってやるぞー!」


 特級冒険者は流石に無謀だと思うが、やる気があるのは良いことだ。まあ、その前に地球の世界探索者ランキングに載れるようにならないと話にならないが。


「それで、今日はどんなモンスターを討伐する予定なんですか?」


 わいわいと騒いでいる生徒達の輪から抜けて、アリエッタが尋ねてくる。


 ちなみに今日の実習の参加者は、俺とネブラーク先生の引率教師を含めて総勢15名だ。


 男子はフォクスに取り巻きのリィトとキィマなど計6名。女子は雫にアリエッタ、マリーベル、メリッサなど計7名。本当はもっと希望者がいたのだが、やはり安全面を考えて人数を絞ることにした。


「今日はオークの討伐をします。オークは繁殖力が高く、放っておくとどんどん数が増えてしまうので、定期的に間引かないといけませんからね」


 王都の南にある森の洞窟で、オークが大量に繁殖していたという報告があり、もしかしたら上位種や亜種もいるかもしれないとのことで、ギルドに依頼が出されていたのだ。


 本来ならギルド登録をしたばかりの10級冒険者に任せるような依頼ではないのだが、魔法学園の学生達は元々高い戦闘能力を持っているし、特級冒険者の俺と闇の賢者であるネブラーク先生も同行するので、まあ大丈夫だろうとギルド側は判断したらしい。


「最近はオーク肉の需要も高まってますし、報酬も期待できますよ。というわけで皆さん、張り切っていきましょう!」


 俺の言葉に生徒達は再び元気よく返事すると、意気揚々とギルドの外へと歩き出すのだった。





「ここがオークのハウスね……」


 王都マホリードを出て1時間ほど歩くと、森の奥にある洞窟が見えてきた。


 以前は何の変哲もない普通の洞窟だったが、ギルドの情報によると、最近になって大量のオークが住み着いたらしい。


 王都からも離れているし、あまり人の立ち寄るような場所でもないので、放置していても然程問題はないのだが、念の為調査をしてほしいとのことだ。


 洞窟の周辺をこっそりと窺うと、体長2メートルほどもある醜悪な豚のような顔をした化け物達が、ブヒブヒ鳴きながらうろついていた。


「うえ~、あれを普段食べてるかと思うと、気分が悪くなってくるかも……」


 雫が心底嫌そうな顔をしながら呟く。


 こいつも俺と同じ地球人の感覚を持っているから、やっぱりオーク肉は苦手らしい。


 だけど、よく考えたら地球の豚も二足歩行していないだけで、見た目は似たようものなのだが……。


「よっしゃ! 腕がなるぜ! オーク狩りで俺様の実力を見せてやるぜ!」


「ちょっと待ってくださいフォクスくん。洞窟内は色々と危険なので、ちゃんと準備してからにしましょうね」


 俺は逸るフォクスを宥めると、ネブラーク先生に視線を移す。


 すると、彼は仕方がないとでも言いたげな顔で頷くと、魔法を発動させる準備を始めた。


「やれやれ。では、僕の"死霊騎士団レジェンダリー・トゥエルブ"の一体を召喚して、生徒達の守護に当たらせるとしようか」


 ネブラーク先生がそう言うと、生徒達はわっと盛り上がる。


「出るぞ! 英雄、魔族、モンスターなど、12体の伝説級の生物の遺体で構成される、ネブラーク先生の最強のアンデッド軍団――"死霊騎士団レジェンダリー・トゥエルブ"が!」


 眼鏡の男子生徒が興奮した様子で叫ぶ。


 彼の名は"カイッセ"といい、魔法の才能はそれほどでもないのだが、やたら色々な知識に精通している変わり者だ。


「今回は一体誰が召喚されるんだ!? "英雄グリムバルト"か!? それとも"悪逆王ベームシュタイン"か!? はたまた――」


「我が呼びかけに応え、その姿を現せ! 死せる騎士よ!」


 カイッセの言葉を無視して、ネブラーク先生が死霊魔法を発動させる。


 すると、地面に黒い渦のようなものが発生し、その中から一基の棺桶がゆっくりと浮かび上がってきた。


 そして、棺桶の中にネブラーク先生の周りに浮いていた霊魂の1つが吸い込まれると、その蓋が開き――。



『目覚めよ――"魔人剣のミルフィリア"!』



 ネブラーク先生が高らかに叫んだその瞬間、棺桶の中から小柄な少女が姿を現した。


 薄紫色の髪に銀色に輝く瞳。まるで人形のように整った顔立ちに、白く滑らかな肌。だが、その頭には2本の禍々しく捻れた角が生えており、お尻からは先端がハート型になっている尻尾が生えている。


