第112話「異世界洋菓子店」★
「いやはや、ここが異世界の店かい? いやぁ、思った以上に立派な店構えだ。文明が発達していないって聞いてたから、てっきり掘っ建て小屋みたいなのを予想してたんだけど、殆ど地球と変わらんじゃないか」
俺の隣で、並木野洋菓子店の店主であるおじさん――
地球での諸々の手続きが終わった彼は、本日、晴れて委員長の洋菓子店の店主代理として異世界デビューを果たすことになったのだ。
「ええ、水も電気も通ってますし、この店には殆ど地球と変わらない設備がありますよ。ただ、お菓子の材料は今のところ全て異世界で揃えることは難しいので、足りない物はリストを作成して貰えれば俺が地球から購入してきます」
「うん、何だかちょっとやる気が出て来たよ。お菓子文化の伝道師として、異世界のスイーツ業界に旋風を巻き起こしてみせようかな?」
そう言っておじさんは快活に笑う。
その後、店内を一通り案内すると、彼の弟子として一緒に働くことになる委員長を紹介した。
「く、
「ああ、ソフィアさんから聞いてるよ。色々大変だったんだってね。あまり固くならなくていいよ、私もソフィアさんには大きな恩があるし、一緒にお店を盛り上げていこう」
「はい! ありがとうございます! 私、頑張ります!」
委員長は緊張しながらも笑顔で答えると、2人は固く握手を交わした。
「それで、店員は私と来栖野さんの2人だけなのかな?」
「いえ、あとは番犬のポメタロウと、それにお隣の食堂から、ニーナという女性が助っ人に来てくれます」
俺がおじさんに説明すると、ポメタロウがトテトテと歩いてきた。おじさんはしゃがみ込むと、ポメタロウを抱き上げる。
『ワフーッ』
「おお、これは可愛らしいポメラニアンだね」
「ふふ、ポメタロウはこれでいて凄く強いので、遠出するときは一緒に行動してくださいね。俺の街は安全ではありますが、異世界では何が起こるか分かりませんから」
「ああ、肝に銘じておくよ。地球でもあんな事があったばかりだし、危機管理には注意しないとね」
おじさんが神妙な顔でそう言うと、ポメタロウがキョトンとした顔で首を傾げる。
しばらくおじさんと委員長がポメタロウをモフモフと撫でていると、不意に扉が開いて、1人の女性が店内に入ってきた。フィオナの食堂で働くニーナだ。
「こんにちは。私もこれからここで働くことになりました。宜しくお願いします」
ペコリと頭を下げるニーナ。彼女はフィオナの食堂で働いていたのだが、お菓子作りに興味があるということで、こっちに移動してもらうことになったのだ。
「……ちょ、ちょっとソフィアさん。私には言葉が分からないんだが……。やっぱりルディア語だっけ? 勉強しなきゃ駄目かい?」
ああ、委員長はルディア語の勉強を頑張ってたから、既に多少の言葉は分かるんだが、おじさんは完全な異世界初心者だからな。
「俺と隣の食堂にいるフィオナが翻訳魔法を使えます。ただ、2年は滞在するのですから、一応は覚えてもらった方が後々楽だと思います」
説明しながらおじさんに翻訳魔法を付与すると、彼は安心したように息を吐いた。
ふむ、もうちょっと翻訳魔法の魔導書を仕入れておいた方がいいかな。店にも一個置いておけばニーナにも使えるし、雫にも一つ持たせておいたほうがいいかもしれない。
その後、委員長とおじさんとニーナは、洋菓子店の開店に向けてあれこれと相談を始めたので、俺は店の外に待機していた三上くんとエヴァンのところに向かった。
「三上くんはどうですか? エヴァン」
「ああ、ソフィア。彼、凄くいいね。真面目だし、礼儀正しいし、街づくりに関しても斬新なアイデアを出してくれてさ。まだ若くて言葉もあまりわからないと聞いていたから、正直そんなに期待はしてなかったんだけど、色々助かりそうだ」
「きょうしゅくです。まだ、げんごもつたないですし、いたらぬてんはたたあるかとはおもいますが、よろしくおねがいします」
何と、三上くんは片言ではあるが、もうルディア語でエヴァンと会話まで出来るようにまでなっていた。全国でも上位の成績とは聞いていたが、ここまでとは……。
『クワーー!』
その時、空から1羽の鳥がふわりと俺の手に舞い降りた。鋭いくちばしと爪を持つ、見事な鷹だ。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16818023213829415481
「おお、
俺が頭を撫でてやると、鷹四郎は「クワッ!」と鳴いて嬉しそうに目を細めた。
この鷹は、俺がゴーレムコアによって作った新たなるゴーレムの一体である。ソレル農場とソレルの街の上空を縦横無尽に飛び回り、24時間体制で危険がないかを監視をしてくれているのだ。
え? いくらゴーレムだからといって、24時間ずっと空を飛ばせてるなんて、過労で倒れないのかって?
大丈夫。こいつは実は本体ではなく、魔力によって作られた分身体なのだ。本体はエヴァンの執務室でのんびりと過ごしている。
鷹四郎は、最大で3体の分身を生み出すことが可能であり、その視界を共有できる。更に、本体はその目からスクリーンのように映像を投影することもできるので、エヴァンは執務室からソレルの街全体を見ることが可能なのだ。
「いや、本当に鷹四郎には助かってるよ。ここまで万全の警備体制を敷いている街は、ミステール王国……いや、世界中を探したってないんじゃないかな?」
エヴァンが鷹四郎の頭をワシワシと撫でながらそう言うと、三上くんも相槌を打つ。
ちなみに、ポメタロウが委員長達の専属になってしまったので、ソレルの街にはドラスケと鷹四郎の他にもう一体戦闘用のゴーレムを配備してある。
そいつのお披露目はまた今度だな。楽しみに待っていてくれ。
「そうだ、そういえば三上くんも千里眼のスキルを持ってましたよね?」
鷹四郎の"鷹の目"に加えて、三上くんの"千里眼"まであれば、その監視能力は更に向上する。
そのことを尋ねると、三上くんは首を左右に振った。
「うん、でもおれはまかくがないから、ここじゃスキルはつかえないんだ」
ああそうか……。いくら空気中に魔素が溢れていても、ダンジョンの中じゃないから精神力と魔力のステータスがないんだ。
魔力石があればいいんだが、あれはマキナにあげちゃったしな……。何か次元収納に魔力の貯蔵庫になるようなアイテムでもあればいいんだけど……。
俺はごそごそと次元収納の中を漁る。
……お! これなんかいいんじゃないか?
取り出したのは、変な木彫り像だ。とにかく変な形の木彫りの像で、特段役には立たなそうな代物ではあるが、これは神聖樹から作られているので、抜群の魔力吸収効果を備えている。
「はい、これがあればスキルが使えると思うので、肌身離さず持っていてください」
「こ、これをはだみはなさず……?」
俺が変な木彫り像を三上くんに手渡すと、彼は引きつった顔でそれを受け取った。
まあ、多少(?)変なデザインではあるが、これでスキルが使えるのだから安い物だろう。
「よし! それじゃあ、そろそろ魔法学園へと向かいますかね!」
これで山田家だけでなく、ソレルの街の警備も盤石と言えるレベルまで整った。これならどちらも俺がしばらく留守にしても問題はないだろう。
こうして、俺はいよいよ魔法学園へと旅立つことにしたのだった。
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