第093話「聖天大魔導」★
「――――"
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16818023212190423391
俺の体を眩い光が包み込むと同時に、着ていたシスター服が光の粒子になって消滅し、瞬時に別の服装に変化する。
黒を基調にしており、所々に赤と金の装飾が施された、魔法使いを思わせるようなデザインのドレス。頭にはとんがり帽子が被せられ、その風貌はまさに魔女と呼ぶに相応しい。
これが、"天衣五宝"の三つ目、聖天大魔導だ。
この衣装は、天衣五宝の中で最も魔法を扱うのに適しており、魔法が十八番の俺との相性は抜群である。
魔力量、魔力自動回復量、魔法威力など魔法に関する様々なステータスが増大し、魔力操作も巧みになる影響で、二つの魔法を同時に発動することも出来るようになる。
更に、通常の魔法使いは一つの属性の魔法しか扱えないが、これを身に着けている間は、何と全属性の魔法を扱えるようになるのだ。
まあ俺は、火、水、氷、土、風、光、闇、雷、神聖、無属性のうち、雷を除いた9属性の魔法のギフトを持っているので、得られる恩恵はそこまで大きくないが、普通ならチート級の性能と言えるだろう。
ちなみに、俺がなぜ雷魔法のギフトを持っていないかというと、アストラルディアでも雷魔法のギフトを持ってる人間自体が殆どいないからだ。
有名どころでは、特級冒険者の【天雷の魔法騎士】"ゲイリー・スメイギラ"という雷魔法のスペシャリストがいるのだが、彼は女嫌いで有名であり、俺はそれを知らずに彼を誘惑しようとしてしまい、怒り狂ってめちゃくちゃな罵倒を浴びせられたという過去がある。
正直、俺は転生してから自分が美少女だという自信があったので、容姿をボロクソに言われて酷く傷心した。
まあ、そんなわけで、雷魔法は諦めたという訳だ。
……話を戻そう。
ちなみに、この聖天大魔導にも大きなデメリットがある。それは、物理攻撃力と物理防御力、敏捷性などが著しく低下してしまうという点だ。
拳王である俺ですら、一般人に毛が生えた程度の動きしか出来なくなってしまうのだ。なので、チート級の性能である反面、使いどころが難しい。
「ま、だが今回はここからもう動く必要すらないがな」
俺は両手を広げると、即座に魔力を練り始める。一瞬にして膨大な量と質の魔力が収束し、バチバチと激しい音を立てて、空中に放電現象を引き起こす。
「天より降りし稲妻よ、万物を貫き破壊する槍となれ! その猛き雷で、愚かなる暗黒龍を滅せよ!」
突如、空が真っ黒な雲に覆われ、ゴロゴロと雷鳴が轟き始める。次の瞬間、俺は練り上げた魔力を一気に解放させた。
『――――"ライトニング・ジャベリン"!!』
天空から眩い光と共に巨大な雷槍がバザルディンに向かって落下し、その巨体を一瞬で貫く。
すると、凄まじい電撃が迸り、周囲の建物の窓を粉々に吹き飛ばし、人々の持っていたスマホやテレビカメラが電撃でショートし、煙を上げて炎上した。
巨大な羽は焼け焦げて、体に大穴を空けたバザルディンは、力無く地上へと落下していく。
人々はカメラが壊れた影響で我に返ったのか、空からゆっくりと落ちてくるバザルディンを見て、悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。
「"ホーリープリズン"!」
周囲に被害が出ないように、落下地点に光の牢獄を作り、バザルディンの巨体を拘束する。それと同時に、俺は地上に降り立ち北村と向かい合った。
『が、が、が、馬鹿な! この僕が……最強無敵のバザルディンがぁぁ!』
再生を始めるバザルディンの体は、先ほどまでよりも明らかに回復速度が遅くなっていた。元々は魔石を失った、ただの剥製。北村がスキルによって操っているので、奴の魔力が尽きればこの黒龍も動かなくなる。
『まだ僕は――――ゴヒュッ!』
