第113話「臨時講師がやってきた」★
「おおー! ここが魔法学園か! めっちゃ異世界っぽい!」
「異世界っぽいって、異世界なんだから当たり前だろ……」
週末、俺は雫と共にリステル魔法学園へとやってきた。
日本では金曜日からの3連休真っ最中なので、学校は来週の平日5日間を休むだけで10日の日程を確保することができる。これくらいならインフルエンザにでもかかったと考えれば言い訳もきくだろう。
ちなみに、前回は中央庭園に転移して痴女扱いされたから、今回は人のいない屋上に転移した。なので、学園治安維持部隊に連行されるという悲劇は起きなかった。
「ほら、いつまでも全裸で景色を眺めてないで服を着るぞ」
俺は次元収納の中から、小さな家や学校の制服などを取り出して雫に渡す。
全裸であることを思い出したのか、雫はそれを受け取ると、顔を赤く染めていそいそと着替え始めた。
さて、俺も着替えるとしようか。
「お~、かわいい! 魔法学園の学生って感じ!」
制服を着て、くるりと回転しながら嬉しそうにはしゃぐ雫。
「魔法学園の学生なんだから当たり前だろ……」
「……お兄ちゃんなにその服? 制服じゃないの?」
雫は俺が着ている服を見て訝しげな表情を浮かべる。
「俺は学生じゃなくて教師なんだから、制服なんて着てたらおかしいだろ?」
「そのメガネは?」
「……女教師といったらメガネだろう?」
俺はそう言いながらメガネをくいっと持ち上げた。当然伊達メガネだが、こういうのは雰囲気が大事なのだ。
白のワイシャツにタイトスカート、そして黒いストッキング。スカート丈はちょっと短い気がするが……まあ許容範囲内だろう。
「うーん流石歩く18禁。ついに教師プレイにまで手を出すとは……」
雫が呆れたような顔でそんなことを言ってくるが、これは別に俺の性癖とかではなくて、れっきとした仕事着なのだ。まったく失礼な妹である。
「それより寮に行くぞ。ルームメイトが待ってるからな。ちゃんとルディア語は勉強してきたか?」
「…………ぴゅ~」
屋上の出口へと歩みを進めながら問いかけるが、雫はバツの悪そうな表情を浮かべて口笛を吹く真似をする。
こいつ……。
「お前なぁ……。ルームメイトは王女様なんだから、失礼のないように最低限の勉強はしておけって言っただろ。ちゃんとわかりやすいように俺が一から教材を作ってやったのに、なにをやってたんだよ……」
「だって異世界語難しいんだも~ん」
しょうがないやつだなぁ……。こいつは前世の俺と一緒で勉強はそんなに得意じゃないから仕方ない部分もあるが……。
「ほら、翻訳魔法の魔導書をやるから持っておけ。ただ、これは読み書きには対応してないから、ルディア語はちゃんと勉強しろよ?」
次元収納の中から、翻訳魔法の魔導書(呪文だけ日本語に翻訳済み)を取り出して雫に渡す。
「こんな便利な物があるなら最初から頂戴よ~」
「そしたらお前勉強しないだろ! いいか、ちゃんとルームメイトのアリエッタとこれなしで会話できるようになるまで、魔法は使いすぎるなよ?」
俺は雫に注意をするが、当の本人は早速魔導書をパラパラとめくると、呪文を唱えて自分にかけてしまった。
「お兄ちゃん、ルディア語でなんか喋ってー」
「はぁ……。どうしようもないですね、あなたは。授業で板書もしなきゃいけませんし、文字も読めないと困りますよ?」
「あ、わかるわかる。ふふ、お兄ちゃんこっちの言葉だとなんかかわいい! 普通の女の子みたい!」
こっちだと生まれた時から女だからな。むしろ男言葉で話す方が難しい。
楽しそうな雫を引き連れて、俺達は学園の寮へと向かう。道中、雫はすれ違う魔法学園の生徒や、学園の校舎などを物珍しそうにキョロキョロと眺めながら歩いていた。
「なんだか結構近代的な感じじゃない? 文明が遅れてるってお兄ちゃんが言ってたから、もっと古めかしいのかと思ってた」
「ここは特別なんですよ。教師や生徒だけでなく、用務員に庭師、調理師なんかも全員が魔法使い。そして、様々な魔道具が揃ってる影響で、他の国よりも魔法技術による文明の発展が著しいんです」
