第125話「ソフィアvs殺し屋の里最強世代」
●アイ
黒髪をおかっぱにした、10代半ばほどの小柄な少女。
●ウエ
筋骨隆々でスキンヘッドの大男。
●オカ
背が高く温厚そうな外見をしているが、その実力はルキシンに次ぐほど。
魔力を糸のようにして操る"魔糸"のギフトを持つ。
●キク
黒髪をサイドテールで結んだツリ目気味の少女。
●ケーコ
眼鏡をかけた長身の少女。
紙に仮初の命を与え使役する"式紙"のギフトを持つ。
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「……あの木の上のいるスズメのようなナニカですかね?」
監視している存在を探っていたところ、ついにその正体を捉えた。
近くの木に留まって、じっとこちらの様子をうかがっている小鳥型の物体。生き物のように見えるが、身体を覆う魔力の質から、あれは何らかの能力によって創り出されたものだと推測できる。
たぶん紙に仮初の命を与えて使役する"式紙"のギフトだな。
これは非常に便利なギフトなのだが、女にしか使うことができない能力なので俺はコピーできていない。さっきの黒装束の男といい、魔糸の奴といい、珍しい能力のバーゲンセールみたいな集団だ。
できれば捕らえて男からは能力をコピーしたいところだが、相手関係的に難しいかもしれない。
「……むっ! 来ましたね!」
ここから南西約1キロの地点に、5人ほどの魔力反応が感知できた。全員が1級冒険者に匹敵するほどの魔力量を有している。
「ですが、やはり最初の男ほどではなさそうですね……」
あいつは異常な強さだったからな。最初からあいつとこいつらの6人がかりで向かってこられたら、流石にまずかったかもしれない。
だけど、おそらく俺はあの男1人だけのターゲットだったのだろう。そしてどういうわけか、俺のことを標的にしていたくせに、特級冒険者の"サウザンドウィッチ"だとは気が付いていなかったらしい。
なので仲間達もまさかあいつが1対1で負けるとは想像だにしておらず、手助けしようなどという発想に至らなかったのだと思う。
その点は幸いだったが、とにかくこいつらを何とかしないとな。
俺は小さく息を吐き出すと、切り株から立ち上がり、首を左右に倒してコキコキと鳴らし、軽くストレッチを始めた。
奴らは俺を視界に捉えながら、攻撃してくるような素振りはみせない。俺はさっきから魔力を全く隠蔽してないからな。一見して特級冒険者レベルの強さだと感じ、慎重になっているのだろう。
「ならば先手必勝……ですねっ!」
俺は腰を落とし、足に大量の魔力を集中させる。そして、溜め込んだ力を一気に解放し、地面を蹴った。
地面が足の形に大きく陥没し、俺の身体がまるでミサイルのように射出される。
「「「――っ!?」」」
一瞬にして自分達の目の前に現れた俺に、驚愕に目を見開きながらも、慌てて戦闘態勢に移る黒装束達。
だが、俺は長身で眼鏡の女に狙いを定めると、右足を大きく踏み出し、全体重を乗せた強烈な中段蹴りを女の腹に叩き込んだ。
「ぐぼぇっ!」
眼鏡の女が血を吐きながら宙を舞う。
身体をくの字に折った女は、その勢いのまま遥か後方へと吹き飛ばされて、木々を薙ぎ倒しながら転がっていった。
「ケーコぉおおおおおおお!!!!」
よし! 監視の目が消えた! やはり今の女が"式紙"の能力者だったようだ。
「貴様ぁあああああ!!」
怒りの形相でスレッジハンマーを構えて突進してくる、スキンヘッドの大男。身の丈ほどもある巨大なハンマーを上段に振りかぶっているにも関わらず、そのスピードはとんでもなく速い。
俺は後方にジャンプして男の攻撃を回避すると、地面に接触したハンマーが大爆発を起こし、その余波によって近くの木々が派手に吹き飛び、辺りに砂塵が巻き起こった。
武器に何かを付与するタイプのギフトかもしれない。
しかもパワーだけなら最初の男に匹敵するレベルだ。まともに喰らったら、俺の魔力ガードも余裕で貫通されてしまうだろう。
空中で回転しながら木の側面に足をつけた瞬間、砂塵の中から半透明な糸らしきものが何本も飛び出してきた。
「――ふっ!」
素早く糸を躱し地面に転がると、糸は後ろの木に絡みつき、一瞬にして細切れにしてしまった。
これは、魔力を糸に変えて自在に操る"魔糸"のギフトか。あの男の死体を回収していった奴だな。威力、精度ともに達人クラスだ。
「――ぬおっ!?」
いつの間にか辺りの地面が凍り付き、足が地面に固定されている。
「"アイスワールド"」
サイドテールでツリ目気味の少女が右手を頭上に掲げ、冷たい声音で呟くと、まるで俺の身体の周りだけ氷河期が来たかのように、一気に温度が低下した。
氷魔法使い。氷の賢者ルナリアほどではないかもしれないが、相当ハイレベルな魔法の使い手だ。
「捕らえた――"
その隙をついて、おかっぱの少女が俺の右手を掴み、何らかの能力を発動した。
すると、体の自由が利かなくなり、右手から魔力が強引に吸いだされ始める。
おそらく魔力吸収と、掴んだ相手を操る能力なのだろう。
だが、俺との魔力量の差があまりにも大きすぎるため、どうやら完全に俺を支配できていないようだ。強引に動こうとすれば体の自由が戻りそうだ。
「アイ! どけ! 仕留める!」
「駄目! ちょっとでも動いたら逃げられるっ! ウエ、私ごとやって!」
「しかし!」
「若の仇だっ! いいから早くやりなさいっっ!!」
ヤバい! こいつらマジで強いし、相当な覚悟を持ってガチに俺を殺しにきてる!