俺は再生途中のバザルディンの頭部を、魔法で生み出した光の剣で両断した。だが、すぐに頭部は再生し、北村は再び悪態を吐き始める。
『お前ふざけ――――ガヒョッ!?』
喋ってる途中だったが、再生が終わる前に再び首を刎ね飛ばした。
聖天大魔導を身に着けた今の俺なら、ホーリープリズンでこいつを拘束しながら、いくつもの魔法を扱える。しかも魔力は自動で回復していくので、魔力切れの心配もない。
逆にこいつは再生する度に魔力を消費するので、どんどん弱っていくという寸法だ。もはやこいつに勝ち目はない。
『やめ――――』
北村が何か言い終わる前に、その首と胴を延々と切り離し続ける。そして遂には、言葉を発することもなくなったバザルディンの体は、ビクビクと痙攣した後、完全に動かなくなった。
「ふー、流石にそろそろ魔力切れか? 手間かけさせやがって」
俺はバザルディンにトドメを刺すべく、次元収納から
「いやー! 凄いですね! まさかバザルディンを一人で倒してしまうなんて!」
アナウンサーのお姉さんが、興奮した様子で話しかけてきた。カメラもマイクも雷で完全に壊れてるいうのに、何というプロ根性だろうか。野次馬達も遠目から歓声を上げている。
「あれ? あなたは先ほどのシスターさんではない? 何か、よくわからないけどちょっと違うような……」
お姉さんが俺の顔を覗き込んで来ようとするので、俺は帽子を目深に被って顔を隠した。
慈愛の聖衣から着替えたので、認識阻害の効果が消えたんだ。先程の俺の一撃で、周囲一帯のカメラは壊れてるから、俺の素顔がネット上に公開されることはないが、顔を覚えられると後々面倒なことになりそうだからな。
「いえ……。それよりまだ終わってないので離れていて下さい」
俺の素顔を確認しようと、左右に動いてウザいムーブをかましてくるお姉さんを何とか引き離した。
北村の魂は瀕死だが、まだ完全に死んでいない。もう殆ど魔力は残っていないだろうから、放っておいても数時間も持たないだろうが、念には念を入れてトドメを刺しておく。
――だが、俺が魂を刈り取ろうとした瞬間。
突然バザルディンの体から、半透明の黒いモヤのような物が大量に溢れ出した。体はまるで心臓のように激しく鼓動し、徐々にその大きさを増していく。
「こいつまさか! "ホーリープリズン"! 出力全開! お姉さん! それと見物してる人! 早くそこから離れて!」
急いでバザルディンを拘束していた光の牢獄を強化すると、周囲に避難指示を出す。しかし、人々は未だ危機感を覚えていないらしく、バザルディンと俺を交互に見ながら困惑の表情を浮かべている。
やがて、バザルディンの肉体は膨張を続け――
――ドガアアアアンッ!
凄まじい轟音と共に、その巨体が弾けるように飛散し、周囲一帯に凄まじい爆風を巻き起こした。
ホーリープリズンでその威力はかなり抑えられたが、それでも衝撃で辺りの建物が倒壊し、人々が吹き飛ばされていく。
「きゃーーーー!」
「うわぁぁぁ!」
「ソイルコントロール! ホーリーシールド!!」
俺はとっさにソイルコントロールで土のクッションを出現させ、周囲の人々を受け止めながら、ホーリーシールドで落下してきた瓦礫を防ぐ。
幸いなことに、怪我人はいるようだが死者は出ていないようだ。だが、瓦礫の下に挟まれて身動きの取れない人もいるようで、早く救助する必要がありそうだ。
「北村は!?」
即座に霊視を発動させて辺りを注意深く見回していくが、北村の魂は見当たらない。
自爆して俺を道連れにしようとしたのか? いや、あいつがそんな終わり方を望むとは思えない。爆破で隙を作り、最後の力を振り絞って野次馬の誰かに憑依した可能性の方が高い気がする。
だが、スマホが壊れ、バザルディンもいなくなったことで、野次馬達は今になってようやく我に返り、悲鳴を上げながら皆散り散りに逃げ出し始めた。
どうする!? 全員昏倒させるか!? いや、現実的じゃない! それに怪我人の治療もしなければ!