そこら中に利便性が高い魔道具が溢れてるからな。明かりを灯す魔力灯は当然として、暖房器具のようなものや、水道の役割を果たす魔道具まであるのだ。
「大浴場や水洗トイレまでありますからね。世界中の貴族や王族が留学してくるのも頷けるでしょう?」
「マジで!? 異世界だからもっと過酷な生活をしてると思ってた!」
まあ、ここまで設備が整ってるのは、ここと俺のソレルの街、それにベスケード帝国の帝都くらいだけどな。あとは雫が想像していたような中世のヨーロッパっぽい感じの世界だ。
ここがこれほど先進的なのは、火や水、光や風を生み出せる魔法使いがゴロゴロいるからだ。下水も神聖魔法の使い手に浄化してもらえばすぐに綺麗になるので、衛生面でも非常に優れている。
地理的に魔王軍の侵攻とも無縁だし、ここリステル魔法学園はこの世界で最も安全かつ快適な場所と言っても過言ではないかもしれない。
……おっと、そうこうしている内に女子寮に到着したぞ。
俺達は早速中に入り、管理人のおばちゃんに部屋の鍵を受け取ると、ルームメイトであるアリエッタが待っている部屋へと向かう。
扉をノックして中に入ると、そこには椅子に腰掛けて読書をしている茶髪のロリ巨乳美少女の姿があった。
「あ、ソフィアお姉さま!」
俺と雫の入室に気付いたアリエッタが、本を置いて立ち上がり、嬉しそうにトテトテとこちらに駆け寄ってくる。かわいい。
「アリエッタ、お久しぶりです。今日からルームメイトになる雫さんです。仲良くしてあげてくださいね」
「や、山田雫です。よろしくお願いします……」
人見知りはしない性格のはずだが、相手が王女様と聞いて緊張しているようだ。少し声が上ずっている。
「雫さんですね! 私はアリエッタと申します。今日から一緒に暮らすルームメイトとして、仲良くしてください!」
アリエッタはそう言って、雫の手を両手でぎゅっと握る。
「お、おお……。めっちゃかわいい……流石王女様。でも、王女様とルームメイトって大丈夫なの? 私、無礼なことしちゃって殺されたりとかしない?」
「ふふ、そんな心配しなくても大丈夫ですよ? この学園の門をくぐった者は身分に関係なく皆平等。それがこのリステル魔法学園のルールですから」
「……そうなんだ。じゃあ遠慮しないで仲良くさせてもらうね、アリエッタ!」
「はいっ!」
流石にコミュ力が高いだけあって、アリエッタにあっさり受け入れてもらえたようだ。よかったよかった。
「……ところでアリエッタっていくつ?」
俺とアリエッタの胸を交互にチラチラ眺めながら、雫が眉をひそめて質問する。
「13歳ですけど、それがどうかしましたか?」
「ええ……。異世界人って皆こんなにおっぱいが大きいの……? 私15歳なのにぜんぜん大きくならないんだけど」
雫がまるでモンスターでも見るかのような目で自分の胸とアリエッタの胸を見比べている。その様子を見て、アリエッタも不思議そうな表情だ。
「私とアリエッタが特別なだけだと思いますよ? この世界でも15歳なら雫くらいが普通だと思います」
中にはどこかのエルフみたいに、大人でも全然成長しないやつもいるけどな。こんなこと言ったのがバレたら殺されそうだから絶対口にはしないけど……。
「それじゃあ、私は明日の準備があるのでこれで失礼しますね」
「あれ? おに……ソフィアちゃん行っちゃうの?」
「ええ、明日から早速授業があるので……。私は隣の教員寮の方にいるので、何かあったら気軽に訪ねてきてくださいね」
「はい、お疲れ様でした! また明日!」
雫とアリエッタに見送られながら、俺は部屋を出て教員寮へと向かう。
部屋を出る時ちらりと後ろを振り向くと、早速2人が仲良くおしゃべりしているのが見えた。どうやら上手くやれそうみたいだな。
俺はうんうんと頷きながら、自分の部屋へ帰っていくのであった。
◆◆◆
(雫視点)
「雫さん、随分眠そうですが大丈夫ですか?」
「……うにゅ~。もっと寝たい~」
昨日は夜遅くまでアリエッタとおしゃべりをしてたから、睡眠時間が全然足りてない。まだ少し眠たいよ……。
だが、私は今魔法学園に通ってるのだ! 貴重な授業を無下にするわけにはいかない!