もう捕らえて情報を聞き出すとか、能力をコピーするとか、そんな悠長なこと言ってる場合じゃない。本気でこいつらを殺しにかからないと死にかねない。
「クソがぁぁぁぁ! アイ! 先にあの世で待ってろ!!」
スキンヘッドの男がハンマーを振り上げ、おかっぱごとフルパワーで俺を叩き潰そうとしてくる。
おかっぱの能力で回避できそうにないし、これはもうダメージを覚悟するしかない! とにかく全力で魔力ガードを固めるっ!
――ドゴォオンッッ!!
次の瞬間、男が振り下ろしたハンマーが俺達に直撃する。
周囲に凄まじい爆炎が巻き上がり、地面は広範囲にわたって陥没し、天高く土埃が舞い上がった。
――そして、辺りに静寂が戻る。
「ふう、いたぁ……」
俺は覆いかぶさっているおかっぱをどかすと、彼女は力なく地面に倒れ込んだ。目には光がなく、魔力反応もない。どうやら事切れているようだ。
「アイ……。あ、あの女……俺の一撃をまともに喰らって生きているだとっ!?」
「落ち着けウエ! 生きてはいるが無傷ではない、あの右腕ではもう碌に戦えまい。このまま畳みかけるぞ! アイの犠牲を無駄にするな!!」
確かに俺の右手は肩から指先にかけてぐちゃぐちゃで、大量の血で真っ赤に染まっている。普通ならもう勝負は決まったような状況だ。
だけど、あくまでも
「天なる光よ、その清浄なる輝きを持って、全てを癒す奇跡となれ――"パーフェクトヒーリング"」
俺が詠唱を唱えると、右手の怪我は瞬く間に修復され、元の真っ白な美しい手へと戻った。
「ば……馬鹿な! 神聖魔法だとっ!?」
「くそったれがぁ! やっぱりこいつ"サウザンドウィッチ"じゃねーか!! 特級冒険者最強の魔法使いが何で武闘家なんかやってやがんだよ!!」
こんな時の為だよん。
魔法しか使えない、もしくは武術しか使えないと相手が思い込んでくれたら、こういう展開にも対応できて便利だからね。
「オカ! ウエ! どいて! もう一度そいつの動きを止める! 凍りつけ――"アイスワールド"!」
「おっと、炎の嵐よ、吹き荒れろ―― "ファイアストーム"!」
サイドテールが再び氷魔法を使おうとしたため、俺は広範囲に炎の竜巻を発生させて奴の魔法を妨害した。
そのまま天高く跳躍すると、右手を頭上に掲げ、火の魔力を極限まで圧縮していく。
「天空より降り注げ――"フレアレイン"」
解き放たれた炎が流星の如く、放射状に地上へと降り注いでいく。
スキンヘッドとのっぽの男は咄嗟にジャンプして回避したが、魔法を発動したばかりで硬直のあったサイドテールは、炎にその身を焼かれて絶叫とともにその場に崩れ落ちた。
「きゃああああーーーー!!」
「キクーーッ!!」
高い叫び声と共に、ウエと呼ばれていた男が地面を力強く蹴る。
スピードは先程よりも格段に上がっており、一瞬で俺のもとまで駆け込んでくると、高く振り上げたハンマーを脳天目掛けて振り下ろしてきた。
「南天流――――"風塵乱舞"っ!!」
だが、俺はハンマーが振り下ろされる前に、十にも届く数ほどの打撃を奴の体に叩き込むと、男はまるで突風に吹かれた木の葉のように吹き飛び、近くの大木に叩きつけられた。
その瞬間、今度は小鳥のようなナニカが、俺の周囲を飛び回りながら糸のようなモノを大量に吐きかけてくる。
おそらく式紙の女の目が覚めて、魔糸の男と合流したのだろう。
俺は周囲に炎を展開して糸を全て焼き払ったが、やはりこいつらは全員確実に息の根を止めないと、どこまでも執念深く追ってきそうだ。
「どうせ森はめちゃくちゃに荒れ果てちゃいましたし、後でリステル魔法王国には謝罪するとして……そろそろ決着をつけましょうか」
俺は両手を天に掲げると、周囲一帯に闇の魔力を展開させていく。
「すべて押しつぶれるがいい――"グラビティプレス・グランデ"!!」
天空から放たれた超重力波が、半径100メートル圏内に存在する全てのものを押しつぶし、圧壊させる。木々は紙屑のようにへし折れ、大地はひび割れて陥没し、鳥や獣は地面へと強く叩きつけられた。
「ぐわぁぁぁぁーー!」
「ぎゃぁぁーー!!」
そして、スキンヘッドの男と眼鏡の女もこの魔法から逃れることはできず、地面に叩きつけられ、全身血まみれになってそのまま動かなくなった。
目に光なく倒れ伏すおかっぱの女。
黒焦げになったサイドテールの女。
重力波によって、原形をとどめないくらいに圧壊されたスキンヘッドと眼鏡の女。
「……う、うぐ」
「おや……? まだ生き残りがいましたか……」
のっぽの男――確かオカとか呼ばれていたな。そいつは全身傷だらけになりながらも、まだかろうじて生きていた。
あれだけの攻撃を喰らってまだ生きているとは、最初の黒装束の男ほどではないが、こいつも相当にタフな男のようだ。
ふむ、せっかくだし尋問でもして、色々と情報を引き出してみるか。
ついでに"魔糸"の能力も貰っちゃうおかな~。俺は無理やりっていうのは嫌いなんだが、能力をコピーするときは
俺はニヤリ、と不敵な笑みを浮かべると、オカのもとへとゆっくりと歩み寄っていった。
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