俺が逡巡していると、突如スマホの着信音が鳴り響く。莉音からだ。
《――もしもし、ソフィアさん? テレビに映ってたシスターってソフィアさんでしょう? 今の状況を説明して》
「莉音さん、実は――――」
再び慈愛の聖衣に着替えて、魔法で瓦礫を退けたり、辺りに回復魔法の雨を降らしながら莉音に簡潔に事情を説明する。
《なるほど。うん、ソフィアさんは良くやったと思うよ? きっと北村容疑者は最初からバザルディンに憑依して、追っ手を皆殺しにして街を破壊しつくしたあと、悠々と逃げるつもりだったんじゃないかな? 私と多田野くんだけだったなら、もっと大惨事になってたよ》
莉音に慰められるが、どうしても申し訳なく思ってしまう。俺がもっとしっかりしていれば、被害は最小限に抑えられたはずだ。それに、今この瞬間にも新たな被害者が出ているかもしれない。
《街は多少壊れたかもしれないけど、死人も出さず、怪我人も全員治療出来そうなんでしょう? 上出来だよ。悪いのは全部あの男なんだから》
「でも……。私はあいつを取り逃がしたかもしれないのに……」
《ソフィアさんって、戦闘能力はめちゃくちゃ高いみたいだけど、精神面は外見相応なんだね》
莉音の言葉に、思わず顔が赤くなる。
精神面の脆さ。それは師匠のガーライル老にも度々指摘されていたことなので、自覚はしている。だが、こればっかりは克服しようと思ってもなかなか難しい。
《あのね、1人であまり背負い込まないでね。ソフィアさんが駄目だったら、私なんて今回全然役に立ってないじゃん! 本当はAランクの私が一番活躍しなきゃ駄目なのにさ》
「そんなことは……。でも、私がちゃんとしてれば――」
《……ソフィアさんはさ、1人で何でもやろうとし過ぎじゃないかな? 貴方はもっと仲間を頼った方がいいよ》
「仲間……ですか?」
《そう、私なんてAランクだけど、仲間がいなけりゃ全然だよ。どんなに強くても、人は1人で出来ることなんて限られてるんだからさ、皆で協力しあって困難を乗り越えて行こうよ! ほら、多田野くんに代わるね》
莉音にそう言われた直後、電話の向こうから多田野さんの声が聞こえてくる。
《よう、ソフィア。お前の危惧した通り、確かに北村の奴はまだ生きてるな。消滅寸前って感じではあるが……立川の方向にゆっくり移動している》
「え? そこから北村の居場所がわかるんですか!?」
《お前、WEAの特殊能力対策部隊を舐め過ぎだろう。俺達は能力犯罪者に対するスペシャリストだぜ? もっと俺達を信用しろよ。さっき奴に触れた時に"マーキング"をしておいたんだ。1人だけならどれだけ距離が離れていても、居場所は手に取るようにわかるぜ?》
マジか、この人すげぇ有能だぞ! しかしやっぱり生きてたのか。くそ、俺だけ失態ばかりじゃないか……。
「すみません……。私が奴を仕留めそこなったばかりに……」
《いや、何も問題ねーさ。嬉野の言った通り、俺達だけじゃバザルディンを止めるのは難しかった。北村の肉体は死亡して、魂はもう満身創痍。そして、俺達は誰一人失っていない。あとは追いつめてトドメを刺す。これで万事解決だろ?》
「……そうですね。はい、ありがとうございます!」
多田野さんと莉音の言葉が、俺の心にのしかかっていた重りを溶かしてくれたような気がした。彼らと一緒に来て、本当によかったと思う。
《しかし、完全憑依とやらを使われると厄介だからな。早めに捕まえたいところだが……》
「それなんですが――」
俺は多田野さんに、とっておきの作戦を説明する。
《……お前なぁ。そういうことはもっと早く言っておけよ。俺が奴にマーキングした時点で、ほぼ終わってんじゃねーか。はぁ……まあいい、反省会は全てが済んだあとだ。死んだ北村の肉体の方は嬉野に任せて、俺は立川へ向かう。駅前で合流しよう。怪我人の治療が一通り終わったら、お前もすぐに来い》
多田野さんは呆れたようにそう言うと、通話を切った。
「はぁ……。私、ダメダメですね……」
スマホをポケットに入れ、魔法で瓦礫を片付けながら思わず溜め息が漏れてしまう。2人の有能さに比べて、俺だけ終始から回ってた気がする。
異世界のモンスターや魔族は、人間よりも遥かに強大な力を持っているが、彼らはなんというか……はっきり言うと"脳筋"なのだ。
力こそパワー! といった感じで、あまり戦略とかそういうのを考えない。四天王のグリムリーヴァは別枠として、他のモンスターや魔族はとにかく攻撃一辺倒で、人質を取ったりするような搦め手はまず使わない。
そんな環境に慣れ過ぎて、俺も脳筋思考に毒されてしまっていたのかもしれない。
「仲間……か」
俺は転生してからずっと1人で戦ってきた……。だから、今回も俺がやらなきゃ、1人でどうにかしなきゃって焦っていたけど。そうか……俺はもう、1人じゃないんだな。
パァンッと頬を叩いて気合を入れ直す。今は落ち込んでる場合じゃない。反省は後回しにして、北村を完全に仕留めることだけを考えるんだ。
そして、数分後――怪我人の治療も終わり、救急車やレスキュー隊が到着するのを見届けた俺は、再び箒に跨って猛スピードで目的地へと向かうのだった。
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