第100話「そうだ、魔法学園に行こう」★

「うそ!? ソフィア、遂に人を連れて転移できるようになったの!?」


「はい、それで早速何人か地球からこっちに移住してもらおうと考えています」


 場所は変わって、ソレルの街。


 俺は食堂でフィオナとエヴァンに、三上くんと委員長をアストラルディアに移住させる話を持ちかけていた。


 エヴァンは優秀な部下ができると聞いて顔を綻ばせて喜ぶが、フィオナは少しだけ心配そうな表情を浮かべている。


「大丈夫なの? そっちの世界の人って女神のギフトや魔核がないんでしょう? 危険じゃない?」


「ふむ、確かに魔力を使えないと危険な事も多々あるが……。それは子供や魔力の殆どない非戦闘系のギフト持ちも同じようなものだろう?」


「それは……そうかもしれないけど」


「このソレルの街は、今やミステール王国で一番治安が良い場所と評判だ。ここなら、地球とやら出身の人間もそれほど危険はないのではないかな?」


「ええ、エヴァンの言う通りだと思います。ウェインら警備隊やドラスケもいますし、何より警備用のゴーレムももっと増やそうと考えていますから、余程のことがない限りは問題ないと思います」


 先日の北村の事件の反省を生かして、俺はもっと配下のゴーレムを増やそうと考えている。


 ゴーレムコアは非常にレアなアイテムだが、俺の知り合いに大量にストックしている女がいるので、近いうちに会いに行かなきゃだな。自分のアイテムを簡単に手放すような奴ではないので、交渉が少し面倒ではあるが……。


「ポメタロウやドラスケみたいなゴーレムを増やすの? なら、結構安全度は上がりそうね」


 アルトラルディアはモンスターや魔族の脅威がある世界だ。だが、このソレルの街に限っては絶対に俺が守ってみせる。例え八鬼衆だろうが、四天王だろうが、どんな脅威が迫ろうが絶対にな。


 それに、地球だってもはや安全な場所とは言い難いのだ。実際に北村の事件で委員長はあんな目に遭わされているわけだし、どこだって命の危険はある。


 なら、俺の身内で固められ、戦力の充実したソレルの街にいた方がむしろ安全だとさえ言えるかもしれない。


「守りますよ、今度は必ず……」


 ふんすっ、と鼻息を荒くしながら握り拳を作って決意を新たにしていると、フィオナが俺の頭をポンポンと撫でた。


「気負うのはいいけど、私達にも頼りなさいよ? 1人より、仲間と協力した方が安全に決まっているんだから」


「あ……」


 何をやってるんだ俺は……。先日、莉音にも仲間を頼れって忠告されたばかりなのに。


「……そうですね。フィオナも、そしてエヴァンもどうか頼りない私を助けてくれますか?」


 俺は素直に頭を下げてお願いした。するとフィオナとエヴァンはお互いに顔を見合わせて「「当たり前でしょ(だろ)」」と、にっこりと笑いながら頷く。


「ふふ、私も暴食のグリモワールで色々できるようになったから、サポートは任せておきなさい」


「ああ、最近のフィオナは凄いぞ。料理だけじゃなく、水魔法で街の水資源問題も解決してくれたし、神聖魔法で怪我人の治療なんかもしてくれるしな」


「おぉ……それは頼もしいですね」


「ええ、魔法を使えるようになったら、ちょっと楽しくなっちゃってね。ソフィアに貰った百腕巨人の腕輪のおかげで魔力も全然減らないし、俄然やる気が出てきちゃったの」


 フィオナは左手首にはめている腕輪を撫でながら、楽しげに微笑んだ。


 流石はエルフというべきか。元々高い魔力を持ってるとは思ってたけど、これはひょっとすると、俺が思っていた以上の魔法の達人になる素質があるんじゃないだろうか? 俺もうかうかしてられないな。


「だけど、この街にも神聖魔法使いが1人くらいは欲しいわね。私はまだヒールの魔法しか使えないし、ソフィアがいない時は大きな怪我や病気に対応できないし……」


 そう言って考え込むフィオナ。


 確かに神聖魔法を使える人間がいれば、助かるんだが……。しかし、そもそも神聖魔法の使い手というのは、この世界でも珍しいのだ。優秀な人材となると、なおさら数が限られてくるだろう。



 そんな事を考えていると――



「お兄様! ソフィアお姉さまがいらっしゃってるって本当ですの!?」


 突然、食堂の扉が大きく開けられたかと思うと、そこから1人の少女が姿を現した。


 美しい茶髪のストレートヘアに大きな青い瞳をしたその少女は、俺を見るなり嬉しそうに微笑むと、トテトテと駆け寄ってくる。そして、そのまま俺の胸に飛び込むと上目遣いで見つめてきた。


「お兄様に聞いていた通りとても素敵な方ですわ……。お会いできて光栄です、ソフィアお姉さま!」


「え~と、君は……?」


 いきなりのことで困惑する俺に、彼女はハッとした表情を浮かべると、慌てて姿勢を正して自己紹介を始める。


「失礼しました! 私、アリエッタと申します。ミステール王国の第4王女をしております」


 【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16818023212560225821


 アリエッタと名乗った少女はそう言って、深々とお辞儀をする。それに合わせて彼女の頭のてっぺんにあるアホ毛が、ぴょこんと揺れた。


 王女様というとエヴァンの妹か。確か神聖魔法のギフトを持っていて、ネラトーレル王国の王都グヘヘに聖女修行に行ってるって聞いてたけど……。


 いや、イケメンのエヴェンの妹なだけあって、めっちゃ可愛いなこの子。歳は俺の肉体年齢よりも少し下くらいか?