「これからソフィアお姉さまの実践魔法の授業があるので、遅れないように教室に移動しますよ?」
アリエッタはそう言って私の腕をぐいぐい引っ張ってくる。
そう、お兄ちゃんはリステル魔法学園の臨時講師として、"実践魔法"の教科を担当するらしいのだ。
実践魔法とはその名の通り、座学や魔法の発表会のようなものではなく、実際に魔族やモンスター、犯罪者などとの戦闘を想定した、より実戦的な魔法の授業らしい。
このリステル魔法学園では、日本の大学のように自分の受講したい授業を自由に選択できる。
私は水魔法と、魔力操作や魔法理論などの座学を中心に受講するつもりだけど、お兄ちゃんの実践魔法の授業も当然受けるつもりだ。
アリエッタは神聖魔法学科に通っていて、主に回復系や支援系の魔法を中心に学んでいるらしいが、私の付き添いで殆どの授業を一緒に受けてくれるみたいだ。まだ一日しか一緒に過ごしていないけど、この子はとても優しくていい子だ。
「うわ……結構混んでますね」
「ほんとだね」
教室に入ると既に席は殆ど埋まっており、私達は何とか端っこの席に座ることができた。
「……聞いたか? この授業の先生、めっちゃかわいいらしいぜ!」
「俺さっき見たぜ! ちっちゃくてかわいいのにすげーおっぱいデカいの!」
「私は有名な冒険者だって聞いたわ。どんなことを教えてくれるのかしら?」
なにやら周りがガヤガヤと騒がしい。すでに色々噂になってるらしく、お兄ちゃんの話題で持ち切りだった。まあ、あの容姿だし仕方ないか。
「ねえアリエッタ。前にある半透明の板ってなに?」
前方には黒板のような板が備え付けられているが、チョークも黒板消しも見当たらなかった。
「あれは魔力板です。魔力を流すことで跡が残るので、ペンなどを必要とせずに文字が書けるのです。もう一度魔力を流せば消えるので、何度も書き直しができるんですよ」
「へぇ~、それは便利だね~」
アリエッタとそんな話をしていると、ガラガラと音を立てて扉が開き、お兄ちゃんが入ってきた。
その瞬間、教室の中がざわざわと騒がしくなる。
「うお……マジでかわいいじゃん」
「私より年下じゃない? あんな子に先生なんてできるのかしら……」
「あれ……? 俺あの子どこかで見たことがあるような……」
様々な感想が飛び交う中、お兄ちゃんは大きな胸を揺らしながらつかつかと魔力板の前まで歩いてくると、こっちを向いてニコッと微笑んだ。
やっぱりあの恰好エッチすぎでしょ! なんでスカートの丈があんなに短いの!? 絶対漫画とかの女教師を参考にしたでしょ!
「今日から実践魔法の教科を担当することになりました、ソフィア・ソレルです。皆さんよろしくね」
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16818023213944406859
お兄ちゃんが挨拶すると、教室内から拍手が巻き起こる。そして、お兄ちゃんは魔力板に文字を書き始めた。
……うん、読めない。お兄ちゃんの書く文字は日本語でもアルファベットでもない謎の記号だった。あれが異世界の文字だろうか?
私が首を傾げていると、アリエッタが耳元で囁いてくる。
(……雫さん。あれはですね――)
わざわざ文字を言葉で翻訳をしてくれた。私はこれ以上この子に迷惑をかけないように、ちゃんとルディア語を勉強しようと心に誓うのだった……。
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