 【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16818093075453758324


 そして、小学生くらいの体躯に不釣り合いな、身の丈ほどもある大剣を背中に収めていた。


 明らかに人外の存在ではあるが、その佇まいには気品があり、見るもの全てを魅了するかのような美しさがあった。


「う、うおおおおぉぉぉ!? あ、あの少女はぁぁぁぁ!!」


「知っているんですかカイッセくん?」


 カイッセが興奮で顔を紅潮させ、鼻息を荒くしながら叫んでくるので、俺は思わず尋ねる。


 すると、彼は眼鏡をキラリと光らせながら捲し立てるように喋り始めた。


「知らないんですかソフィア先生! 彼女は旧魔王軍四天王の1人――"魔人剣のミルフィリア"ですよ! その可愛らしい外見からは想像もつかないほど残虐かつ冷酷な性格で、100年前に人類を恐怖のどん底に突き落とした大魔族!! 彼女が通った後には血と肉塊しか残らないと言われていた、正真正銘の化け物中の化け物ですよ! いやぁ、まさか本物のミルフィリアをこの目で見られるなんて……。生きてて良かったぁ!!」


「ちょっと近い、近いですよ!」


 興奮して唾を飛ばしながら顔を近づけてきたカイッセを、俺は慌てて押し返す。


 他の生徒達も、本でしか見たことのない伝説上の魔族を目の当たりにして、ざわざわと騒ぎ始めていた。


「でも、大丈夫ですの? そんな危険な魔族を召喚して……。もし暴れ出したりでもしたら、ソフィア先生やネブラーク先生は大丈夫だとしても、わたくし達ではどうにもできないのではなくて?」


 マリーベルが心配そうな様子で尋ねてくるが、ネブラーク先生は心配無用とばかりに笑みを見せた。


「問題ないよ。僕の"死霊騎士団レジェンダリー・トゥエルブ"は肉体だけで、魂は入っていないんだ。なので、肉体を動かすには別の魂を入れなきゃならないんだけど……おかげで元のスペックよりかなり弱体化しまうのが欠点かな」


 なるほど、凶悪なミルフィリアの魂ではなく、別の善良な人間の魂が彼女の体を操るため、暴れ出すような心配はないというわけか。


「それでもなるべく相性のいい魂を選んで、できるだけ性能を落とさないようにしているんだけどね。今、彼女の体に入っているのは――」


「おいネブラーク! 何で俺はいつもこの体なんだよ! もっと男らしい、筋肉質な体にしてくれって言ってるだろ!」


 ネブラーク先生の声を遮って、ミルフィリアが不機嫌そうに叫ぶ。


 どう見ても可愛らしい女の子にしか見えないのだが、口調は男性のそれである。


「生前は1級冒険者だった"剛剣のマクシミリアン"という男の魂を入れてある。元が筋骨隆々の中年の大男だったから、本人はあまり気に入ってないみたいだけど、僕が契約を結んでいる魂の中で、彼が一番ミルフィリアと相性がよいのだから仕方ないだろう」


 ミルフィリアはおっさんみたいな口調でぷりぷりと怒りながら、大剣をぶんぶんと振り回している。


 うーん、本当は恐ろしい魔族のはずなのに、凶悪な魂が抜けておっさんの魂が入っただけで、ただの可愛らしい少女にしか見えなくなってしまうとは……。


 美少女がおっさんの魂で可愛らしくなるというのも奇妙な話ではあるが、とりあえず善良そうな魂みたいだし、ミルフィリアが暴走して生徒達に危害を加える心配はなさそうだな。


「それではそろそろ行きましょうか。私が先頭を、ミルフィリアが殿を、ネブラーク先生は生徒達がはぐれないように、ちゃんと見張っててくださいね」


 俺は皆に指示を出しながら、洞窟の入り口から中へと入っていくのだった。

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