 それにしても……。


「……どうかなされましたか?」

 

 う~ん……。この子、俺に匹敵するレベルのロリ巨乳体型だな。背は俺よりも小さいのに胸の大きさはいい勝負だ。よくあのネラトーレル王国に留学して無事でいられたもんだ……。


「いえ、なんでもないです。アリエッタ様ですね。私もお会いできて嬉しいです」


「アリエッタと呼び捨てになさって下さい。将来は私のお姉さまになられるお方なのですから」


 そう言って、満面の笑みを浮かべるアリエッタ。


 俺はジロリとエヴァンを睨みつけると、彼は困ったように頭を搔いた。


「いや、誤解だよソフィア。確かに君とそういう関係になれたらいいな、とは言ったことはあるが、それを妹が本気にしているとは思わなくてだな……」


 言い訳するエヴァンを尻目に、アリエッタは俺の腕を取ると、嬉しそうに頬をすり寄せてくる。


 これは……俺のお兄ちゃんセンサーに反応あり! この子は確定で妹系だ!


 俺こういう子には弱いんだよ……。どうしてもお兄ちゃんとしては甘やかしちゃうんだよな~。


「それで、アリエッタはグヘヘ大聖堂で聖女修行をしていたはずだが、どうしてここに?」


「はい、お父様がリステル魔法学園に編入しなさいと仰って……。それで一度ミステール王国へ戻ってきたのですけど、せっかくなのでお兄様に会いに行きたいと思いまして」


 なるほど、そういう事情か。てか何でこの子をグヘヘ大聖堂に行かせたんだ? 最初からリステル魔法学園に入学させれば良かったのに。


 アリエッタ級の美少女だったら、魔王軍の侵攻がなかったら絶対にあそこの王族や貴族か司祭あたりに食われてたぞ。もちろんあっちの意味合いで。俺はしばらくグヘヘ大聖堂に滞在していたことがあるから詳しいんだ。


 そう考えると、魔王軍の侵攻はある意味アリエッタの貞操を守ってくれたとも言えるのか?


「でも、やっぱり遠い異国の地に1人で行くのは不安です……」


 そう言って、少しシュンとした表情を浮かべるアリエッタ。


 ふーむ、そうか……。確かにリステル魔法王国は魔王軍の侵攻とは無縁な国だが、お隣のネラトーレル王国と違って、ミステール王国からはかなり離れているから1人じゃ不安だよな。


「ううむ……だが、あそこの学園に留学するには、魔法のギフトや実績がないと厳しいからな。今、アリエッタの付き人として派遣できそうな者は……」


 エヴァンはチラリとこちらに視線を向けてくる。


 ふむ、魔法のギフトや実績か……。


「…………」


 そうだ! いいことを思いついたぞ!


 せっかくだし、雫のやつをリステル魔法学園に通わせるか。あいつも一度魔法についてしっかりと勉強してみたいと言っていたし、異世界にも行きたがってたからな。


 魔核を持っていて、ユニークスキルまで所持してるあいつには、俺が守らなくても自衛できるくらいには強くなってもらいたいところでもあるし……。


 数ヶ月間の短期集中コースなら、日本の学校を一週間か長くても二週間休むだけで何とかなるだろう。


 年も近いし、アリエッタのルームメイトとして一緒に通わせれば、お互いにいい刺激になるはずだ。それに、雫ならアリエッタともすぐに友達になれると思うしな。あいつはコミュ力高いし……。


「よし、それでは私の知り合いの女の子を1人、リステル魔法学園に編入させましょう。とてもいい子なので、アリエッタの話し相手にもなってくれますし、きっと仲良くなれますよ」


「本当ですか!? ありがとうございます、ソフィアお姉さま!」


 アリエッタは嬉しそうに微笑むと、再び俺に抱きついてくる。うむ、やはりロリ巨乳はいいな。俺も同じようなもんだけどな!


「そうだ、せっかくなのでフィオナも一緒に通いませんか?」


「いえ、私は遠慮しておくわ。お店もあるし、ルルカ達を置いていくのも心配だしね……。魔法はあんたが部屋に置いていった大量の本があるから、それで勉強させてもらうわ」


 まあ、フィオナには本業があるしな。それに、このエルフは独学でも勉強が出来てしまう天才肌なところがあるし、わざわざ学校に通う必要もないか。


 ならばあとは、雫を短期留学させる件について母ちゃんを説得するだけだが、何とかなるだろう。たぶん俺が一緒なら許してくれるだろうし……。


 どうせなら俺もしばらく魔法学園に滞在するか。俺はあそこの卒業生なのだが、前に学園長に、非常勤でいいから講師をして欲しい、と頼まれたことがあったのだ。結局その時は断ってしまったが……。


「ふうむ、一度リステル魔法王国へ行って、学園長に確認してみましょうか……」


 よし! そうと決まれば早速行動だ。


 まずは学園長と面会して、それで色々決まったら次はゴーレムコアの入手だな。その後は、地球に戻って雫を魔法学園に通わせられるように母ちゃんを説得しないとな。


 俺は頭の中で計画を立てると、フィオナ達に挨拶をしてから、リステル魔法王国へ転移したのだった――。





──────────────────────────────────────

これにて三章は終了です。なんと丁度100話達成!

ここまで追いかけてくれている読者の皆様、本当にありがとうございます。


アリエッタと雫と共に、リステル魔法学園へやってきたソフィア。魔法学園の非常勤講師として、のんびりまったり学園ライフを送ろうと考えていた彼女だったが……。やはりトラブルは向こうからやってくるようで……?

四章はもふもふキャラが増える!? 乞うご期待!


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